突然のライバル
レオンがカレンと両思いになってから数日が経った。あとはカレンと結婚すれば国も魔族軍から守ることができるし、カレンともずっと一緒にいられる。
カレンは両思いになってからも随分と結婚を渋っていたが、ようやく観念してくれた。今日はカレンを城に連れて来てレオンの家族と顔を合わせる日だ。
「ねえレオン、服装おかしくないかしら?人間のしきたりとかよくわからないのよね……時代もどんどん変わっているし、今のトレンドがどういうものなのかわからないのよ」
くるり、とその場で回転してカレンが尋ねてくる。正直言ってそんな堅苦しいことを考えなくても問題ない。だってカレンは結婚相手であり、国を救う救世主になるのだから。
「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。カレンは国を救う大事な存在だし、もっと堂々としていてくれていいんだから」
それに何より、カレンはどんな服を着てても似合うし可愛いのだ。
「そういうことじゃないんだけど……」
ムゥ、と膨れつらになるけれど、そんな所もまた可愛い。レオンにとっては何をしても可愛いのだ。
そんなことを言っていたら、ふとカレンの表情が一変して曇る。眉間に皺を寄せて臨戦態勢のような気迫になる。
「カレン、どうしたの……」
カレンの視線の先を追うと、そこには今までいなかったはずの人の姿があった。
「あれは……!」
レオンは思わず剣を構える。長い黒髪に端正な顔立ち、スラリとした体を覆った黒いマントを靡かせて佇んでいるその人影は、国を襲ってきている魔族軍の主、魔王だ!
「何しに来たのかしら、ギル」
カレンがそう言うと、魔王はふっと微笑んだ。
(うわ、魔王ってこんな風に笑うのか?!というか、魔王とカレンは知り合いなのか……)
「やあ、カレン。久しいね。今日も変わらず美しい」
魔王ギルはカレンの前に跪いてカレンの手をとり、口付ける。っておい!何してんだよ!レオンは激しく動揺する。
「やめて。あなたにそんなことされる筋合いはない」
手を振り払い冷たい視線を向けるカレン。
「あぁ、そんなそっけない態度も相変わらずそそるね。君を落とすためなら何だってするのに」
「言ったでしょう、私より弱い相手は好きじゃないの」
プイッと顔を背けるカレンの顎を掴んで、魔王は無理やり自分の方へカレンの顔を向けた。
「本当に強情だな、そんなことより今日は一段と綺麗に着飾っているようだけれどどうしたんだ?そこにいる弱そうな人間の男も気になるし」
カレンの顎を掴みながら魔王ギルはレオンに視線を向けた。そこには冷酷さと同時に憎悪めいたものも感じる。なんて恐ろしい目なのだろうか。
「私、彼と結婚するの。今日は彼のご家族に挨拶へ行くのよ」
カレンは自分の顎を掴んだ魔王の手を掴んでギリギリと力を籠める。とても痛そうだが魔王はびくりともしていない。
「はっ?人間の男と結婚?君が?ははは、ははははは!冗談はよしてくれよ。君は弱い男は嫌いなんだろう。あの男は見るからに弱そうじゃないか。……そうだな、今ここで殺してしまっても構わないだろう」
ヒュンっと風の切る音がして驚くと、一瞬でレオンの目の前に魔王がいた。