正式な夫婦になりました?①
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鈍いマーガレットが、「愛されている」と気づくまで見届けてくださいませ。
※マーガレット視点
「……リリー、あなた、お約束も取らずに勝手にここへ来たの……? ……なんて失礼なことを、しているのよ……」
妹の無礼極まりない行動に恐ろしくなった私は、力のない言葉を掛けるのが精一杯だった。
私をユリオス様の元へ嫁がせたことで、既に相当な不興を買っているにもかかわらず、力のない子爵家の人間が、事前の承諾もなしに訪ねるなど非常識でしかない。
リリーの我儘ぶりに愕然とした私は、表情さえも失った。
そんな私を余所に、いら立ちが見えるユリオス様が、すたすたと動き扉を開いた。
すると、廊下で控えていたメイドのお姉様たちが、すぐさま突入してきた。
私がユリオス様に引きずられて戻ってきたときには、既に、腕まくりをした3人が待ち構えていたのだ。おそらく、ユリオス様が何かしていたのだろう。
「ちょっとやだ、痛いわね。あたしに触らないでよ! お姉さまも呑気な顔をしてないで、この無礼な従者たちに何か言ってよ!」
「無礼って誰のことかしら? 私たちのマーガレット様のことをエントランスで馬鹿にしていたのは、ちゃんと聞こえていたのよ」
「ここにいても、あなたの食事は出てきませんから、お帰りが早く決まって良かったですね」
「ほらっ。マーガレット様の邪魔になるから、さっさと動きなさい!」
「何よ。本当のことを教えただけでしょ。なんなのよ従者の分際で」
「私たちは、マーガレット様の味方ですわ」
「ふんっ、腹立つわねぇ。お姉さまっ、あたし今回のことは絶対に許さないから!」
嵐のようにやって来たリリーはお姉さま3人に、事実、引きずられてこの部屋から姿を消した。
怒鳴り散らす声が消えた途端、張り詰めた空気が、余計に際立っている。
そんな静まり返った応接間に、ちょこんと残された私はどうしたらいのだろう。
立場のない私が、恐る恐る横にいるユリオス様を見上げると、相変わらず鬼の形相である。
リリーが帰ったとしても、未だにユリオス様の顔が緩まる気配はない。
身勝手なリリーは全てをめちゃくちゃにして、この場から逃げられたけれど、私はここに取り残されているのだ。まったく、どうしてくれるのかと泣けてきた。
もう、どうして、そうなの……。
私が何かをする前に、いつだってリリーが壊していく。
ユリオス様へのお礼も、お別れも、もっと笑ってしたかったのに。
……こんなことって。
私が話し始めると、またしても話は途中で遮られてしまった。
「ユリオス様、妹が迷惑を掛けて申し訳あり……」
「いや。初めから分かっていれば門で追い返していたのに、俺が勘違いをして招き入れたのが悪かったんだ、気にするな」
「……そうでしょうか。でも、ユリオス様が我が家へお金を送っていたことを、今日まで知らずに過ごしてしまい申し訳ありません。私なんかが嫁いで来たのに、お父様はお返してもしてないなんて、どうしたらいいのか」
「それはマーガレットの気にすることではない。むしろ、マーガレットが来てくれて、本当に助かったんだ」
「助かったなんて。……でも、怒っていますよね」
「当たり前だ。俺に黙ってこの屋敷を去ろうとしていただろう! まさか、リリーに騙されて、ウエラス伯爵の所に自分から行こうとしていたんじゃないのか?」
痛い所を突かれた私は、ドキリとすると同時に深い罪悪感に襲われた。
「もっ、申し訳ありません。ユリオス様にお礼もせずに勝手に帰ろうとして」
「俺のことはいいが、カイルへの薬をリリーへ渡してどうする気だ。好きなんだろう」
「この薬はカイルのためじゃなくて、ユリオス様のですよ」
「はっ? 俺のため?」
何を言っているのか分からないと言いたげに、ユリオス様は目をパチクリさせた。
「2人で山茸をたくさん採ってきたじゃないですか。お世話になったお礼と、これからもお体を大切にして頑張っていただきたくて用意したんです。冴えない私は、薬を作ることしか取り柄がないので」
「待て、待て。……俺の薬って、どういうことだ? 嘘だろう」
そうだった。山茸を採りにいったときに、効能の説明を根こそぎ割愛したままだった。
「左肩の動きがいまいちですよね。毎日塗っていれば、使い切る頃には良くなるはずです」
それを言い終える前から、見る見るうちにユリオス様の顔が真っ赤になり、口元があわあわと動いている。
……またやってしまった。
デリケートな左肩のことを、私が指摘する真似をして、ますます怒らせたようだ。
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