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リリーの企み

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

マーガレットとユリオスの不器用な恋。どんどん動き始めていきますので、最後まで、よろしくお願いします。

 ※マーガレット視点


 本邸の応接間。

 自分では使うこともないが、メイドたちの指導のお陰で、この屋敷の間取は熟知している。

 手違いの妻と言えど、リリーを案内するのは何ら問題はない。


 2人で廊下を歩く最中。目を丸くしたリリーは、落ち着かない様子で首を左右に動かしているかと思えば、豪華なシャンデリアの前では、口に手を当て見上げていた。

 私も初めて足を踏み入れたときは圧倒された記憶があるから、リリーの気持ちは確かに分かる。

 だが、貧乏子爵家丸出しの反応は、大概にして欲しいものだ。


 リリーを連れて応接間に入ると、相変わらず豪華絢爛な調度品が目に飛び込んでくる。


 部屋の角にある石像の美しさは言うまでもないが、この部屋に敷かれた絨毯も、おそらく、相当に高価な代物だと思っている。

 何せ、ソファーの下に身を隠した経験者として、その毛足の良さを体感済みである。


 この部屋を見回すのに忙しいリリーは、全く私にはお構いなしだ。


「ちょっといいかしら、リリー」

「何かしら? まさかお姉さまが、あたしに話があるとは思わなかったけど」

 私に背中を向けたまま返答するリリーは、輝く宝石が埋め込まれた花瓶に目を奪われている。

 私を姉とも思わない妹の挑発的な口調は、以前と全く変わらない。

 だからと言って、私の方も、それくらいで怯むわけにもいかず話を続けた。


「どうしてあなたから、ブランドン辺境伯様の結婚を断ったのよ。子爵家が断っていい相手じゃないでしょう」

「あたしにだって事情があったのよ、知りたい?」


 ようやっと私を見たかと思えば、リリーは自慢げにニヤリと笑った。

 また始まった。私が質問をしたのに、どうして「知りたい」と切り返すのだろう。こうやっていつも、話の主導権がリリーに変わっていくのだ。


「話したいならどうぞ」

「それじゃぁ、聞かせてあげるわ。お姉さまだって知っているでしょう。ファレル公爵家の次期当主」

「もちろんよ。高位貴族の令嬢たちが、いつもその方の周りを取り囲んでいるから、凄く目立っていたもの」

「あたし、彼と良い関係だったのよ。毎週、公爵家の屋敷へ招かれていたんだから」

 

 リリーが嬉しそうに話す人物は、社交界で一番人気の高かった、あの貴公子様のことだ。

 社交界でのリリーの人気は知っていたけど、まさか、何の力もない下位貴族が、社交界の上位にいる次期当主を狙うのは、流石の一言。


 あれ、……待って。

 あの貴公子様とリリーが結婚してくれるなら、もしかして、ユリオス様とのことはないのかしら。それなら、私がユリオス様の妻になれる可能性がある……。

 ……どうしよう。嬉しくて私、既に泣きそうだ。

 

「それなら、悠長にここへ来ている場合じゃないでしょう。何しに来たの? 早く帰った方が良いわよ」


「聞いてくれるお姉さまっ! もう少しで婚約がまとまるってときに、第3王女様が割り込んできたのよ! 信じられないでしょ。彼と並んでも恥ずかしくないように、高級品を揃えまくったのに、全部がパァよ」


 王族の横やりが入ったのでは、何をしても叶うはずはない。

 ……何だ、そういうことか。舞い上がった気持ちは、瞬時に突き落とされてしまった。


 わざわざ我が家の暮らしに見合わない背伸びをして、その結果か……。あれ、……でも。そのお金はどこにあったのだろうか?

 実家にそんな余裕はないのに、今、リリーが着ているドレスも明らかに高価な品だ。


「そのお金は、どこにあったのよ。うちに余裕なんてないでしょう」

「それは、あたしと結婚する予定だった、彼が出してくれたのよ」


「……そう。それは残念だったわね。だからってリリーの代わりに、どうして私をユリオス様と結婚させたのよ」

「あー、それ。本当っっ、お姉さまなんかには、もったいない相手よね。好条件な結婚、あたしだってお姉さまにだけには譲りたくなかったわ。悔しいけど、それはお父様が言いだしたことよ。ここの当主だったらお姉さまを任せられるって。まあ、我が家の厄介者を、さっさと追い出したかったんでしょう」


 ……そんな、酷い。お父様が私をだましたの?

 いくら、私が勝手なことばかりするからって、屋敷を追い出すなんて。


「で、どうして今日はここへ来たの?」

「ブランドン辺境伯様からの手紙を読んだお父様が、『何も分からん馬鹿が』って、言っていたわよ。どうせ、妻として受け入れてもらえなかったんでしょう。まぁね、初めっから、お姉さまには無理だったのよ。豪華な屋敷で優雅な暮らしは、そもそも向いてないもの」


「リリーが今日、ユリオス様の元へ来たのは、やっぱり……」


「そうよ、お姉さまに代わって、私がブランドン辺境伯様の妻になるためよ。こんなことなら半年前に断らなきゃ良かったわ。でもまだ、ブランドン辺境伯様はあたしと結婚する気があるから、ここへ来たのよ。(ふふっ。だって、お姉さまが嫁いで来たことに酷くご立腹だったのに、未だに、あたしのために払った結婚支度金を返して欲しいって言ってこないんだもの)」


 自信に満ち溢れたリリーの言葉に、今さらながら、酷くショックを受けている。

 もちろん、そんなことは承知の上で帰る支度をしていたわけだ。けど……、ユリオス様がリリーを見て、嬉しそうに笑うのは、辛すぎて見ていられそうもない。


 これ以上惨めな思いをするくらいなら……。端からお呼びではない私は、ユリオス様と顔を合わせる前に消え去りたい。 


「リリー。ユリオス様のために作った薬を今取ってくるから待っててちょうだい。既に荷物もまとめてるし、リリーに使い方を説明して、あなたの乗ってきた馬車で、私は実家に帰るから」


「やだ。ここでも、やってたの? 子爵家の従者たちが、お姉さまがいなくなって喜んでいたわよ。毎日毎日、草を採りにいくのに振り回されないで済むってね。実家へ戻ったら、ほどほどにしてね。あっ、でも、お姉さまは実家では暮らせないわ。お姉さまは、ウエラス伯爵様と縁談が決まったから、実家へ帰るよりも、真っ直ぐそっちへ行った方が近いわよ」


「えっ」



 扉へ向かって歩いていた私の足は、予期せぬ話に動きが止まった。

 私の縁談。どう言うことだ。まさかそれを、お父様は既に受けたというのか?

 私を騙して結婚させる程、私が帰ってくるのがよっぽど迷惑なのか……。


 お相手であるウエラス伯爵様? 聞いたことが、あるような、ないような。

 夜会で会ったことが、あるような、ないような。


 駄目だ。考えるだけ無駄。いつも適当に相槌を打つだけの私が、挨拶程度の方をちゃんと覚えているわけがないわ。



少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。

大変親切な読者の方々、誤字報告ありがとうございます。本当にお手間をおかけしました。とても助かります。

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