表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/48

本音と本質

 ※マーガレット視点


 焦れば焦るほど、全く上手くいかなくなったユリオス様とのダンス。

 頭が混乱してきた私は、余計なことを口走る前に冷静になろうと、外の空気を吸いにテラスへ出た。

 そうすれば、待ち構えていたように中年男性が立っていた。


「マーガレット。ヘンビット子爵から君が結婚したと聞いて驚いたよ。病気の妻は死んだから、もう何の懸念もないのに、酷いじゃないか」


 誰だっけ。顔に覚えはあるけれど、名前が出てこない。

 そう思った瞬間だ。

 口を塞がれ、あっと言う間にどこかの部屋へ運ばれてしまった。


 ……嘘でしょう、ここはどこ? 

 何故、こんなことになっているのよ。


 それにしても、随分と慣れた手つきで連れ去るわね。

 なーんて、そんなことを感心している場合じゃないでしょう。

 どう考えても、絶体絶命の大ピンチなんだから、現実逃避をしている場合じゃないわ。

 呑気なことを考えていないで何とか逃げる道を探すのよ。

 これまでだって、1人でいっぱい考えてやってきた私なら、できるはず。


 そもそも、この方は誰よ。私の名前も知っていたし、病気の奥さんが亡くなったって……。

 あーそうだ、思い出した。ウエラス伯爵様だわ。いつも私をテラスに誘う人だ。

 でも、この方といると決まってユリオス様のご友人が、話に割り込んできて、この方に付いて行っては駄目だと教えてくれていたんだわ。


 あー、もう、私の馬鹿、馬鹿。どうして会って直ぐに気付かなかったのよ。こんなんだから、リリーに馬鹿にされるのよ。

 このあと、どうなっちゃうのよ!


 ……って。それくらい、いくら鈍い私でも寝台の上に置かれたままにされていれば、自分が何をされそうになっているかは分かる。

 リリーのように美しくないけど、私だって一応は女だ。


 いつかは好きな人と期待していたし、ユリオス様と、ちゃんとしたいと思っていたんだもの。


 こんなことになるのなら、ユリオス様から逃げるようなこと、しなければ良かった。

 要らない見栄を張って、どうして馬鹿なことをしていたんだろう。

 


「扉を見てても、ここには誰も来ないから、助けを待っても無駄だ。私が管理している、罪人の自供部屋だ。どんなに叫んでも外には声も聞こえない」


 ……そもそも。私はユリオス様に心配してもらえるか、自信がない。

 手違いで結婚して、何となく好きになった私のために、ユリオス様がわざわざ動いてくれるだろうか。……いや、ダンス中に怒っていたユリオス様は、私がいないことにも、しばらく気付かないでしょう。


 それよりも、こんなことがユリオス様に知られたら、もう一緒に帰れないわね。大事な後継者にかかわる問題だもの、本当に妻のままではいられない。


「私、踊った直後で喉がカラカラなんです。何かありませんか?」




 ****

 ※ユリオス・ブランドン視点


 リリーの手を振り払った俺は、テラスへ続く窓から1歩外へ出た。

「怒ってないから、俺の傍から離れるな……」


 慌てて、体の向きを変えながら四方隈なく見渡す。

「マーガレット……。い……ない」

 

 彼女の姿が見えない。美しい水色のドレスを着て嬉しそうに頬笑んでいた妻の姿が、どこにも見当たらない。最高潮に高まった胸騒ぎ。俺の背中に冷たい汗が伝う。


 無駄に広いテラスだが全面を見渡せる。死角はない。見落としているわけではない。

 テラスに続く窓は1か所しかないはずだ。

 そこから俺は目を離していないし、他に出入りしたやつもいない。それなのに、どこへ行った。


 いつも、いつも俺の前からいなくなるマーガレットだが、匿う従者がいない王城で、見失うわけがない。……そうだろう。


 いないのは分かりつつも、テラスの端まで来てみれば、唖然とした。遠目では気が付かなかったが、このテラス、外へ降りられる階段があるのか。


「マーガレット!」

 庭に向かって叫んだところで返事は返ってこない。

 マーガレットが1人で暗い庭へ降りたとは考え難いが、向かう先がここしかないなら、行くだけだ。


 庭を走り回って探してみたが、マーガレットどころか人の気配が全くない。

 警備の人間がいればとも思ったが、そういった配置もないのか。

 所々に小さな灯りがある程度の庭に、1人で来るとは思えない。王城の中か……。


「どこにもいない──……」


 外も王城の中も手当たり次第探したが、見つからない。

 気まずくなって俺から逃げていると信じるには、もう無理がある。


 ……ずっと感じていた胸騒ぎ。

 マーガレットが、良からぬことに巻き込まれた気がしてならず、焦燥感が募る。

 ハッと思い出した一言。アンドリューだ。

 あいつ、誰かがマーガレットを狙っていたと話をしていた。何か知っているはずだ。


 アンドリューの姿を見つけると、全速力で駆けより、奴の両肩を掴み詰め寄った。

「アンドリュー! お前がさっき話していた、マーガレットを狙っていた奴は誰だっ!」


「ぼっ、僕じゃない、僕じゃない、落ち着けって。君の奥さんを以前から狙っていたのは、ウエラス伯爵だ。少女趣味なんだよ奴は。前に話しただろう。手垢の付いていない令嬢を付け狙って屋敷へ連れ込むって。特に君の奥さんのことは、周囲にいつも話していたから」


 それを聞き、すぐに夜会の会場内を見渡したが、ウエラス伯爵の姿はどこにも見当たらない。

 リリーは会場にいる。それなのに、婚約者のあいつがいないってことは、間違いないな。

 これだけ噂になっているのに捕まらないのは、ウエラス伯爵の権力を恐れて、今まで多くの令嬢たちが泣き寝入りしてきたのか。


「もっ、もし城の中でいなくなったなら、お、恐らく奴が使っている部屋だろう。たっ、頼むから肩を離してくれませんか、ユリオス」

「その部屋は、どこにある。早く教えろ」

「ち、地下だ。テラスを降りると脇に隠れた階段がある。そこを降りたら一番奥だ。でも、鍵は奴しか持ってないはずだ。これ以上は僕も知らないから、肩を……」


 再びテラスへ視線を向けると、視界を遮るように陛下が立っていた。


「ブランドン辺境伯、妃に君の奥さんを紹介しようと思ったけど。ゲッ、そんな怖い顔をしてどうした、何かあったのか?」


「王城の警備が手薄なせいで、俺の妻がウエラス伯爵に連れ去られた。どうしてくれるんだっ!」

「警備は万全なはずだ。……いや、万が一ということもあるな。もし伯爵の元へ向かうなら城の兵を使って――」


「馬鹿を言うな! 俺がすることは妻を助けることで、奴を捕まえることではない。兵を仕切って捕まえるのは、そちらの仕事だ。妻の妹のリリーも、この件に関係しているはずだから捕まえておけっ」


 くそっ。だからリリーは俺を引き留めたのか。もしかして、リリーが首謀者かもしれないな。

 リリーのことだ、マーガレットがテラスへ行くと分かって、ウエラス伯爵に入れ知恵をしたんだろう。

 マーガレットの妹だと思って大目に見ていたが、もう許せん!


 さっき、テラスを降りたときに気付いていれば……。マーガレットがいなくなってから、時間が経っているが、まだ間に合うだろうか。




少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月15日に、一二三書房サーガフォレストさまから本作の書籍第2巻が発売されます!
 この作品が新たな形になるために応援をいただきました、全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
 妹に結婚を押し付けられた手違いの妻ですが、いつの間にか辺境伯に溺愛されてました~半年後の離婚までひっそり過ごすつもりが、趣味の薬作りがきっかけで従者や兵士と仲良くなって毎日が楽しいです~2

  WEB版の手違いの妻は、約11万2千文字で完結している作品ですが、書籍版の第2巻は、全編ほぼ書き下ろしです。

■超絶美麗なイラストは、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。中にも素敵な挿絵がたっぷりなんですよ!!
 めちゃくちゃ素敵なので、たくさんの方に見ていただきたいなと思っております。
e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg


html>

 現在、第1巻はAmazonなどの書籍取り扱い店で好評発売中で、第2巻は予約受付中です!
 ■Amazonでの購入はこちらから■

■書籍に関する情報は、こちら■

また、本作は、コミカライズ企画も進行中です!

引き続きよろしくお願いいたします。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ