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互いの関係を吹っ切った2人

ブックマークと評価、いいね! を頂き、ありがとうございます。

最後までよろしくお願いします。

 ※ユリオス・ブランドン視点


 洞窟の外が徐々に白み、少し前から、橙色の光の筋が、洞窟の天井を照らしている。


 日が登ったことで、安心しきった顔のマーガレットが、よく見えるようになった。

 俺の肩に寄り掛かり、静かな寝息を立て、眠っているマーガレット。できればもう少し、このままでいたい。


 だが、俺のつまらない感情を優先させるよりも、一刻も早く彼女と下山すべきだろう。


 名残惜しさを抱えたままの俺は、マーガレットを抱き寄せる腕で揺すりながら声を掛けた。


「マーガレット。朝になったが起きられそうか?」


 そうしてみたものの、彼女の閉じたままの瞼は、ピクリとも動かない。

 そんな姿を見ると、まだ起こさずに彼女の温もりに浸っても責められない気がしてくる。


 マーガレットは初めての野宿だろうし、昨日の疲れも十分に取れていないだろう、と自分勝手な言い分さえ思いつくのだからおかしな話だ。


 だが、水さえも摂らずに山頂で長居をすれば、体力を失うだけだ。


 彼女を安全に連れ帰るためには、少々手荒にでも起こすべきか……。


「マーガレット、朝だぞっ!」

 俺の荒げた声に気付き、薄っすらと目を開けるマーガレット。

 彼女は、俺に寄り掛かっていた頭を動かせば、ハッとした表情を見せて、離れていった。


「おっ、おはようございます。私だけぐっすり眠ってしまい申し訳ありません。私は温かくてよく眠れましたけど、もしかして、ユリオス様は一晩中起きていたのですか?」


「俺にはよくあることだ、問題ない。雨は上がっているし、山茸を採ってさっさと山を降りるぞ」


 それを伝えた途端、マーガレットが満面の笑みになった。

 目覚めた直後にもかかわらず、気持ちを昂らせる程に、山茸を持ち帰るのが、嬉しいのだろう。


「そうですね、きっと昨日の雨で一杯生えているはずですよ。まだ、誰も採りに来ていない一番乗りですからね。ちゃんと必要な分だけ採れると思います」 


 マーガレットを笑顔にするのが、カイルのための山茸。その現実を目の当たりにし、気が付けば唇を噛んでいた。


 俺の気持ちにお構いなしのマーガレットは、跳ねるように立ち上がり、楽しそうに外へ飛び出した。



 ……妻は、俺の気も知らずに呑気なものだ。


 まぁ、それでいい。

 マーガレットが好きになったカイルは、信用のできる男だし、あいつの父親もあの叔父上だ。


 マーガレットが嫁いでも、悪いようにはならないだろう。


「キャァー、ユリオス様、大変ですっ!」


 洞窟の外に出たマーガレットが、俺に助けを求めるような悲鳴を上げた。


 それに驚いた俺は、慌てて彼女の元へ駆け寄ると、念入りに周囲を見回した。



 ……だが、開けた平坦な場所に佇むマーガレットの近くに、俺の目には、危険なものは何も映らない。


「大丈夫か……。何かあったのか?」


「はい! 辺り一面に山茸が溢れていますよ。これだけ採って帰れば、調子の悪いところもしっかり良くなります。私たちって、すごく運が良いですね。だって、寝て起きたら山茸の方からやって来たんですもの。踏み荒らされていない綺麗なままなんて凄いわ。昨日から山に登って大正解でしたよ」


 そう言ったマーガレットは、くすくすと、上機嫌に笑っている。

 そのかわいい表情に当てられてしまい、俺の時が止まった気がした。

「それは、良かった……よかった」


 動揺して上手い返答が見つけられない俺は、適当な返事しか言えずに終わった。


 もしかして、この愛しい気持ちが、恋なのか……。




 ……マーガレット。俺の失敗を、そんな風に笑い飛ばしてくれるなんて。

 馬鹿やろう……。

 どう考えても、昨日、山に登ったのは大失敗。それを運が良いと喜ぶなんて、どこまでお人好しなんだ。


 馬鹿は俺の方か。


 どこを探しても、お前以上に優しい女は、いないだろう。


 俺が偶然手に入れた妻は、これまで見てきたどの令嬢よりも、良い女だったのに、その妻に俺は......。


 


 喜ぶ彼女を見ているときだ。雨は降っていないが、俺の頬を、一筋の水が伝った。


 ……いや、違うんだ。

 これは寝ていないから欠伸をしただけだ。

 決して泣いているわけではない。

 お前に好きな奴がいるのが分かって……、泣いているわけではないんだ……。

 そう言い訳したところで、自分の意思で止められずにいる。


 

 情けない顔を見られるのが恥ずかしい俺は、彼女に背中を向けた。


 それでもマーガレットは、「ありがとうございます」と、俺に礼を言いながら、既に山茸を採っているようだ。


 カイルの奴が、一体どこに不調を抱えていたのか知らないが、良くなってもらわねば、遠征にも響くに違いない。


 行き着く先は俺のためでもあるわけだ。

 拗ねていないで、採りにいくか……。


 さてと……。

 涙も乾き、気を取り直した俺は、どれがマーガレットの言う山茸を確かめるために、彼女を見やる。


 すると、山茸を採るのに夢中になり、崖っぷちに迫りそうなマーガレットの姿があった。


「おい、危ないから俺から離れるな」


「ユリオス様、早くこっちです」

 俺がそう言えば、嬉しそうなマーガレットから、腕をぐいぐいと引かれ、群生している所まで誘導された。


 離婚を引き止めようと、必死に追いかけていたのは、薬をもたらすマーガレットだった。


 ……だが今頃になって、無邪気なマーガレットに恋心を抱いたと、胸に突き刺さる痛みが、俺に気付かせてくれた。


 ****


 ※マーガレット視点


 ユリオス様の肩に寄り掛かかり、ここが外だということも忘れて眠りこけた。


 きっと、ユリオス様は一睡もせずに周囲を気に掛けていたはずだ。


 それなのに、疲れた素振りを少しも見せない。


 昨日、雨で濡れてしまい、冷えたにもかかわらずだ。


 無理をなさった彼の体調が、心配でならない。そこは、屋敷へ帰った後に何とかする必要がありそうだ。



 だが、今は山茸のことだろう。

 長年に渡る不調。短期間、薬を塗るだけでは、彼の肩は治りきらない。


 早く下山すべきだが、ユリオス様のためには、出来るだけ多くの山茸が欲しいところだった。



 それがまさか、この短時間で、カゴに入りきらない程たくさんの山茸が採れるとは、思ってもいなかった。


 この量が確保できたとなれば、彼の肩は、確実に良くなる。

 

 ……これで、やり残すことなく、ユリオス様のお屋敷を去れるはずだ。




「後で、ユリオス様の部屋を訪ねてもいいですか?」

「俺の部屋にマーガレットが?」

「あっ、お渡ししたいものがあるので、それだけ渡したら、すぐに立ち去ります。深い意味はないから安心してください」


 私が部屋を訪ねると言えば、目を見開き、ユリオス様がろうばいした。


 まさか、疲れているはずのユリオス様を労うためなのに、そこまで拒絶されるとは。


 いや、当然だろう。手違いの妻が、部屋に押しかければ、困るに決まっているのだ。


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