隣の席の佐藤君
私は学校でいじめに合った過去からトラウマになり、人間関係が上手くいきませんでした。
それでも隣の席の佐藤君だけは、私に優しく接してくれました。
「学校に行けって言ってるだろうがコラァ!」
父から引きずり下ろされる様にベッドから落ちました。
「あなた、辞めてください」
母は私を抱きしめて、平日の昼間から酔っ払って暴れる父から庇ってくれています。
雨の日は憂鬱です。
詩的な意味じゃ有りません。
父の仕事は休みになるので、朝からお酒を飲み、暴れるからです。
決まって、学校に行けない私に当たり散らします。
仕方が無いので、雨の日は学校に行かなくてはなりません。
いじめられてしまうかも知れない学校に。
本当は学校なんて行きたく有りません。
でも、家で父に暴力を振るわれるよりはまだマシです。
渋々と支度をして、学校に向かいます。
途中近道の為に公園を抜けて、学校は直ぐ目の前。
はぁと一つ溜息を付いて。
渋々前に進みます。
上履きに履き替え、階段を上がり、廊下を渡って教室に付きます。
目立たない様に、そおっとドアを開け、無言で窓際の一番後ろ、自分の席に座ります。
殆ど学校に来ない私の定位置でした。
「おはよう」
いきなり声をかけられてビクッとなってしまいました。
声の主は、隣の席の「佐藤君」でした。
この学校で唯一私に話しかけてくる生徒です。
「お、おは、おはよ…」
ダメだ、緊張して声が出ない。
ちゃんと挨拶を返したいのに。
それでも佐藤君は、挨拶すらまともに出来ない私に嫌な顔一つせず話しかけてくれます。
「何日ぶりかな?久しぶりだね、元気にしてた?」
「は、はい」
嘘です、毎日生きてる気がしません。
父が居ない時しか安心して眠れないので昼夜逆転の日々。
起きている間はいつもビクビク怯えています。
「そう、なら良いんだけど。授業で分からない事があったら何でも聞いてね」
佐藤君はそういう時ニッコリと微笑んでくれます。
私が学校にギリギリ来れるのは、彼の存在が大きいです。
彼が居なかったら、教室に入る前に逃げ出しているでしょう。
「ありがとう…」
ボソボソとか細い声でした、伝わらなかったかな。
「気にしないで」
聞こえてた、良かった。
「そうだ、良かったら今日の帰り一緒に帰ろうよ」
突然の誘いに驚きました。
「え、でも部活は」
「大丈夫、僕帰宅部だから」
あ、そうなんだ。
意外だな。
私、佐藤くんの事何も知らないや。
「じゃ約束ね」
そういう時彼はまたニッコリと微笑むのでした。
なんでこんな私に構ってくれるのだろう。
不思議でたまりませんでした。