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挿話 薬草採りの結果

 日中の時間をメイドの部屋で過ごし、自分の部屋へ戻ろうとすれば、入り口からびっしりと押し込められた草で塞がれていた。

 僅かに残る隙間から部屋の中を覗いたけど、見渡せる限り薬草で埋め尽くされている。

 とんでもない事態が起きた。自分の部屋から閉め出された私は、慌ててユリオス様の執務室へ駆け込む。

 

「ユリオス様! 大変です!」

 そう言いながら入っていくと、気が動転した様子のユリオス様が私に駆け寄り、すぐさま不安気に私の顔を覗き込む。


「どうしたマーガレット。体調が悪いのか?」


「いいえ。私の部屋が草で埋まっていて、入れなくて」


「良かった、それの事か。マーガレットに何かあったかと思って心配しただろう」


「ちっとも良くないです。……私が薬草を欲しいと我が儘を言ったから、とうとう部屋がなくなったのでしょうか?」


「部屋がなくなったのは、マーガレットが欲しい草の種類だけ伝えて、欲しい量を知らせないからだろう。どれだけ必要か分からんから、目いっぱい採ってきただけだ。これでしばらく草は要らないだろう。俺がマーガレットから頼まれた分は、これで終わったな」


 そう言うと、彼のポケットに入っていた、私が書いた2枚の紙を「ハイ」と返された。

 確かに細かく書かなかった私も悪い。だけど、欲しい量が分からないと言っても、加減というものがある。

 そんなことを考えてみたものの、大胆な彼が、片手に握る程度の可愛い量で済ませるのも変だし、ユリオス様らしい気もする。

 ここ二日ばかりユリオス様の姿が見えないと思ったら、こんなことになっていたのか。


 すると、この会話を聞いていたニールさんが、笑いを堪えながら話に加わる。


「随分と熱心に薬草採りに出掛けていると思ったら、結局、マーガレット様と一緒にいたかっただけですか」


「当たり前だろう。マーガレットと一緒にいられるのを、俺がどれだけ楽しみにしていたと思っているんだ」


「私もユリオス様と一緒にいたいと思っていたけど、部屋に入れないのでしたら、近くにいられませんよ」


「本当ですよ。ユリオス様は、何をやっているんですか! この屋敷には、空き部屋がいっぱいあるんですから、わざわざマーガレット様の部屋に運び入れなくてもよかったでしょう」


「いいや、マーガレットの大事なものだからな。目の届かない所に置けないだろう」


「そもそも私の部屋に入れないんですよ。目なんて届きませんけど」


「大丈夫だ。俺の部屋から入れるから心配はない。マーガレットは俺と同じ部屋を使えばいいだけだ」

 至極真面目な口調のユリオス様は、照れることなく言い放つ。それなのに、思わず嬉しくなった私は、にやけてしまう。

 やれやれとため息をつくニールさんが、呆れ口調で告げる。


「全く。マーガレット様の近くにいたいからって、ユリオス様は何だって子どもみたいなことをしているんですか……」


「身ごもっているとなれば、1人でいるのは心細いだろう。少しでも近くにいるのに越したことはない」


「ユリオス様……。それだと、メイドたちマーガレット様のお支度に入れないですよ。彼女たちは当主が在室中には、絶対に入りませんからね。どうされるおつもりですか?」


「マーガレットは別に、あいつら3人がいなくても、1人で身支度ができる服しか着ていないだろう。俺の部屋にメイドが入ってこられなくても問題はない」


「本当に困ったものですね。マーガレット様のこととなると、誰彼構わず嫉妬するんですから」


 私の事で従者に嫉妬って……。ニールさんが、ありもしない話をさらりと言う。だけど、どういう訳かユリオス様は、その話を否定しない。

 ここは一先ず、私が正しくニールさんに教えておくか。


「ユリオス様のような方が、嫉妬するわけないですよ」


 そう伝えると、二人同時に私の顔を見る。それなのに、私の話は、まるで何もなかったように話を続けられる。


「俺も色々と反省したんだ。マーガレットの夫なのに、従者の奴らに負けているのは許せないからな。四六時中一緒にいればマーガレットの情報に取り残されることはないだろう」


 あれ? なんだかユリオス様は、従者の皆さまに闘争心を燃やしている。

 やはり、私の妊娠を最後に知らされたのを根に持っているのだろうか……。


「マーガレット様にこの部屋にいてもらうために、この執務室にソファーやらテーブルを持ち込んできたんですか⁉」


「ああ。マーガレットは自分の事は何も言わないし、無理をするからな。馬車に乗せるのも不安なんだ。カフェに行かなくても、ここで毎日二人でお茶ができるだろう。どうせ俺は暇だしな」


 ふと横を見ると、アンティークの家具が置かれた重厚な部屋には、到底似つかわしくない、空間が目に飛び込む。

 可愛らしい白の応接セットが堂々と存在を主張している。前回この部屋を訪ねたときにはなかったのに。


「やだなぁ。僕が結婚式の日にお伝えした話を、怒っているんですか?」

「別に」

「こ、怖いですからその顔。めちゃくちゃ怒っているじゃないですか……。マーガレット様、うちの御当主のことをくれぐれもお願いします」

 それはもちろん「はい」と、当たり障りのない返答をする。


 この先しばらく、領主様自ら淹れるお茶で、その辺のカフェよりも手厚いもてなしを受けることになる。



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私にだけ冷たい 最後の優良物件 から、〖婚約者のふり〗を頼まれただけなのに、離してくれないので【記憶喪失のふり】をしたら、激甘に変わった公爵令息から 溺愛されてます。

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