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プロローグ

「結婚してください!」

「無理!」



 たった今、一人の王子が目の前の竜族の娘にプロポーズしている。


「毎日毎日懲りないわね。無理なものは無理って言ってるのに」

「どんなに断られても諦めないよ。国のために君が必要なんだ」



 彼はアールランドという国の王子だ。名はレオンという。国は今、魔族軍に狙われ滅ぼされようとしている。アールランドには古い言い伝えがあり、竜族と契りを結べばどんな望みも叶うとされているのだ。



「どうか君に国を救ってほしい。この通りだ、結婚してください」

 はぁ、とレオンの目の前にいる竜族の娘、カレンはため息をついた。



「あのね、何度も言ってるけど、あなたと結婚しても私にはなんの得もないのよ」


「我が国には、君の一族が好む鋼光石が採れる山がある。そこを差し出してもいい」


「それはまぁ魅力的だけど……あと、私、こう見えて200年以上生きてるの。あなたなんかより遥かにおばあちゃんよ」


 カレンの見た目はレオンよりも少し年下、16か17歳くらいに見える。が、竜族は人間よりも遥かに長生きなため見た目と実年齢に大きく差がある。


「そのことについてですが、竜族の人型での見た目は実年齢と共に精神年齢に合わせて進んでいくそうです。ですのでたとえ竜族で200歳を超えていたとしても、精神年齢は人間に換算すればまだ二十歳にも満たないかと」

 後ろからレオンと同行していた側近のゼイルが言った。


「なっ、ば、馬鹿にしてるでしょ」

 言われたカレンは顔を真っ赤にして抗議する。こういうところが見た目通りの精神年齢なのかもしれない。


「いや、だったらむしろ俺と釣り合うじゃないか。ほらね、そんなこと何も障害にはならないよ。ということで結婚してください」



 レオンの言葉に、カレンははぁ〜と盛大にため息をついた。


「竜族は一夫一妻制なの。絶対に不貞行為は働かないし一途なのよ。人間のあなたにそれができるとは思えない」


「人間でも一夫一妻を貫き通す人はいるよ。それが君の望みなら俺は喜んでそれに従う。それに俺は目移りする人間は好きじゃない」

 

 カレンは腕を組んでまた小さくため息をついた。


「国のためを思う気持ちは立派だと思うわ。でもそこまですること?あなた王子の前に一人の人間でしょう」


「一人の人間だけど王子だ。国を背負うために生まれてきた以上、それを全うすると決めたんだ」


 レオンとカレンの睨み合いは続く。


 

 どれほどの時間が経っただろうか。カレンがおもむろに口を開いた。


「これは、言いたくなかったんだけど……」


 カレンは、目を逸らしながらなぜかモジモジしている。

(なんだろう、まだ結婚できない大きな理由があるんだろうか。だが、俺はどんな理由でも乗り越えてみせる、国のために)


 そうレオンは決意した。


「あ、あのね、もしも、もしもの話よ。結婚して一緒に過ごすうちにうっかりあなたのこと好きになってしまうかもしれないじゃない?そうなった時に、あなたの気持ちが私になかったらすごく悲しいのよ。それに、もしもお互い好きになれたとしても、あなたは人間だからどうしたって先に死んでしまうでしょう。だとしたら私、一人取り残されてしまうわ。それはとても辛くて悲しいから……嫌、なのよ……」


 顔を真っ赤にして目線を泳がせながら消え入りそうな声で言うカレン。



(え、待って、待って待って待ってまって、何これ。可愛い。すごい可愛い)



 リーンゴーン リーンゴーン


 確かに、レオンの頭の中で鐘の音が鳴り響いた。



 赤い長い髪の毛、薄い水色の大きな瞳、スラリと伸びた手足に引き締まった体、でも程よくついたメリハリのある体型、小鳥が囀るような優しく可愛らしい声。



(あれ、この子ってこんなに可愛かったっけ?え、え、やばい、どうしよう、めっちゃ好きだ!)



「結婚してください」

 思わずカレンの両手を握り、レオンはプロポーズする。


「ちょっっと!私の話聞いてた?」

 顔を真っ赤にして抗議するそんな姿でさえも愛おしい。


(そうか、そういうことか。俺はなんて馬鹿だったんだ。一番大切なことに気づかないなんて)


「今日はこのくらいにしておくよ。でもまた明日も来るからね」

「は?何言って……」



 こうして、アールランド国王子レオンの竜族の娘へのプロポーズは本格的に始まったのだった。




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