表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/48

陛下との謁見

ブックマークと評価、いいね! を頂き、大変嬉しく思っております。

最後までよろしくお願いします。

 ※ユリオス・ブランドン視点


 1年ぶりの王都へ向け、日頃乗ることの少ない馬車で3日間掛けて移動しているが、横には俺の顔を見て笑うマーガレットがいるため、時間があっという間に過ぎている。


「まさか、叔父上までマーガレットに粉をかけているとはな」


「そんなんじゃないですよ、行く当てのない私を心配してくれただけです。だって、ベンさんは既婚者ですから」

「マーガレットは知らないのか、今は独り身だ」

「え~。庭師じゃないのも知らなかったけど、そっちも知らなかったです」

「どうして叔父上の言葉は、真に受けて頼ろうとしたんだ?」


「それは、私のことをよく知っているからですよ。会った初日に社交辞令を言う方とは違いましたから」


「なあ、マーガレットには、そんなに言い寄ってくる男がいたのか?」


「私だけじゃないですよ、リリーの方が多かったですから。でも、父から、会って直ぐに気のあることを言ってくる男の人は、社交辞令だから真に受けないように教えられていたんです。特に紳士的な方は挨拶代わりに言うらしいです。あれ? じゃあ、ベンさんの話は本気だったのかしら」


 首を傾げるマーガレットに、迂闊な入れ知恵をしたくない俺は、黙っておくことにした。

 叔父上のことは妻帯者だと重ねて勘違いしていたおかげで、本気にしていなかったようだが、おそらく叔父上は、甥の嫁を本気で狙っていたはずだ。全く何を考えているんだか。


「ユリオス様は、私なんかのどこを好きになったんですか?」

 素直なところも、優しいところも、小さくてかわいいところも全部いいが、こういうのはどうやって言えばいいんだろうか。


「まあ、全部だ」

「……そうですか。これといったところがないんですね」

「ちっ、違う。本当に全部なんだ」

「ふふっ、そんなに慌てなくても、分かりましたよ」

「そうか、良かった」



 マーガレットがカイルの告白を真に受けなかったのは、「よくある社交辞令」と言っていたが、夜会では社交辞令で軽々しく令嬢を口説くものなのか? 紳士は挨拶代わりに口説くって話は、聞いたことはないが、それが普通なのか……。


 俺は相手を喜ばせる会話なんぞ、したことあっただろうか?

 いや、ないな。俺には無理だ。

 思いつく以上の話ができないから、マーガレットに上手い言葉を掛けてやれずにいるんだから。



 急ごしらえで用意した道中2泊目の宿。

 もちろん俺たちは夫婦だし、マーガレットを1人にするのは不安で仕方がない俺にとって、別の部屋を取る理由はない。


「ユリオス様。私、ドレスを着て歩けるか自信がなくて」

 そう言うと、湯から上がってきたマーガレットは、水を飲み干していた。


「大丈夫だろう。マーガレットを心配するメイドが用意したんだから」

「……」

 返事のないマーガレットは、ふらふらとした足取りで布団に潜り込もうとしている。


「マーガレット、具合が悪いのか?」

「……」

 横になっただけで、既に深い眠りについているマーガレットに布団を掛けてやり、頬を撫でた。だが、少しも動じる気配はない。


 昨日は椅子の上で寝落ちしており、寝台まで俺が運んでいた。


 馬車での移動が相当体に堪えているのだろうか。昼間は至って元気に過ごしているが、意識を失うように眠る彼女の体が心配になる。


 余裕をもった移動にしたつもりだったが、帰りは1日の移動距離を短くした方がいいだろう。

 正直、遠征に慣れ過ぎている俺の基準は、世間とはズレているはずだ。自分の感覚は当てにならないからな。



 ****


 陛下が面会に使用している、謁見の間に向かう。


「マーガレット、ちゃんと歩けるか?」

「心配はいらなかったみたいです。だって、このドレス、まるで私のために作ったみたいにピッタリなんですよ」

「そうだろうな。あのメイドの3人が、マーガレットのために用意したみたいだ」

「あー、そういうことですか。このシンプルな感じが、目立たなくて済むから良かったなぁ、って思っていたんですよ。でも、実家に帰るって知っていたのにどうしてだろう」

 鈍感過ぎるマーガレットを、笑えない自分がいる。


「陛下がいるのはこっちだ」

「あっ、はい」


 20年前に奪われた国の領地を取り返すために、繰り返し兵を出しているのだ。 

 現時点で、土地の3分の2まで奪還に成功している。残り3分の1。


 後は、時間の問題で全ての領地を取り戻せると断言できる。


 だが、マーガレットと過ごす時間を作りたい俺としては、さっさと面倒な領地争いを片付けたいところ。


 即位2年目の年若い国王陛下。

 俺より1歳年下の陛下は、軍服を着ているくせに、自分が軍を指揮する立場にあることを認識していない。

 領地奪還の進捗状況を報告するが、返答の歯切れが悪い。

 陛下が動かないのであれば、こちらから促すまでだ。


「陛下自らの軍も動かせば、一気に攻め込んで早期に解決できるが?」

 すかさず俺から目を逸らした陛下。軍を動かすのは、余程、面倒と見える。声の調子も上ずっている。


「いやぁ~、国の軍を動かさなくても、ブランドン辺境伯に任せておけば十分だろうぅ」


「何も遠慮は要りません陛下。我が家には、陛下の率いる一軍を受け入れる準備はいつでもできています。援軍はいつでも歓迎します」

「あー、きっと、私が向かったところで足手まといになるだけだ。奪還した後に視察へ行かせてもらうとするから、そのときに頼むとする」


「承知しました」

 取りあえず、承諾する振りだけをしておいたが、来なくて結構だ。 

 戦争が全て片付いてから、国王の御一行を出迎えるのは、ただの面倒事でしかない。そんな話は御免だ。

 何の役にも立たない話を、ぬけぬけと言いやがって。



「ところで、ブランドン辺境伯は結婚したんだよね。ご夫人のことは噂でよく聞いていたが、面と向かって会ったのは初めてだ。今晩の夜会は2人で存分に楽しんでいってくれ」

「……はい」


 陛下の言葉の意味が理解できない。

 マーガレットが噂になっていた。それも、陛下がよく耳にするほど。

 それなのに、どうして俺はマーガレットのことを全く知らなかった……。一体どういうことだ? 

 社交界の噂は、アンドリュー侯爵から俺の耳に入る以外、ほとんど届くことはない。


 マーガレットに、どんな噂があるのか知らないが、害になるものではないのか?

 あとで、アンドリュー侯爵に聞いておくか。


 華やかな令嬢やご夫人たちの中で、ある意味マーガレットの素朴な雰囲気は、目立つと言えば目立つ。噂と言うのは、そういうことだろうか?


 マーガレットは知っているのだろうか? そう思い横にいるマーガレットに目をやると、俺以上に不思議そうな表情を浮かべていた。


 そうだろうな。マーガレットは、薬に関する知識が高いせいで、見落としがちだが相当に鈍いから、自分の噂は何も知らなくて当然か。



 ****

 ※マーガレット視点


 先代の陛下には、デビュタントのときにご挨拶したけれど、現国王とこんなに間近でお会いしたのは、初めて。


 この場にいるだけで緊張するのに、ユリオス様は陛下を相手に堂々と会話をなさっているなんて、私が思っている以上に、影響力のある方なのかもしれない。

 どうしよう。私は妻なのにユリオス様のことを何も知らない。妻としてしっかりしたいのに、これでは全然駄目だ。


 それに、陛下は私たちの結婚のことに触れている。けれど「私の噂」とは、どういう意味なのか、それもよく分からない。


 私って、知らないところで変な噂が広がっていたから、誰からも真剣に見向きもされなかったのかもしれないわね。


 横にいるユリオス様も、不思議そうな顔をしている。彼も私の変な噂は知らなかったんだわ。

 困ったなぁ。どんな噂なのか、怖くて知りたくないし、ユリオス様には絶対に知られたくない。


 私の好きなところを、慌てて「全部」と言うのは、社交辞令の方たちと同じなのに、どうして嫌われるようなことばかり出てくるのよ。




少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や広告バーナーの下にあります★★★★★でお知らせいただけると嬉しいです。

読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月15日に、一二三書房サーガフォレストさまから本作の書籍第2巻が発売されます!
 この作品が新たな形になるために応援をいただきました、全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
 妹に結婚を押し付けられた手違いの妻ですが、いつの間にか辺境伯に溺愛されてました~半年後の離婚までひっそり過ごすつもりが、趣味の薬作りがきっかけで従者や兵士と仲良くなって毎日が楽しいです~2

  WEB版の手違いの妻は、約11万2千文字で完結している作品ですが、書籍版の第2巻は、全編ほぼ書き下ろしです。

■超絶美麗なイラストは、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。中にも素敵な挿絵がたっぷりなんですよ!!
 めちゃくちゃ素敵なので、たくさんの方に見ていただきたいなと思っております。
e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg


html>

 現在、第1巻はAmazonなどの書籍取り扱い店で好評発売中で、第2巻は予約受付中です!
 ■Amazonでの購入はこちらから■

■書籍に関する情報は、こちら■

また、本作は、コミカライズ企画も進行中です!

引き続きよろしくお願いいたします。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ