マーガレットの真相
ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。最後までよろしくお願いします。
※ユリオス視点
俺が唯一参加している夜会。見慣れた王城の大広間も、今回は、水色のドレスを着た愛らしいマーガレットと出席しているためか、何とも新鮮に感じる。
そんなマーガレットは、少し前にリリーから声を掛けられ話し込んでいるようだが、俺も目当ての人物を見つけた。
マーガレットの噂を知りたくて、アンドリュー侯爵を探していたが、あちらも何か言いた気な顔で近づいてきたのだ。
「おい。まさかユリオスが、マーガレット嬢を伴ってこの夜会に参加するとは思ってもいなかったよ。何の報告もなかっただろう、一体どういうことだよ。婚約したのか……?」
「いや、もう結婚した。俺もいい歳だからな。アンドリューも、早くした方が良いんじゃないか」
「それは本当か……。腹立つなぁ。結婚のことは君にだけは言われたくないよ。長年僕が狙っていた令嬢を、突然現れて攫ったくせに」
「はぁっ? お前もマーガレットに目を付けていたのか?」
「いや、僕だけじゃない。独身男は皆、彼女を狙っていたさ。彼女の薬草師としての才能は一流だから、手に入れれば大儲けは間違いないからね。あの当主は商才がないから彼女を使えないままだったけど、彼女以上に利用できる令嬢は他にいないだろう」
アンドリューに話を聞けば、すっきりすると思っていたが、ますます混乱してきた。
「長年って、どういう意味だ? 侯爵のお前が子爵家に結婚の申し出をすれば済む話だろう」
「済まないから試行錯誤してたんだよ。そんなことを言ってるユリオスが、彼女を妻にしているって、呆れるな。君はどれだけ運がいいんだよ」
「いいから詳しく教えろ!」
待ち切れない俺は、話の先を急かす。
「僕だって何度も結婚を申し込んだけど、ヘンビット家の当主、彼女の結婚に対して王族しか払えないくらいの支度金を要求するから、僕では用意出来なかったからね」
「お前、俺に一度もマーガレットの話をしたことはないだろう!」
「当たり前だ。お前が彼女のことを知ったら絶対に欲しがるだろうし、支度金だって軽く用意できるからな」
リリーが薬を作ると聞いて釣られた俺は、間違いなくアンドリューの思っているとおりの行動をしただろう。
「もしかして、アンドリューもマーガレットに言い寄っていたんじゃないだろうな」
「まぁ当然だ。何度頼んでも当主を落とせないなら、本人を口説き落とすしかないからね」
「ま、まさかマーガレットに変なことをしていないだろうなっ!」
「してない、してない。誤解だ、怒るなって。いつも傍にいる妹が必ず話に割って入るせいで、真面に会話も出来ないさ。妹のいないときを狙って声を掛けても、それがまた彼女に上手く躱されたし」
あの社交辞令って話。自分の薬を売る気のないマーガレットが騙されないように、教えられていたのか。
「そ、そうか。お前も社交辞令の1人だったか」
「何だよ、社交辞令って。君に奪われるまでは、僕が彼女を手に入れるのに一番有利な立場にいたんだ。正直、ユリオスに彼女を盗られているのが分かって、ショックで立ち直れないよ。彼女を手に入れた後の事業計画も既に立て終えていたんだから」
それを聞いて思い起こしてみれば、社交界で人気があるとリリーを紹介してきたのは、アンドリューだ。
俺は去年、マーガレットを見かけた記憶さえない。だが、その夜会でリリーと初めて出会って話をしたのだから。
「おい、去年の夜会で俺にリリーを紹介してきたのって!」
「あっ、気付いた? 妹が邪魔だからユリオスに押し付けたんだよ。純情なマーガレット嬢ならキスでもすれば落ちると思っていたのに去年は別の邪魔が入ったし、今年こそはと期待していたのに、本当についてないよ」
「キス⁉ お前、マーガレットと2人きりになるために、リリーが社交界で人気があるって、俺に嘘まで吐いて紹介してきたのか?」
「いや、妹の話は事実。君に嘘を吐くわけないだろう。この国って令嬢たちも奔放だろう。だから、遊びたい若い貴族たちには、彼女は話も上手いし相当な美人だから人気だ。好きに遊んだとしても、ヘンビット子爵家は力がないから何も言えないし、若い令息たちには丁度いいからね。けど、俺らくらいの年になれば、中身のない女には興味がないからそう思うだけだ、なぁ」
アンドリューの「なぁ」の一言で、一瞬で頬が熱くなった。何なら、耳だって熱い。
今の俺は、遠目から見ても分かるほど、男の前で真っ赤になっている大の男。そういう絵面になっているだろう。
……なんてことだ。俺は去年の夜会で、まんまとリリーに引っ掛かっているだろう!
先日リリーが突然屋敷へやって来るまで、彼女の本質に気付いていなかったからな。
まずい。アンドリューに、この結婚の経緯を話せば、一生馬鹿にされるに違いない。これでは大恥もいいところだ。
少し離れた所にいるマーガレットを見て、頼むから迂闊に俺たちの結婚の成り行きを喋らないでくれと念を送ったが、相手はマーガレットだ。
分が悪い。
聞けば何でも話してくれると、信用足りるギャビンのお墨付きだからな。
俺がリリーへ求婚して、マーガレットが来たという間抜けな話。アンドリューだけには知られたくない。その上、馬鹿なことにマーガレットを追い返そうとしていたんだから。
……おい。もしかして。
世間の感覚とズレている俺が、何も知らずに先走って金を送ったことで、妹以上に価値のあるマーガレットを、俺に嫁がせても良いと当主に判断されたのか。
そうか、だからかっ! マーガレットの父親は、俺が抗議の手紙を送ったが、悪びれることもなく返事を寄越したんだ。あれは、大事なマーガレットを丁重に返せという意味だったのか。
マーガレットの父親に認められたのに、辺境伯の立場があるからと完全に驕っていた。あれから何も言ってこないが、子爵家の当主は怒っているだろうな。
これを知った以上、リリーの件を子爵家へ報告する時間がないまま屋敷を出てきて、むしろ良かった。
それに、ニールがいつもの適当な調子で、大聖堂へ結婚誓約書を届けていなければ、俺はあの日、マーガレットを追い返すところだった。たまにはいい仕事をしたと感謝すべきだな。
アンドリューが、マーガレットを見やりながら話し始めた。
「君の奥さんっていうのが信じられないくらい、少しも変わってないな。そういえば、変な目で彼女を狙っていた奴もいるから気を付けろ」
「それは、自分のことを言っているのか? さっきキスの話をしていただろう。この場にマーガレットを連れて来なくて良かったと思っているところだ」
「いや。さすがに君を敵に回す程、僕は愚かではないさ。命は惜しいからね。あの時は、言葉では分かって貰えないから焦っていただけで、彼女に好意があったわけじゃないから安心してくれ」
アンドリューを見て思う。俺にとっては、この夜会の方が嵐の山より危険だろう。駄目だ、こうしてはいられない。
「マーガレット、俺の傍を離れるな」
何だか嫌な予感がする。
俺がマーガレットの元を離れては駄目だ。そう思い、慌てて妻に駆け寄った。
どうやら俺は相当に幸運な男だったらしい。
離婚すると愚かなことを言ったにもかかわらず、マーガレットが俺を好きになってくれたなんて、これは奇跡に近い。
少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。
誤字報告ありがとうございました。大変助かります。