花束
「結婚してください」
カレンの目の前には今、一人の男がいてプロポーズをしてきている。
彼は一国の王子で、名前はレオン。国が魔族に滅ぼされそうになっているので結婚したいそうだ。彼の国の言い伝えではドラゴンと契りを結べば何でも願いが叶うらしく、カレンと結婚して国を救いたいらしい。ただそのためだけに飽きもせず毎度毎度せっせとプロポーズをしに来ている。
だからこれはただの儀式のようなもの、のはずだった。
「君のことが本当に好きなんだ。離れている時も君のことばかり考えてしまう」
最近追加された言葉だ。今まではこんなこといっさい口にしたことがなかったのに、突然どうしちゃったのかしらとカレンは思う。
「急にどうして?今まではそんなこと一度も言わなかったじゃない」
フン、とカレンは顔をそらしてみる。どうだ、こんな態度をとってみればきっと生意気なやつだと呆れるに違いない。
そう思って横目でレオンの顔を見てみると、予想に反してとても愛おしいものを見るような瞳でカレンを見ている。
(え、え、な、何でそうなるのよ?!)
「今までは国のためにプロポーズをしてきた。それは今だってもちろん変わらないよ、国を救いたいからね。でも、今はそれだけじゃない。本当に君のことが好きなんだ」
そう言って跪き、花束を目の前に差し出した。そこには色とりどりの華やかで可憐は花達が咲き誇っている。
(すごい!なんて綺麗な花束なの?!)
「プロポーズの答えに関わらず、受け取ってもらえないかな?」
青みかかった黒髪が風に靡いてふわり、といい匂いがする。サファイア色の綺麗な瞳が真っ直ぐにこちらを見ていて、目が反らせない。
「……花束に罪はないから、もらっておくわ」
カレンがゆっくりと手を差し出して花束を受け取ると、レオンはとっても嬉しそうに微笑んだ。
「よかった。受け取ってもらえなかったらどうしようって実はドキドキしてたんだ」
ハニカミながらそう言うレオン。今まではどんなに断られても気にせず一方的にプロポーズしてきたくせに、何だか調子が狂ってしまう。
「あんまりしつこいと嫌われてしまうから、今日はこの位にしておくよ。また明日会いに来るね」
(何だ、もう帰っちゃうんだ。……って違う違う、なんでちょっとがっかりしてるのよ。絆されたら負けなんだから!)
「別に待ってないし、勝手にすれば」
生意気なことを言えば今度こそ可愛くないやつだと呆れてくれるだろうとカレンは思ったが、相変わらずレオンは嬉しそうだ。
(えぇ、何でそうなっちゃうのかな?)
レオンの後ろ姿を眺めながら、カレンは思わずため息をついた。