夫は妻の存在が、兵士たちの間で大きくなっていることに気付く
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※ユリオス・ブランドン視点
遠征中の兵士たちを観察すれば、おそらく彼女から貰った薬だろう。
誰もが皆、小さな同じ瓶を持っている。
信じられないことに、俺以外の全員がその瓶を持っているのが浮き彫りになった。
相当由々しき事態なのは明らかだ。俺だけがマーガレットから相手もされず取り残されている。
結婚初日。マーガレットへ冷たく接したことに、後悔しかない。
どんなに自分を責めても、無意味なことに憤りを感じた。
ふと横を見ると、ギャビンが何かを探している。
マーガレットの関係が、ここまで拗れたのはお前にも責任がある。
腑に落ちないが、唯一の常識人に彼女の探りを入れる。
「ギャビン、お前もマーガレットから何か貰ってきたのか?」
まるで知ったような口ぶりで聞けば、ごく当然のように返ってきた。
「僕は、遠征中によくお腹を壊すから、それに効く薬をいくつか貰ってきました。隊員たちには、疲労回復の薬が評判ですが、隊長は何を貰ってきたのですか?」
ギャビンは周知の事実として、シレッと俺に聞き返したが、その薬の存在を、今確認したところだ。……相当に、ヤバい。
何を持ってきたなどと、俺に聞くな!
お前との会話を誤解され、関係が更に悪化して会話もままならない俺が、薬を貰えるわけないだろう。
「俺には必要ないから、貰っていない」
慌てて返した言葉は、借りてきた台詞のように棒読みだが仕方ない。
自分の置かれた状況が情けなくなり、まるで子どものような大見得を張ってみたが、全く本心じゃないのだ。
彼女の部屋を見れば一目瞭然だった。
彼女は、趣味の閾値を超えた知識を持って薬を作っているはずだ。
薬草師と名乗っても問題ないだろうが、何故そうしないのか分からない。
薬草師は令嬢には珍し過ぎる。だから、彼女はそう呼ばれるのが嫌なのか。
だが、希少な薬を売れば、相当に金になるだろう。他の薬草師よりも、遥かに腕が立つにもかかわらず、報酬も求めない理由が分からない。
妻については、分からないことだらけだ。
あの部屋にあった薬草も、彼女が全部収集しているのであれば、相当な労力も必要なはずだ。
ヘンビット家の姑息なやり口で、偶然、大きな拾い物をしたのに、彼女を全く気に掛けてやれないとは。
俺は最悪だな……。
今ごろ泣いていないかと、彼女の顔が頭から離れない。
……こんな感情のまま、敵地に入るのは危険だ。
「おい、急いで集まれ話がある!」
俺が号令をかければ、作戦会議と認識した兵士たちが一斉に集合した。敵への対策、ある意味それに間違いはない。
「お前たちはマーガレットをよく知っているだろうが、彼女は俺の妻だ。彼女を嫁にしたいと企む者がいるらしいな。……それは、到底無理な話だ。馬鹿な気は起こすなよ」
予想通り兵士たちから、どよめきが起きる。俺は隊員たちの反応を見逃すまいと、一人ひとりの顔を確認した。
それからしばらくすると、すすり泣くような音が聞こえる。
音を発する奴らは、間違いなくマーガレットを狙っていたわけだ。
俺はすかさず、泣く奴らの顔を覚えた。
今回の遠征で最前線に送りたいところだが、個人的な感情を押し付けるわけにはいかないと目を閉じ、そこはグッと堪えた。
俺が一番気になる、カイルの反応。
マーガレットと俺の関係を伝えたときのカイルは、明らかにショックを受けていた。
奴の中では、まだ何か引っかかるのだろう。そんな顔で俺を見ていたカイルと、視線が重なり、しばらくにらみ合った。
引いたのはもちろんカイルだ。
……とはいえ、夫の俺がマーガレットと一番遠い存在だ。決して胸を張って夫と名乗れるわけではない。
この兵士の中で一番分が悪い立場と言うのは変わらない。……一体どういう夫だ。
遠征から戻った後に、しばらく彼女と時間を過ごし、何とか誤解を解かなくては、何事も始まらない。
……まずは、彼女の喜ぶ場所へ連れていく、昼間のデートに誘う。
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