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その瞳に恋をした

 ギルは背後から振り下ろされた斧を間一髪で退ける。そこにはメイドの姿をした一人の女がいた。


(気配を全く感じられなかったぞ、いつからそこにいた?)


「遅くなったな」

「師匠!!」


(師匠?この女、メイドの服を着ているのに王子の剣か何かの師匠なのか?)


 ヒュン!!ドゴオオオオン


 いつの間にかまた攻撃を繰り出されている。移動速度が速い。しかも斧が振り下ろされた地面は先ほどと同じように衝撃で大きくえぐられている。どうやら魔力で斧を強化しているようだ。


 面白い、確かに王子よりは手応えがありそうだ。だが、所詮は人間。


「ギル様!」

「手出しは無用だ」


 部下へ余計な真似をさせないように指示してから、何度か攻撃を交わしつつ距離を詰める。そしてギルはあっという間にレオンの師匠であるその女の首に手をかけた。


「ふん、少しは楽しめると思ったが、この程度か」

 首にかけた手に力を込めるが、女は微動だにしない。苦しそうな表情すら見せないとはつまらない女だ。そう、思った次の瞬間。


 ニヤァ


 無表情だった女は、突然静かな笑みを浮かべてギルを見つめている。


(なんだ、苦しさでおかしくなったか。いや、そんな感じではないな、一体なんなんだ。心がざわざわする)


「……これがカレン様に振られ続けた男か」

 微笑みながらひどく憐れんだような瞳をギルに向け、その女はポツリと一言そうつぶやいた。


 ドンガラガッシャーン


 まるで雷が落ちたかのように身体中に電流が流れるような感覚。


(な、な、な、なんだこの女?!)


 気がづくといつの間にかギルは女の首から手を離していた。なんなら少し後退りしてたかもしれない。


「師匠!」

「大丈夫ですか?」

 王子とカレンがその女の元に駆け寄る。女は力なくその場に崩れているが、無表情だ。


「問題ない」

 そう言って女はふう、と一つ息をした。その仕草にギルは目が離せない。


「ギル様?」

 部下の声にハッと我にかえる。これは、これはまずい、まずいぞ。


「帰る」

「えっ?!ギル様?!そんな……」


 チラリと女の方を見ると、パチリと目があった。その瞬間、ドクン!と心臓が跳ね上がるのがわかる。まずい、これは本当にまずいことになった。


「また来る」

 そう言ってギルは部下と共に自分の領地へ転移魔法で移動した。




「ギル様!一体どういうことですか!あの女、あのまま殺してしまえばよかったのでは」

「うるさい!いいか、あの国にもあの女にも手は出すな!!俺の了承なしにあの国に向かうことも禁ずる!!」


 そう言って自室にこもってから、ギルはさっきあった出来事を何度も思い返していた。


『……これがカレン様に振られ続けた男か』


 あの声、華奢な首に見事な斧捌き……思い出すだけでゾクゾクする。何より、あの憐れむような瞳に見つめられた時の衝撃は今でも忘れられない。


(あの無表情だった顔が俺を見て憐れむように表情を崩したんだぞ。他にどんな表情をするんだろうか。あの女の他の表情も、姿も、声も、全てを知りたい)


「参ったな……」

 ギルはあろうことかレオンの師匠に惚れてしまっていた。


(カレンは心変わりしたことを怒るだろうか?いや、そもそもカレンは俺のことなど眼中になかったからな。今更心変わりしたところでなんとも思わないだろう、むしろ喜ぶかもしれない。いや、しかしあの男の師匠か……会いに行くとなるとあの国にまた行かなければならないし、あのいけ好かない男の顔を見なければいけないのか)


 机に突っ伏しながらふう〜とため息をつく。そうしながらもギルはまたレオンの師匠のことを自然と考えてしまう。


(いや、だがやはりあの女にまた会いたい。会って知りたいんだ、あの女のいろいろな表情、仕草、言葉を)


 突っ伏していた顔をあげ、ギルはふんすと鼻息を荒くした。




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