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喜びから一転、焦る夫

お読みいただきありがとうございます。

最後まで是非お付き合いください。

 ※ユリオス・ブランドン視点


 マーガレットの部屋を訪ねてから、既に2時間は経過した。


 避けられ続けた俺は、妻に拒まれる気がしてならなかった。だが、思いのほかスムーズに話が進んだ。

 そうなればやはり、彼女は俺を嫌っていないだろう。



 俺の視線は、屋敷の中で一番華やかな彫刻が描かれた、深みのある茶色の扉から目を離せずにいる。

 

 そこを開ければ直接、妻の部屋に繋がるのだ。


 マーガレットを待つ俺は居ても立ってもいられず、何度、その扉のノブを握ったか分からない。



 マーガレットは、そろそろ部屋を移っているはずだ。だが、客間と違い、扉が厚いせいで少しの音も漏れてこない。


 マーガレットの部屋を出てから、俺は再び兵士たちの元へ戻り、遠征前の綿密な打ち合わせを既に終わらせた。


 俺の仕事はしっかり片付けてある。


 もうこれで、気兼ねなくマーガレットとゆっくり話せる。

 どんな誤解があったとしても、今夜はとことん、妻に時間を使えるのだ。


 それに、俺たちは正式な夫婦。それは間違いない。

 彼女に俺が触れても、それをとがめる者はいないだろう。

 こうなれば、彼女が嫌がらなければ俺としては、夫婦の……。

 そうだっ! マーガレットは俺の願いに、照れくさそうに緊張した笑顔で応えてくれたんだからな。俺に気があるはずだ。


 いや、焦るな俺。宿舎で、カイルへ向けた笑顔とは全くの別物だ。日頃、彼女はカイルに慣れているんだ。俺は奴とは違う。あいつの様に優しく女性を口説くのは、出来ない芸当だと忘れるな。


 彼女はまだ、俺に緊張しているんだ。先ずは、互いの距離を縮めることが先決だろう。


 すっかり嫌われたと思っていたが、助かった、俺の勘違いだ。


 嬉しくて顔がにやけてしまうが、こんなふざけた顔で入っていけば、マーガレットと話をする前に、彼女に対して下心があると勘違いさせるだろう。


 とにかく落ち着け、気を立てるな俺。


「……よし」

 部屋を出る前、今一度、鏡の前で自分の顔を確認する。

 ホワイトブロンドの髪は変に飛んでいないし、青い瞳も泳いでいない。

 大丈夫だ、腑抜けていない。平静を保ち妻の部屋をノックする。


 コンコン、コンコン――。……ノックに何の反応もない。

 おかしい。移動が終わっていないとしても、荷物を片付ける従者がいるはずだ。


「入るぞ」

「あれ……」

 明らかに俺の部屋と同じ色調の、この部屋に備え付けの、ソファーとチェストだけだ。

 マーガレットの姿はおろか、彼女の荷物さえ移っていないぞ。

 まだ部屋を移る準備中なのか……。

 

 ここで独りで嘆かず、取りあえず客間を確認すべきだな。手伝いは要らないと言われたが、一刻も早く話がしたい。

 彼女が俺に見られて困るものでなければ、俺が運ぶ方が早いだろう。


「マーガレット。入るぞ」

 自分の声がこだまするガランとした部屋。

 直ぐに目に飛び込んだのは、寝具を取り払ったベッドと空になった棚だ。


「はぁぁー! 居ないっ!」

 どういうことだよ、マーガレットが客間にもいない。

 それどころか、さっきまであった荷物もないのだ。


 俺の妻の部屋へ移るのが嫌過ぎて、出ていったのか……。おい、嘘だろう。

 項垂れる俺はその場で崩れ落ち、今日2回目の膝をついた。


 もしやと思うが、マーガレットはカイルの部屋へ逃げ込んだということはないよな。

 既にあの2人は、そんな関係だったのか……。


 こうしてはいられない、マーガレットを探す。

 まずはニールに協力を得るべきだろう。部屋中に干された薬草と、あの棚にあった相当な量の薬の瓶。

 そもそもアレだけの荷物を彼女1人で運べるわけがないんだ。手伝った人間に、居場所を聞き出すのが手っ取り早い。

「ニール、マーガレットがいなくなった。どこへ行った?」


「はあぁい? ユリオス様は何を言っているんですか? あなたが使用人部屋へ移れと命令したから、別棟の使用人部屋へ移っていただいたんですよ。客間より狭いから薬草が入りきらず、急遽2部屋分を用意することになったんです。おかげで、少し前まで、別棟中が大騒ぎでした。事前に相談してくれたら良かったのに、どうしてそんな命令をしたんですか?」


 頭を金づちで殴られたような衝撃を受けた。俺は使用人部屋など、一言も言っていない。そんな勘違いあり得ないだろう、普通。

 

「俺は、『マーガレットのための部屋』へ移るように言ったんだっ。それを、どうやって解釈したら使用人部屋って、話になるんだよ!」


「やっぱりそうですか。ユリオス様が熱心にマーガレット様を追いかけているのに、おかしいと思ったんです。ですから僕はマーガレット様に何度も確認しましたよ。ですが、『マーガレットを嫁になんてできるか!』と、ユリオス様が言っていたから、妻の部屋に移れと言うわけがないと、聞き入れてもらえませんでした」


 焦りと怒りがこみ上げ、頭をガリガリとかきむしる。

 まさか、あの言葉をマーガレットがそのまま受け取っているのだ。これは一大事だろう。


「マーガレットは、それを聞いていたのか……。って、疑問に思ったならどうして俺に確認しないんだ、いつもいつも、お前はそうだっ!」


「あっ、そうすれば簡単でしたね、次からそうします。でも、マーガレット様が聞いた言葉は間違いないのですね。どうしてそんな酷いことを、彼女に言ったのですか? 何を聞いても心ここにあらずで、落ち込んでいましたよ」


「そんなこと、彼女へ言うわけがないだろう。他の男どもに向けての言葉なんだ、って言っても今さらでは信じてもらえないか……。なんで勘違いさせるところだけマーガレットに、しっかり届くんだよ……」


「早く、ユリオス様の本当の気持ちを、お伝えすればいいのに」


「分かっている。そうするつもりで妻の部屋に移って欲しかったんだ。あー、何だって、こんなに離れていくんだよ。マーガレットの部屋はどこだ!」


「僕は知りません。最終的にはメイドたちが動きだし、女性棟を理由に追い出されました。メイドたちも部屋を移動したはずですから、誰がどこを使っているのか、今は分かりませんけどね」

 

 白目をむいて、卒倒するところだった。

 よりによって、『マーガレットを嫁になんてできるか』を、額面どおりに受け取り、謝りに行けないのか……。


 ヤバい。黙って指を咥えていては彼女を失う。マーガレットが無理なら、兵士の奴らに手を打つしかない。あいつらは危険だ。

 先ずは、兵士たちがマーガレットに唾をつけないように、俺の嫁だと牽制しておく。マーガレットとの関係修復は、それからだ。



 明日から、しばらくこの屋敷を離れるんだ。モタモタしていれば、あっという間に当初の6か月が経つ。

 帰ってきたらすぐに、彼女の気を引かなければ、手遅れになる。



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