表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

夫が渡した結婚支度金の行方

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

最後まで、よろしくお願いします。

 ※ユリオス・ブランドン視点 


 俺が兵士たちの宿舎から屋敷へ帰れば、出迎えのために待つニールと共に、マーガレットもエントランスに立っていた。

 彼女は服装に無頓着なのだろう。いつも、質素なワンピースか年季の入ったズボン姿。そのどちらかで、全く派手な印象はない。むしろ、それを好ましく思う俺にとっては、可愛く見えて仕方ないが、今更ながらに伝える機会を逃してしまった。


 あと2週間もすれば、離婚の誓約書を大聖堂に提出できるが、彼女から申し出がなければ、俺からマーガレットに、それを切り出すつもりはない。

 屋敷の奴らもマーガレットが居るだけで、喜んで仕事をしているようだし、俺は屋敷で彼女の顔を見られるだけで、幸せだ。


 何よりも。彼女以上に気持ちを揺さぶる女性は見つかるわけもなく、マーガレットとカイルの結婚を見届けた後に、頭を冷やしてからでなければ、俺は次の結婚へ動きだせる気がしない。


 嬉しいのか、悲しいのか複雑な心境だが、離婚が差し迫る今頃になり、俺たち夫婦の関係が変化している。

 山へ一緒に登った日以降、マーガレットと何処で会っても、彼女から話しかけてくるのだ。

 今まで、俺がマーガレットを追いかけていたのが、嘘に思えてくる。


 今だって、彼女が少し憂いを帯びた雰囲気で、俺に話しかけようとしている。

「ユリオス様……、明日から、また出陣なさると聞きましたが……」


 いつも笑顔でいることの多いマーガレットだが、神妙な面持ちを見せた。

 おそらく彼女の不安は、カイルを案じてのことだろう。


「ああ。そうは言っても、ここから一番近い基地へ行ってくるだけだ。兵の奴らもみんな、2週間もすれば戻ってくる」

 明日から出発する遠征の予定を伝えると、マーガレットは打って変わって笑顔になった。

 途端に花が咲いたような反応を見せる理由が、俺であったなら、と心の中でそっと、願ってしまう。


「良かった。また、長期で不在になるのかと心配していたんです。あの~、ユリオス様には必要ないと思いますけど、私に何か出来ることはありませんか?」


 にこにこと頬笑むマーガレットに見つめられ、断る理由もない。

 

 マーガレットの薬。俺にとっては、別になくても困るものではないが、他の奴が持っていれば、妬む気がしてならない。以前の遠征では、俺だけが貰えなかった彼女の優しさだ。


 俺も、彼女に甘えたい。


「以前、渡してくれた疲れを取る薬。せっかくだから、それを持っていきたいが……」

「ふふっ。分かりました。では、後からお部屋に持っていきますね。その後は、兵士の宿舎の中を回りますね。最近、忙しくて足を運べていないんですよね」


「マーガレット。宿舎の中を1人で歩くのは危ないから、カイルから離れるなよ」

「こう見えても大人ですから、心配し過ぎですよ。どんくさい私でも、流石に宿舎の中で迷子になりません。でも、荷物持ちがいてくれると助かるので、そうしますね」

 真面目な顔のマーガレットは、自信気な口調で話し終えた。


 迷子……。おいおい、問題は別だ。兵士の宿舎は、マーガレットを狙う奴らの巣窟だろう。

 大丈夫か……。相当に腕の立つ薬草師の一面があるから惑わされてしまうが、マーガレットは、一見しっかりしているようで、まるで子どものようだ。


 それに、人が好過ぎるところも危なっかしい。


 彼女との関係も、そろそろ最後だろう。結婚以来、気になっていたことを後で聞いてみるか。



 ****


 ※マーガレット視点


 ユリオス様のお帰りは、2週間後と聞いて、ホッとした。

 2人で採りに行った山茸の乾燥に時間が掛かり、まだ、ユリオス様にお渡しする薬ができていない。なのに、また、2か月もいないとなれば、薬を直接お渡しできなくなるもの。

 最後のお礼くらい、自分でしっかりすべきだと思うから。



 ユリオス様が遠征からお戻りの頃には、ちゃんと完成するはず。これで、ユリオス様へ想い残すことなく、実家へ帰れる。


 もうそろそろ、帰る用意を始めなくてはいけない。とは言っても私の荷物は薬ばかりで、適当な普段着を鞄に詰め込めば直ぐに終わる。


 住めば都。まさにそのとおりで、使用人の宿舎があまりにも居心地が良かった。

 毎晩、お姉様たちが、この部屋を訪ねてきて楽しかったし、荷物になる薬は、全て置いていっていいと、親切にしてくれる。


 本邸までの移動中、私の姿を見つけたベンさんが、駆け寄ってきた。


「マーガレット、お前さん本当にここを離れるのか?」

「そうですよ。初めからその予定ですから」

「カイルの嫁になるのは、そんなに嫌か?」

「ふふっ。もうベンさんってば。絵に描いた紳士のカイルに、私のような地味な女は釣り合いませんよ。ちゃんと身の程はわきまえていますから」


「それなら、儂と結婚したらいいんじゃないか。実家に帰っても、何の当てもないんだろう。お前さんがいなくなったら、儂の話し相手がいなくなるからな」


「う~ん。ベンさんのことは嫌いじゃないし、嬉しいけど。駄目ですよ、そんなことを簡単に言ったら。私、急ぐのでもう行きますね」

 モテない私にとっては、大変ありがたい申し出。でも、これに食いついてはいけないことくらい分かる。

 だって、庭師のベンさんに、息子がいる時点で既婚者。問答無用に論外だ。



  


 ユリオス様の部屋の前。

 扉をノックした後から、乙女の妄想が始まった。


 ……アレのせいだ。


 以前見てしまったユリオス様の、逞しいお胸――。

 見れば恥ずかしいくせに、引き締まった体を拝見したくて、あの姿で、また現れないかと期待をしているのだ。


「待たせたな、マーガレット。ん、顔が赤いが熱でもあるんじゃないのか?」

「部屋から走ってきたせいなので、気にしないでください」

 軍服を着たままの真面目なユリオス様に、まさか裸で出て来て欲しかった、なんて言えるわけない。

 

「そんなに急がなくても良かったのに、気を遣わせて悪いな。それと、俺からも聞きたいことがあるんだが、いいか?」 


「構いませんけど」

「マーガレットが俺の屋敷へ来ることが決まって、お前のために何か買ってきたものはあるのか?」

「……申し訳ありません、質問の意味がちゃんと分からないのですが、半年くらい前に何か買ったか? と言うことですか」

 

「ああ、そうだ」

「それなら、えっと……。確か、父からユリオス様の元へ行くのに必要なものを聞かれたので、買って貰ったものがありましたけど」

「嫌じゃないなら、何を買ったか教えてくれ」


「薬を入れるために使う瓶や袋をいっぱい買っていただきました」

「本当に、それだけか?」


「はい。他に必要なものは思いつきませんし。それが何か?」

 頭の中で問われた理由を考えてみたが、私には見当もつかない。


「いや、こちらの話だ。この薬はありがたく受け取っておく。俺は明日早いから、マーガレットが起きたときには、いないだろう。留守を頼む」

「あ、はい。お気をつけて」


 どういうこと?

 わざわざ聞くようなことかと、腑に落ちないながらも、ユリオス様の部屋を後にした。



少しでも先が気になる、面白いなど、気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や☆評価等でお知らせいただけると嬉しいです。読者様の温かい応援が、執筆活動の励みになります。

誤字報告を送っていただきました読者様、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月15日に、一二三書房サーガフォレストさまから本作の書籍第2巻が発売されます!
 この作品が新たな形になるために応援をいただきました、全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
 妹に結婚を押し付けられた手違いの妻ですが、いつの間にか辺境伯に溺愛されてました~半年後の離婚までひっそり過ごすつもりが、趣味の薬作りがきっかけで従者や兵士と仲良くなって毎日が楽しいです~2

  WEB版の手違いの妻は、約11万2千文字で完結している作品ですが、書籍版の第2巻は、全編ほぼ書き下ろしです。

■超絶美麗なイラストは、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。中にも素敵な挿絵がたっぷりなんですよ!!
 めちゃくちゃ素敵なので、たくさんの方に見ていただきたいなと思っております。
e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg


html>

 現在、第1巻はAmazonなどの書籍取り扱い店で好評発売中で、第2巻は予約受付中です!
 ■Amazonでの購入はこちらから■

■書籍に関する情報は、こちら■

また、本作は、コミカライズ企画も進行中です!

引き続きよろしくお願いいたします。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ