正式な夫婦になりました?②
ブックマークと評価、いいね! を頂き、大変嬉しく思っております。
サブタイトルの?(ハテナ) が、なくなるときまで、2人を見守ってください。
※ユリオス・ブランドン視点
「おっ……俺の肩のため。この薬は、マーガレットの好きな人に作ったんだよな」
「そうですけど」
「ってことは、マーガレットの好きな奴って俺なのか……?」
まさか。もう諦めていたのに、こんな夢のような話があるのか?
まずい、感情が崩壊して既に泣きそうだが、俺の勘違いじゃないよな?
「そうですけど。それはユリオス様が、気に留めなくても大丈夫です。自分の身の程はわきまえていますから」
「待てっ。早まるなっ。たっ、頼むから話を聞いてくれっ」
間違いない。マーガレットの好きな奴は、俺だっ。
マーガレットの気持ちを知り、激しく動揺する俺を余所に、それをサラリと告げたマーガレットは、早々にこの話を終える気でいる。
「そっ、そんなに慌てなくても、ちゃんと分かっていますよ。半年だけの手違いの妻だと忘れていませんし、ユリオス様の左肩のことは誰にも言いません。……私、余計なことをしたみたいで、申し訳ありませんでした」
……どうしてこうなる。
俺はまだ、何も言っていないにもかかわらず、マーガレットが酷く青ざめているだろう。
落ち着け俺。慌てるな。静まれ俺の心臓。これではマーガレットに聞こえる。こと恋愛に不慣れな俺が突っ走って、上手くいった試しがない。今度こそ慎重に行くんだ。
「いや。ちっ、違うから。マーガレットは手違いの妻なんかじゃない」
「そうですね。半年経ちましたから他人です。……わっ私、速やかに立ち去ります。ユリオス様、そんなに怒らないでください。今日の行く当てくらいならあります」
他人だと言い張り俺から後ずさるマーガレットに、行く当てがあるだとっ! まさかカイルの所か……。本当に俺のことが好きなんだよな。
「まだ他人じゃないだろう、聞き捨てならないな。勝手にどこへ行くつもりだ」
「しょ書類ですね。っご安心ください。ここに来て直ぐに、ニールさんから受け取った離婚届は、その鞄に入ってます。名前も書きました。ユリオス様は、お部屋に何も取りに行かなくても問題はありません。今すぐに、私はベンさんのところに消え去りますから」
ニールの奴……。勝手に、そんなものを渡していたのか。あいつが絡むと碌なことがない。
それに、どうして叔父上まで出てくるんだ。
あー、分からん、分からん、分からん。俺にこんな高度な恋愛の駆け引きが、理解できるかっ!
こうなったら回りくどいのは、やめだ。
「俺が鈍すぎて、マーガレットの気持ちに気付かなくて申し訳なかった」
「ですから気にしないでください。私、ユリオス様の気持ちは分かっています。私のことを『嫁になんかできるか』って、叫んでいたのを聞きましたから。ははっ」
笑いながら話すマーガレットは、扉をチラチラと見始めた。
俺が兵士の宿舎の前で叫んだ失言を、マーガレットに聞かれたのは知っていたが、カイルを好きなマーガレットのためを思って、否定しなかっただけだ……。だが、誰にも渡したくない程、愛しいマーガレットを、もう逃す気はない。
「あれは、マーガレットへ言ったわけではない。寄ってたかってマーガレットを狙う兵士の奴らへ向けた言葉だ。カイルだって、マーガレットに好意を寄せていただろう」
「あー、カイルですか。好青年が、私のような者に本気で言うわけありません。社交辞令なんて日常茶飯事ですよ。いちいち真に受けていたら身が持ちませんから、いつも聞き流していますが、カイルがどうかしたんですか?」
首を傾げるマーガレットは、まるで分かっていないようだ。
……信じられない。
マーガレットは相当に鈍感だ。あれだけの兵士たちがマーガレットを狙っていたのに、どうして気付かないんだ。
だが、まずは落ち着け、俺。
カイルのことはそれでいい。否定してマーガレットにカイルの気持ちを知らせる必要はない。マーガレットにカイルを意識させるな。
でも駄目だ。俺の話はマーガレットに伝わってくれ。
このままでは、俺の告白も社交辞令にされるだろう。
「カイルのことは気にするな。だがマーガレット、よく聞いてくれ。好きなんだ。他の男どもにお前を盗られると思えば、道の真ん中で叫ぶほどお前が好きだ。幸運にもマーガレットを妻にしたのに、俺が一方的に傷付けたことを、ずっと後悔している。これぐらい俺の気持ちを伝えれば、マーガレットには俺の気持ちは伝わったか? 足りなければもっと言えるが」
耳まで赤くなったマーガレットの様子だと、何とか分かってくれたのだろうか。
「もう、私をどんな鈍感な人間だと思っているんですか? 流石に、そこまで言われると分かりますよ。でも、ユリオス様が私を好きだなんて初めて知りました」
力の抜けた顔を向けるマーガレットは、しれっと言い出した。
だからそれだっ! 俺は、相当態度で示していただろう。
「マーガレットと初めて会った日に、俺が伝えたことを撤回させて欲しい。俺と結婚して欲し……、あー、もう結婚しているのか」
馬鹿か俺は。マーガレットへの大事なプロポーズを何故、噛むんだよ。
「マーガレットを心から愛してる。この先も一生、俺の妻でいて欲しい、頼む」
「ユリオス様からそんなことを言われるとは、正直思ってもいなかったから、今、頭が大混乱してます。でも、私、ずっとここにいていいんですか? どうしよう、凄く嬉しいです」
「マーガレットの家だ、当たり前だろう」
嬉しそうに笑うマーガレットを目にした途端、感情を堪え切れなくなり、俺の胸に妻を片手で抱き寄せた。
彼女の滑らかな髪が、俺の手に触れ心地良さを与えてくれる。
油断してしまえば、いつでも泣ける。俺の腕の中にいる、かわいくて無邪気な妻が、愛おしくてたまらない。
少し前までの俺は、こんな嬉しい誤算が待っているとは思ってもいなかった。
マーガレットが、この屋敷へ嫁いで半年。
俺が話を聞かなかったせいで遅くなったが、やっとマーガレットを俺の妻の部屋へ、招くことができるのだ。
「あっ、私の鞄を持たせたままにして、すみません。それを持って、私は部屋へ戻ります」
「どこへ戻る気だ。マーガレットのための部屋へ、入ったことはないだろう。放っといたら何処へ行くか分からないから、このまま運んでやる」
「以前も同じようなことがあったので、一応確認してもいいでしょうか?」
「馬鹿、俺の妻の部屋しかないだろう」
「えっ。それだと夜にメイドたちが遊びに来られないですよ」
「当たり前だ。夜にメイドたちを部屋へ招くのも、遊びにいくのも禁止だ」
「そんな。暇になっちゃいますよ~」
夜に俺じゃない奴らと過ごしたがっているが、マーガレットの中で、俺は夫でいいんだよな……。
そう思ってマーガレットの顔を覗き込むと、幸せそうな顔で俺に笑い返してくれた。よし、今度こそ大丈夫だ。
年に1度の国王との謁見。俺が王都に顔を出す時期か。
数日後にここを発つ予定だったが、マーガレットと一緒となれば、少し予定を変えるべきだろう。
となれば、直ぐにでも出発しなければ間に合わないな。
少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。