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飾らない告白。すれ違っているのに、ぴったりと重なる想い。

 ※マーガレット視点 ・ ユリオス視点 混在 


 先ほど庭へ降りたときは気付かなかったが、庭とテラスを繋ぐ豪華な石造りの階段の脇に、人がひとり通れる程度しかない細い階段があった。この一番奥か。


 他に通路のない進路を真っすぐ突き進み一番奥の部屋。左右2つあるうち、一方の扉を開けたが誰もいなかった。

 そうなれば、もう一方の扉だろうと、開けようとしたが鍵が掛かっている。ということは、ここだ。


 ドォーンッ──。


「マァーガレット!」

「ぎゃぁ! ユリオス様?」

 俺の名前を呼ぶマーガレットの声が聞こえた。

 見つけた。見つかった、俺のマーガレットだ!



 大きな衝撃音が響き渡れば、なんと扉が突然蹴破られた!

 城が壊れたのかと思えば、鬼の形相のユリオス様が、既に誰かを仕留めたであろう殺気を纏いながら入ってきた!

 こっ、怖い。怖すぎる。こ、こ、この恐怖には覚えがある。

 まさにこれは、屋敷の客間から毎朝見ていた、あの鬼気迫るユリオス様。それが、遮る壁のない状況で突然目の前に現れたのだ。

 ユリオス様を見た私は、安堵する……、わけがない。

 ある意味、今日の出来事で今のこれが一番怖い体験で、もはやトラウマレベルに匹敵する。私は立っていられず、へなへなとその場にへたり込んでしまった。


 放心状態の私へ、すかさず駆け寄ってきたユリオス様から、ぎゅーっと強く抱きしめられている。

 ほんの少しだけ、胸がキュンとした気がしたが、瞬時にそれどころではなくなった。

 ユッ、ユリオス様! そんな全力で絞められたら、私なんて軽く死んでしまいます……。

 お願い。離して。息が、息がっ、止まります──……。

 彼の胸を叩いて、それを知らせようと思ったところで、ユリオス様がプルプルと小さく震えているのが伝わってきた。


 まさかとは思うけど、ユリオス様が恐怖で震えているの?

 ううん。そんなはずはない。いつも戦場にいらっしゃるユリオス様が、太った伯爵様1人を怖がるなんて、……ありえないもの。


「くっ、苦しぃです──……。ユリオス様? 怖い、……わけないですよねユリオス様が」

 


 少しだけ腕の力を緩めると、今にも泣きそうな顔で、ぼそぼそと話し始めたユリオス様。初めて見せるその表情に、私は戸惑いしかない。

「怖かった…………。マーガレットがいないと気付いてから、怖くて怖くて、震えが止まらなかった。そんなの当たり前だろう。俺の不注意で、愛する妻を見失って、それで……、他の男に攫われて……。自分の大事な女を奪われて、怖くない男がいるわけないだろう…………。良かった、マーガレットが無事で。俺が目を離したばかりに悪かった」



 ……ユリオス様。

 あ――。私って、なんて駄目な女なんだろう。

 こんなに大切に想われていたのに、何も気付かず、内心どこかで疑っていたんだもの。

 今まで私に掛けてくれたユリオス様の言葉に、一つの嘘もなかったのに、疑ってばかりいた。

 社交界もダンスも苦手なのに、横に並んで恥ずかしくないように無理をして。出来もしないくせに……。ユリオス様に良く見せようとしていた。

 そんなこと、……する必要はなかったのに。


「ごめんなさい。ユリオス様は悪くなくて、私の不注意のせいですから。あっ、でも、でも、でも、ここに連れられてきただけで、何もされていないです」



「いや、アンドリューから聞いていたのに、俺のせいだ。――だが、どうして、あいつはイビキをかいて寝ているんだ?」

 ふと視線を変えると、でかい図体をした大男が、ガァーガァーと大きな音を立てている。何故、マーガレットを連れ去ったウエラス本人は、仰向けで伸びているんだ?

 事情を聞こうとした俺に、マーガレットが自信なさげに話し始めた。



「それは、私が持っていた入眠を促す薬を、そこのグラスへ入れたんです。けど、なんだか思った以上に良く効いたみたいで。このまま放置していいか迷ってしまって」

 これ以上は言えない。言えない。言えない。口が裂けても言えない。

 どうしてこんな薬を持っていたかなんて、説明がつかないでしょ、私。

 理由がくだらな過ぎて、ユリオス様に申しわけない。言えるわけないわ。

 自分が男性の肌も知らないことを、ユリオス様に打ち明けるのが恥ずかしくて、早々に眠って誤魔化していたことは、絶対に知られてはいけないわよ。もう、馬鹿過ぎて自分が恥ずかしい。

 私をこんなに心配してくれる人に、何をしていたんだろう。



「マーガレット立てそうか? 趣味の悪いこんな部屋、さっさと立ち去るぞ。もうすぐ陛下が兵を連れて向かってくるから、こいつは放っておけ」

 それにしても、この部屋。……見るに堪えないな。

 拷問に使う道具を揃えた不愉快な部屋に、マーガレットを連れ込みやがって。

 



 ……駄目だ。完全に私の腰が抜けている。

 ユリオス様が剣を握って飛び込んできたんだもの、誰だってこうなるでしょう。

 

「ユリオス様。ちょっと腰が抜けて立てないみたいです。あの、その、まずは、その剣をお腰の鞘へ戻していただけないでしょうか」

 せめてその恐怖の塊を、私の視界から隠してくれと願う。



 可哀そうにマーガレット。青い顔をして、恐怖と闘っていたのか。

 機転を利かせて薬を盛っても、こんな部屋に連れ込まれて怖かったのだろう。

「ほら、抱えてやるから俺に掴まっとけ。そういえば、なんでそんな薬を持っていたんだ?」


「いやー、それは、ちょっと……。あっ、そうです。旅で眠れないと困るなぁーと思ったからですよ」


 慌てて誤魔化すマーガレット。

 ……馬鹿。

 ニールから冷やかされるほど鈍い俺でも、それくらい分かる。

 毎日毎日、早々に眠りに就くから体調を心配していたが、そういうことだったのか。やっと腑に落ちた。

 どうせ俺から逃げるためだろうが、マーガレットがその気じゃないなら何もするわけないのにな。

 まぁ、気を失ったように眠っていた理由がはっきりしたお陰でむしろ安心した。


「それはまだ残っているのか?」

「それが、持ってきた分を、今、全部入れちゃったので」

「それは残念だったな」

「ううん大丈夫です。私には、もう必要ないから」

 …………。


 ****


 マーガレットを抱きかかえたまま、庭へ出れば陛下が大袈裟な程の兵を伴い立ち尽くしていた。横には、不貞腐れた顔のリリーもいる。


「奴は奥の部屋で、マーガレットに薬を盛られて呑気に寝ている。どうせ朝まで起きないだろう。取りあえずリリーと同じ牢にぶち込むことを勧める。そうでなければ、首謀者を互いに擦り付けるだろうな」


「ブランドン辺境伯がそういうなら、そうしておくか」

 一理あると、陛下が納得した様子。


「……リリー、あなた……。私、何をされたか分からないけど、眠っている伯爵様のことお願いね」

「もう、どんだけ感度が悪いのよ! いやよ。あの男と一緒の牢は絶対に嫌。そんなの耐えられるわけないわ。あたしがお姉さまをはめました。ねぇ、これでいいでしょう。牢に入れるなら1人にして。あの男と2人きりにしないで」


「助かったな陛下。取り敢えずリリーの自供は取れたようだ。後は任せます」

 ……よし。

 後は俺の知ったことではない。


 俺の腕の中には、やっとその気になったマーガレットがいるんだからな。

「マーガレットの気が変わらないうちに、俺たちは帰るぞ」


「あ、待ちたまえ。ご夫人が、この国で一番腕の立つ薬草師という噂は本当なんだな。王城にしばらく滞在して、薬師たちに指導してもらえないだろうか。いや、望むなら、そのまま城に残ってくれても構わない」



 陛下のおっしゃる言葉の意味が分からない。でも、私の好きな薬の話を存分にしてもいいということなんだろうか。


「いいかマーガレット、騙されるな。あれはただの社交辞令だ。王城に雇われている一流の薬師へ素人が指導するのは、おこがましい話だぞ。真に受けるな」

「そっ、そうでした。ユリオス様、危なく私、調子に乗るところでした」

「マーガレットはうちの領地で籠を持って歩くのが一番似合うからな。俺はマーガレットの趣味に理解があるが、他の奴らは社交辞令だから真剣に話を聞く必要はない。さあ、帰るぞ」

「はい。私の趣味を褒めてくれるのは、領地の皆さまだけでした」


 相変わらず足の速いユリオス様は、私を抱きかかえているのを物ともせずに、あっと言う間に立ち去っていた。

 そんなユリオス様の胸に顔をうずめると、ここ以上に温かくて安心できる場所はないと実感する。



「……いや、社交辞令って」

 遠くで陛下の声が聞こえた気がするが、何を言っていたかはよく分からない。



 ユリオス様と馬車に乗り込もうとしたとき、ふと思い出した。


「あっ。ユリオス様のご友人にお伝えしないと」

「なっ、何をだっ。駄目だ。止めてくれ」

「どうしたんですか? そんなに焦って。お礼をお伝えしたかっただけですよ」

「大丈夫だ。俺から伝えておくから、マーガレットは気にするな。ほら、いつもこの時間に眠くなっていただろう」

「ぎゃっ。そうでしたね、早く帰りましょう」


 どうやらユリオス様は、私がしていたお馬鹿なことに、全く気付いていないようだ。でも、突入してきたユリオス様の衝撃に興奮中の私が、どうやっても今晩、眠くなるとは思えないのだけど。




最終話まで残すところ2話となりました。

毎日連載を追っていただいております読者様、ありがとうございます。

恋に不器用な2人を、最後までよろしくお願いします。


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