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妻は、突然の夫の登場に戸惑う

お待たせいたしました。やっと、マーガレットに戻ります。

 ※マーガレット視点


 メイドたちが仕事をする時間。そんな珍しい時間に私の部屋にノックが響いた。

 やる気を出せば仕事の早いメイドが、全速力で仕事をこなし、私の部屋でお茶を飲みに来たのだろう。

 そう思い、わたしが借りている使用人部屋の扉を、躊躇いもなく開けてしまった。


「うぅわっ」

 感情のままに、出そうになった声。慌てて喉の奥で掻き消した。

 おそらく辺境伯様には聞かせていないはずだ。


 お仕着せのお姉様が立っているはずだった。それが、まさかの黒を基調とした正装の男性。それも、マントまで着けて、やる気、最高潮のブランドン辺境伯様が、神妙な面持ちで立っている!


 身に迫る恐怖で、瞬時に身の毛がよだった。

 逃げるが勝ちだ。いつでも扉を閉められる体勢で戦いに挑む。


 この方のノックは、ドアが外れる、いや壊れる程の迫力だ。

 それが、私を騙すような遠慮がちのノックとは、……何か裏がある。

 それくらい、鈍い私でも流石に気付ける。


 先ぶれもなく「血を求める辺境伯」様が、私の部屋を訪ねてきている。もうこれは、嫌な予感しかしない。


 私は視線を落とし、すかさず、お腰の剣を確認した。

 お陰で確証を得た。屋敷の中を歩くだけの辺境伯様が、本気モードの剣を身に着けている。


 いつ、それに手を掛けるか、私の視線はそこに集中した。


 隊長様の承諾も得ずに、兵士の皆さんに私の薬を渡して遠征に送り出したままだった。

 2か月も前の記憶は、すっかりと薄れかけ油断していた。


 今回は長くなるからという理由で、みんながみんな自分に必要な薬を欲しがっていた。


 それで、不興を買ったのだろう。

 まだ離婚までは、1か月あるはずだ。

 いよいよ、そこまで待てずに、私に屋敷を立ち去れと言いたいのか。


 そうだとしたら、残りの期間に材料を採りに行き、ブランドン辺境伯様へ渡そうと思っていた計画が全て白紙になる。


 悔しい。できれば、あと1か月はここにいたかった。


 何も知らない私だが、辺境伯様の元へ来て、国を守ることが、どれだけ過酷なことなのか分かったのだ。

 それを知った今、ブランドン辺境伯様の抱える不安を、そのままにしたくない。



 ――ん? 

 ブランドン辺境伯様から、叱責される言葉を待っていた。

 けれど、なんだか様子が違う。

 あれ、私に出ていけとは言わないのか…………。


 名前で呼んで欲しいとの彼の提案が、どんな思惑があるのか、さっぱりわからない。

 だが、軍を率いる彼のお考え。相当な策士の発言が、意味を持たないはずがない。


 そう思い少し考えてみるが、いくら考えてみたところで、凡人の私には分かりかねる。


 いや待てよ。私は、間もなく離婚を控える身だ。

 私たちの離婚の際、私が名前を呼ぶ無礼を働いたと、責める口実な気がする。

 何か深い狙いがある辺境伯様の命令に、従わないのは、手違いの妻失格だ。


 私は試すように呼んでみた。


 ――!

 すると、私の予想は当たっていたのだ。


「ユリオス様」と、たかが名前を呼んだだけで、凄く嬉しそうな顔をなさった。

 まさか、これっぽっちのことで、ここまで笑顔になった殿方を、私は見たことがない。

 兵士の皆さんを名前で呼んでいるが、こんなに喜ばれないのだから。


 離婚の口実ができ、安心したのだろう。


 今日は、何かを試されているのだろうか。

「欲しいものはないか」って、そりゃー元々ない。

 この辺境伯領に敢えてドレスを1枚たりとも持ってこなかった私が、ドレスも宝石も欲するわけがない。

 ……この方は何をしたいのだろうか。


 ――もしかしてだ!

 私が何かを強請れば、我が儘な妻として訴えるつもりだろうか。

 それで後から子爵家へ請求するのだけはご勘弁だ。


 お金は無理。

 ヘンビット子爵家は、名前だけの貴族。

 商才のない父は、細々と領地管理しかしていない。

 元々、贅沢をするお金もないし、そんな請求をされれば、子爵家の存続の危機だ。


 父なんて、ただの趣味で作る私の薬を、売るべきだと言い出す始末。

 素人の薬にお金を取るなど失礼極まりない。

 断固拒否したが、そこまで我が家は困窮しているのだろう。


 私はリリーのように着飾って女性らしさを磨くよりも、自分の趣味に夢中になっている変わり者だし、その自覚はある。

 宝石やドレスよりも、その辺に生える植物が欲しいと言えば、ユリオス様は笑うのでしょうね。


 これまで、私の周りにいた者は、日焼けした私を笑っていた。

 だから、理解のあるカイルと一緒に採りにいくと伝えた。

 だけど、何がどうなって、ユリオス様が一緒に行くって話になるの?


 ユリオス様であれば、天候を読めるはずだ。

 今から山に行くとは、……正気の沙汰じゃない。


 私を山へ捨ててくるつもりか……。


 いや、私なんかを捨てるのに、そんな手間のかかることを敢えてするはずがない。


 自分に自信がないせいで、あまりに疑心暗鬼になり過ぎだ。


 あー、もう。ユリオス様が何を考えているのか、ちっとも分からない。


 それもそうだろう。

 百戦錬磨のユリオス様が、自分勝手な私への制裁を、2か月掛けて練ってきたんだ。


 鈍くさい私には、ユリオス様が何を企んでいるのか、分かるはずなくて当然。


 それにしても……、何かおかしい。




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