逃げる妻と追うもの②
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※ユリオス・ブランドン視点
明日からの旅の行程を伝えるために、ニールの執務室へ来たものの、顔を見た途端にいら立ちが起きた。
「ニール! お前、マーガレットに離婚届なんて渡していたのか!」
「ん? あ~、そうでした。僕の執務室を初めて訪ねてきたときに渡したんですが、その直後に色々あって、すっかり忘れていました」
「おい、マーガレットとの離婚を撤回するまでに、時間が掛かったのは、ニールのせいじゃないのか?」
「人聞きが悪いですね。どう考えてもユリオス様が、鈍感なのと不器用なのが原因ですよ。まぁ、良かったですね、やっと伝わったようで」
しれっと言い切るニールへ言い返したい気持ちは山々だが、否定しきれない俺は、大人しく聞き入れるしかなかった。
「まぁ、今回のことは大目に見るが、仕事の報告くらいしっかりしてくれ」
「いつもやっていますよ。それは、たまたま間が悪かっただけです」
自信あり気に言い切るニールは、リリーの件で疑いを向けたことを根に持っているのだろう。
今日はバツが悪い。強気に出られない俺は、引き下がることにした。
「今回は王都へマーガレットを連れていくから、明日には屋敷を発つ」
「そうですか。マーガレット様のドレスが間に合って良かったです」
「マーガレットのドレス?」
「はい。1か月前、あの部屋のドレスを全部捨てたから、新しいのを1着買えとメイドたちが乗り込んできたんです。彼女たちのことだから、ちゃっかり前のドレスは売っているとは思いますけどね」
「どういうことだ。どうして報告しない」
「酷い剣幕だったので、後は彼女たちに任せたので。何が悪いんだか、僕にはさっぱり分かりませんから」
「1か月前って……」
もしかして、マーガレットの気持ちに気付いていなかったのは、俺だけなのか。
自分の鈍さに恥ずかしくなった俺は、思わず手で顔を覆った。
「メイドの誰かを、王都まで同行させますか?」
「いや、1人を連れていくとなれば、3人一緒について来るだろう。あのメイドたちが近くにいれば、ややこしいことになりそうだし、マーガレットと2人きりで行く。王都の屋敷に行けば、母上付きの使用人もいるし問題はないだろう」
「分かりました。あの〜、ユリオス様。マーガレット様は、ずっといてくれるわけですし、あの薬を売るべきですよ」
「何を馬鹿なことを言ってる。絶対に駄目だ。マーガレットは、そんなつもりで作っているんじゃないんだ」
「そうでしょうが、もったいないですよ。あれだけの品を、ただで配るなんて」
「それがいいんだ。彼女の楽しみを奪う真似は、認めないからな。俺がいない間にマーガレットへ変なことを言うなよ」
あの山で見た笑顔。それがなくなるのは、俺が困る。
**
ギャビンとの調整に時間が掛かって、すっかり遅くなってしまったな。
マーガレットは「待っている」と言っていたが、流石にもう寝ているだろうか。
そう思いながらも、俺とマーガレットの部屋の間にある扉を軽く叩いてみた。
だがしかし、マーガレットの部屋の中で人が動く気配はなく、僅かな音も聞こえない。
……やはり、寝ているよな。
畜生、くだらないことを話し過ぎたせいだ。
もっと早く帰ってきたらマーガレットと――。
「はぁぁ~」
がっかりした俺は、自然と深いため息を漏らし、扉に額を付けて、寄り掛かった。
そして、そのまま静寂に包まれていれば、ふと我に帰った。
駄目だ。今のため息は、まずいだろう。
……やばい。
これでは、いよいよ本当に変態だ。
マーガレットが俺の部屋の横へ来た途端、いくらなんでも食い気味になり過ぎだ。
明日から、しばらく一緒に過ごすんだ。いくらでも時間はある、慌てるな俺。
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