自信のない姉マーガレット
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辺境伯様がエントランスから立ち去ると、私のために集まっていた屋敷総出の従者たちは、蜘蛛の子を散らしたようにいなくなった。
「ちょっ、ちょっと待って……」
……あまりの早い掌返しに、もはや絶句するだけ。
到着早々、広いエントランスにポツンと独り、呆然と立ち尽くす……。
「だ、誰か……。ど、どうしたらいいの……」
「お待たせしました。ご案内しますね」
右も左も分からずオロオロしている私を、平常心を取り戻したニールさんが迎えにきてくれた。
どうやら彼は、慌てて客間の用意をしていたようだ。
ニールさんに案内された客間は、思っていた以上に、……狭い。
私が趣味に専念するには、いまいちだ。
草を干せば手狭になるのは一目瞭然。
「では、僕は失礼しますね。明日、メイドが朝食を運んでくるように手配しておきます」
そう言い残して、ニールさんはいなくなってしまった。
あっと言う間に独りぼっち。
……そうなれば、することは自然と1つ。
私がこんなことに陥った、元凶の人物を思い出している。……妹のリリー。
私たち姉妹は、他人と言ってもいい程に、全く似ていない。
見た目はもちろんだが、妹リリーは誰とでも簡単に仲良くなれる、天性の才能の持ち主。
3つ年の離れた妹は、どんなことにも興味を持つから広い知識もある。
妹の知識は交流するための道具で、表面的なことを知っているだけ。そんなことは、分かっている。
でも、浅い知識を糸口に、巧みな話術で関係をつなげる妹リリー。
そこでまた新しい知識を培い、更なる関係を築いていく。
それを私は、いつも目の前で見ているだけだった。
私にはない、リリーの社交性が、いつだって羨ましかった。
妹とは対照的に暗い趣味に没頭し自分の興味のあることしか話せない、友達もいないような、私。
それに比べ、どんな分野の人たちとも仲良くしており、交友関係が広いリリー。
明るいリリーは、社交界ではとても人気がある。
いつだって比べられる私は、リリーの評判を嫌という程知っている。
私と話をしているのに、リリーが今日の舞踏会には来ていないことを知ると、肩を落として立ち去っていく男性陣。
リリーに好意を寄せる貴族たちは、子息だけではなく父親世代も多い。
それくらい、誰でも虜にする話術。
マーガレットと一緒にいる、妹リリーが目当ての人たち。
彼らに、悪気がないのは分かっているけど、何度も傷つけられてきた。
暗い趣味の私だって、誰かの恋の話を聞けば興味もあったし、私も誰かと恋をして、夫と寄り添って生きていく姿に憧れていたのに……。
もし仮にわたしが政略結婚をすることになっても、ちゃんとマーガレットを見てくれる男性が現れるのを待っていた。
けれど、願いは叶わないまま、気が付けば結婚適齢期なのに婚約者もいないままだった。
目立った実績のないヘンビット子爵家と姻戚を望む家がないのは分かっていた。
私の努力が足りなかったのは、……自分が一番分かっている。
私は、いつだってリリーの上手な立ち回りが、羨ましかった。
貴族社会では、リリーのように、人間関係をつなぐ妻が必要とされているはずだもの。
妹にはできるのに、どうして私にはできないのか? と、理想にちっとも近づけない自分が一番嫌だった。
私が、私にじれったさを感じていた、くらいだもの。
だから、辺境伯様がリリーじゃなくて、私を指名してくれたことが、嬉しかった。
だって、私のことを必要としている人がいるんだって、やっと報われた気がしたから。
本人に会うまでは、だけど……。
「辺境伯様は、どこかでリリーと話をして彼女にひかれたのね…………」
……結局、いつもと同じ。辺境伯様もリリーに釣られた男性だった。
どうせリリーのことだから、自分宛に届いた結婚の申し出なのに、何か都合が悪かったのだろう。
それにしても、父を言いくるめるとは、どうやってやったのか? 我が妹ながら、すごいことをしたものだと感心してしまう。
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