リリーの策略に乗せられた辺境伯
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※ユリオス・ブランドン辺境伯視点
辺境伯の俺が王都へ行くなど、年に何日あるだろうか?
目的は国王との謁見だったが、久しぶりに参加した夜会に興味をひかれた女性がいた。
それが、今日、妻として迎えるはずのリリー・ヘンビット子爵令嬢だった。
交友のある侯爵家の人間が紹介してきた、リリー。
俺が辺境伯だと分かると、薬草を煎じて作る、怪我や炎症を抑える薬の話をしてくれた。
女性と話をするのを得意としない俺が、彼女とは緊張もしなかったのが不思議なくらいの時間を過ごした。
随分と話し込んだ気がしたが、夜会では1人と長話をするわけもない。おそらく俺の気持ちが、そう感じさせただけだろう。
彼女の薬草の話。
正直、俺自身は怪我をすることは過去に1度きりだが、兵士たちが負傷することは日常茶飯事であり、興味をそそられた。
彼女の軽快な話に引き込まれ、もっと彼女を知りたくなった。
女性を好くとは、こういうことかと、情けないが初めて抱いた。
26にもなって何を言っているのかと自分でも思うが、毎日兵士たちといるせいで、これまで悠長に抱くことのなかった感情だ。
博識のリリーを妻にするには、相応の結婚支度金が必要だろうと、先走って金を送り付けた。
危険も伴う辺境の地を守る分、国からの報奨金も多いのがブランドン辺境伯領。
こんな言い方はいやらしいが、我が家に潤沢にある資金で、リリーに見合う分の支度金を送ったと思っていた。
なのに何故か、別人が当たり前のように我が家へ嫁いできた。
俺の常識では全く理解できない。
その別人が、俺の待ち望んでいた女性とは違う名前を、悪びれる様子もなく、自信満々に口にするから思わず面食らった。
聞き違いかと思ったが、美しかったリリーとは違う、素朴な顔のおかげですぐに別人だと理解した。
2人の雰囲気が違うせいで、姉妹と言われても、それを信じていいのかさえ疑わしいのだが。
自分より先に結婚する妹に嫉妬して、人の縁談を横取りするのは、例え姉でも普通ではない。
常識を外れた行動をとるマーガレットと結婚したなんて、俺としては大失態だ。
今すぐ追い返したいところだが、大聖堂へ既に結婚誓約書を送ったとなれば、話は別だ。
思えばあの日、結婚誓約書が入った封筒を開けたと同時に、ニールから隣国の侵入の知らせを受け、直ぐに出陣したのだ。
そのせいで、碌に内容を確認しないまま誓約書をニールへ渡し、今朝帰ってきてからも、その存在すら忘れていた。
畜生! 慌てていたとはいえ、何の言い訳にもならない行動だ。
言葉の意味もそうだが、本当に困り果てて頭を抱えている。
貴族の偽装結婚を防ぐために、結婚後6か月は離婚できない。
その間に、大聖堂の奴らは偽装結婚の疑いを確認している。
税金対策の不正な金銭のやり取りを取り締まる対策だ。
偽装結婚だと認定されて離婚すれば、それから再婚まで3年待たなければならない。
間違って結婚したマーガレットを追い返すわけにもいかないとは、こんな失敗は今までしたことがない。
ヘンビット子爵家には抗議の手紙を送るが、送ったところでどうすることもできないか……。
結婚支度金だって、舞い上がった俺が、ヘンビット子爵家の返答も聞かないまま、先走って送ったのが悪かったんだろう。
そもそも、女の扱いも対応も慣れていない俺が浮かれたせいで、こんな失敗になったのだ。
今回は高い勉強代だと思い割り切るとするか。
金を返せと騒いで、これ以上の厄介事になるくらいであれば、このまま放っておくのが得策だろう。
正直なところ、妻を選り好みするつもりはないが、マーガレットのような自信のない女は、俺の妻と受け入れられない。
気鬱の女は、俺の好みではないのもあるが、この危険な辺境の地で、俺の留守を守れないだろう。
俺が妻に求めるものは、俺がいなくても屋敷や領地を仕切れる気概。
何より、妹宛ての結婚の申し出に、横から入り込んでくる女は、結局のところあり得ない話だ。
自由に過ごして良いと伝えたが、マーガレットの小手先の策略では、どちらにしても、偏屈な使用人が多いこの屋敷では、満足に暮らしていけないだろう。
何を企んでいるか分からないマーガレットが、俺の近辺を漁り、軍の情報を敵国に流されては失態の上塗りになるからな。
まずないだろうが……、用心するために釘を刺した。
俺としては、しばらくマーガレットとは顔を合わせず平和に過ごしたいところだ。
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