薬作りが趣味の姉を敵対視する妹リリー
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私はこれまでだって、何度もリリーから嫌なことを押し付けられたり、彼女が望むものを奪われたりして生きてきた。
慈善事業の孤児院の訪問は、当日になると必ず熱が出るリリー。
私が孤児院から帰ってくれば、元気にはしゃいでお菓子を食べていたことは、一度ならず、何度もあった。
常に自分が甘える側でいたいリリーは、子どもが大嫌い。そんなのは見ていれば分かる。妹の見え透いた仮病。それに騙される大人たち。
妹は私を敵対視してばかり。
私以外の人たちには、本性を隠す小狡さ。私にはできないことだから羨ましかった。
私が誕生日にもらった帽子を、「自分の方が似合う」と言って奪われたこともあった。
父は、わたしの帽子とも気付かずに、「リリーによく似合う」と、喜んで褒めていたっけ。結局、上手くかわされて、あれは取り返せないままだ。
リリーの要領の良さに敵わない私は、気付けば彼女の手駒にされていた。
リリーのせいで、何度も悔しい思いをしてきたし、それで相当な免疫も付いている。
……でも、今回ばかりは期待からの落差が大き過ぎて、……心がついていけない。
私の地味な趣味。
両親でさえ嫌な顔をして呆れていたから、自分は変わり者だと自覚はしている。
でも、私をどこかで見ていたブランドン辺境伯様が、その趣味を必要としてくれたのだと、自分に都合の良い大きな勘違いをやらかした。
勝手に夢を見て、幸せなお嫁さんの姿を想像してしまった。
「それなのに、手違いの妻…………」
隣国との小競り合いが多い辺境伯領であれば、夫が傷を負うかもしれない。
……そんなことを考えて、勝手に独りで不安になって、大慌てで薬を作って準備してきた。
「ははっ……」
私が洩らした乾いた笑い声が響く。
部屋中に溢れる薬草がないと、思っていた以上に反響して、ますます寂しくなる。
私が夫のために尽くす結婚生活なんて、用意されていなかった。なのに、独りで浮かれて馬鹿みたいだ。
私が案内されたのは、妻の部屋ではなく、よそ者を招き入れる客間だった。
周囲には全く人の気配さえない。誰からも遠巻きに扱われている客人。
「あれっ、おかしいな」
……泣くつもりはない。なのに、視界が霞んでくる。
私って、……今日、一番幸せな花嫁だったはずなのに……。
微かな音さえなく静まり返った部屋で、たった独りきりだ。
広いエントランスを埋め尽くす、沢山の従者を目にしたばかり。
この屋敷には、実家の子爵家に仕えている従者の数なんて、比べ物にならない程いっぱいいる。
もし、それを知らなければ何とも思わなかったのに、……残酷だ。
「私の元には、荷物を片付けてくれる従者さえ、……いない」
手違いの妻に貸す手はない。つまり、そう言うことだと思う。
無駄な希望は諦めるべきだ。
そう思って、実家から持ってきた荷物を一つ一つ棚に並べていると、次第に悲しさが押し寄せてくる。
もう、自分の存在価値さえ見失いかけている。
薬草や果実、きのこなどあらゆる植物を煎じて作った薬は、手のひらに収まる小さな瓶に詰めて、山のように持ってきた。
自分で作った薬が入った真新しい瓶。それを手に取る度に、ひどい空虚感が押し寄せる。
私以外の人には、全て同じに見えるだろう。
でも、私からすれば全く違う代物だ。
これらを作ったときに込めた思いも、効果も、全部違う。
鞄から取り出す数だけ、ブランドン辺境伯様のことを考えていた……。
そんな自分があわれに思えてくる。
……いや、これが自分なんだと受け入れなくてはいけない。
私自身でも気付いていなかったけど、頭の中で理想のブランドン辺境伯様を創り出して、勝手な恋をしていたみたいだ。
現実の辺境伯様は、私と関わることも、近づくことも拒絶した。
こんな私にできることは、一つしかない。
半年後の離婚まで、ブランドン辺境伯様にはこれ以上、嫌な思いをさせないようにするだけだ。
こうなれば、ここで過ごす半年間、私なりの楽しみを見つけていくしかない。
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