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弱くなんてない

 カレンとレオンの前に魔王ギルが現れてから1週間が経った。カレンとレオンの家族との顔合わせは無事に済んだし、その後もカレンは変わらずレオンを好きでいる。


 顔合わせ以来、カレンはちょくちょく城へも遊びに来てくれている、というよりもレオンが連れて来ている。城はもとより、国のことをよく知ってもらいたくて少しずつだけど案内をしているのだ。


 結婚へ順調に進んでいるように思えるけれど、魔王ギルが現れてからレオンの心は一向に晴れない。一瞬で自分の命を奪えるような奴が、カレンにずっと片思いをしていたなんて。

 しかもギルが言うには、カレンはカレン自身より弱い男には興味がないと言ってギルを振っていたそうだ。


(そんなの、俺なんてめちゃめちゃ弱すぎるじゃないか)


「どうしたの?」

 カレンが顔を覗き込んで聞いてくる。レオンがずっと浮かない顔をしてることを気にしてるようだ。


「……カレンはどうして俺なんかと結婚しようとしてくれたの」

 ぽつり、と疑問を口にするとカレンは首を傾げて心底何を言っているのかわからないと言うような顔をしている。


「どうして、ってあなたを好きになったからよ?今更どうしたの?」

 さも当然だと言うような顔でそう言ってくるけれど、レオンは納得がいかない。


「……ギルに瞬殺されそうなほど弱い男なのに?」

  レオンの言葉にカレンは一瞬目を丸くして、すぐに大笑いをした。なんだよ、笑うことないだろとレオンは思う。


「やだ、もしかしてギルの言ってたこと気にしてるの?そんなの気にしなくていいのに、あなたはただの人間なのよ?そしてギルは魔王よ。魔王にただの人間が勝てっこないじゃない。しかもあなたの国を滅ぼそうとしている魔族の長だもの、なおさらだわ。だからこそ、あなたは私を頼ってきたんでしょう?」


「それはそうだけど……」

 カレンの言うことはごもっともだ。だからこそ、レオンは腑に落ちない。というか、不甲斐ないのだ。弱い自分は自分だけでは何もできない。国一つ守ることができないから竜族の娘に頼らざるを得ない。そしていつの間にかその竜族の娘に本気で惚れてしまっていたのだ。


 城の敷地内も城下街も国全体をも一望できる城の上部の一角にレオンとカレンはいて、カレンはゆっくりとその風景を眺めながら微笑んでいる。


「あなたの国はとても美しいわね。あなたがこの国を守りたいという気持ち、とてもよくわかる気がするの。あなたのご両親もとっても優しくて心が美しい。そして何よりレオン、あなたの心もとっても美しいわ」

 城下を眺めていたカレンの瞳が、レオンへ向いた。


「あなたは自分のことを弱いって思ってるけれど、私は強いと思ってる。だって、国のために竜族へ自分を差し出そうとするなんて到底できることではないわ。それに、自分の弱さを痛感している。自分の弱さを認められることも本当の強さなのよ」


 ニコッと微笑まれるとこんな時でさえなんて可愛いんだろうとレオンは思ってしまう。


「何よりあなたは私が選んだ男なのよ、弱いわけないじゃない!それとも」

 一瞬うつむいてチラッとレオンを見るカレン。急にしおらしくなるなんてどうしたんだろうという疑問が湧く。


「ギルに会って、その、怖気付いちゃった?……私と一緒になりたくなくなっちゃった?ずっと一緒にいてくれるっていう言葉は嘘なの?」

 弱々しく発せられるその言葉に、気づけばレオンはいつの間にかカレンのことを抱きしめていた。


「そんな、そんなわけないだろ!俺は、俺はカレンと一緒にずっと一緒にいるよ!カレンのことが今までもこれからもずっと大好きだから!」


(そう、そうなんだ。俺はカレンのことが大好きなんだ。それだけで何がダメなんだ。何を弱気になっているんだ、俺は。それにカレンは俺のことを強いと言ってくれた、弱ささえも強さの一つだと)


「……よかった」

 腕の中でホッとしたように笑うカレン。だが、次の瞬間カレンから殺気めいたものが発せられる。


「懲りない男ね、今いいところなんだから邪魔しないでくれる」


 憎らしげに見つめるカレンの視線の先には、いつの間にか魔王ギルとその部下がいた。



お読みいただきありがとうございます。二人の恋の行方を楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク、いいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると執筆の励みになります。

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