妻が薬を作ることを知った夫
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動き出す2人を最後まで、お楽しみください。
※ユリオス・ブランドン視点
今朝、客間の周辺から屋敷中を隈なく探したが、結局マーガレットは見つからなかった。
気の強いメイドが、掃除をするのに邪魔だとマーガレットを追い出したのだろうが、彼女はどこで身を潜ませたというのだ?
マーガレットと話がしたいのに、会えない。
……これでは、彼女を傷付けた俺の言い訳もできないままだ。
執務室で頭を抱える俺の元へ、上機嫌のニールが顔を綻ばせながら訪ねてきた。
こんな顔を見せるのは、大概勝手なことをやっているときと決まっている。
「なぁニール。マーガレットはいつも何をしているんだ?」
「っさぁ、最近はベン様のところへ行っていることが多いようですが、詳しくは分かりません。あっ、でもお元気ですので安心してください」
「ニールはマーガレットの姿を見ることがあるのか。俺の前には全く姿も現さないのにな。初日に彼女を怖がらせ過ぎてしまったか」
「ユリオス様の気迫で睨まれたら、避けたくもなるでしょうね。僕だって怖いですもん」
「そんなに怖いか……。いや、お前は全然怖がっていないだろう。いつも、いつも俺が不在にしている間に勝手ばかりして。お前みたいな、『後から報告すればいい』なんて適当な仕事をしている奴が、俺のどこを恐れているんだ。ったく、くだらんことを言ってないで、今度は何を勝手にやらかした。さっさと報告しろ!」
「ははっ、おかしいですね――。あっ、大事な報告を忘れていました。イーノックが不注意で火傷を負ったときに、マーガレット様が作った薬でイーノックを治療したんです」
「おいっ、マーガレットが薬を作るって、どういうことだ!」
「趣味らしいですよ。それも、信じられないほど効果抜群って話です。人の頼みごとを聞かないあのイーノックがマーガレット様になついちゃって。まるで忠犬のようになっていますよ」
「嘘だろう……」
彼女の部屋の近くでイーノックと会ったときに、おかしいとは思ったが、まさかそんなことがあったとは。
だからあいつは、自分からマーガレットにクッキーを運んでいたのか。
「あのベン様がマーガレット様の薬を熱弁していたので間違いありません。部屋の棚にびっしりあるらしく、メイドたちが虎視眈々とお裾分けを狙っています」
薬を作るのは、妹のリリーの話ではないのか?
何がどうなっている?
やはり、早急に彼女と話をしたい。
この結婚を手違いだと言ったことは、早急に取り消すべきだろう。
俺の稽古を窓から覗いているということは、俺を嫌っているわけではないはずだ。
まあ、何とかなるだろう。
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※マーガレット視点
昨日といい、今朝といい、ブランドン辺境伯様は私に物申したいことがあるようだ。
もしかして、彼の職場まで押しかけていることが早速バレて、逆鱗に触れてしまったのか?
そうだ、間違いないわ!
今朝は鞘に納めた剣をそのまま握りしめて走っていたもの。
……終わった……。遭遇すれば、あの剣で一振り確定だ。
今朝、突然押しかけて来た辺境伯様。
私が窓から覗いていることに気付いた途端、血相を変えた辺境伯様が全速力で走り出したのだ。
辺境伯様これまで、私にまるで関心がないようだから油断して、窓辺にいた。
扉が壊れそうな勢いで叩き、私を出せとメイドを怒鳴り激昂していた。
今朝は1番年長のメイドが、ブランドン辺境伯様を追い返してくれたけれど、これからはより一層気を付けないと危険だ。
辺境伯様のあの勢いでは、私が間者ではないとグダグダ伝える前に、問答無用にあの世行きだろう。
私は2日続けて兵士の宿舎へ薬を運んだ。
あの場所へ行けば行くほど、今まで知らなかったブランドン辺境伯様のことが分かってきた。
ブランドン辺境伯様の少しの妥協がない稽古の意味は、部下の皆さんを守るためだった。
耳にしたブランドン辺境伯様の評判。「隊長は口が悪いけど、いつだって自分たちを守ってくれる」と、兵士の皆さんが口を揃えて言うくらい、信頼が厚い方だった。
そんな真面目な方だ。妹の結婚にしゃしゃり出てきた私のことは、心底嫌いなのだろう。
辺境伯様の左肩の動きが悪いのは、副隊長のギャビンさんを庇って出来た傷が原因らしい。
多少時間は掛かっても、薬を塗れば良くなるかもしれない。
私はその薬も、その材料も、今は持っていない。
そもそも軽々しく採りに行ける素材じゃないわ。
あれを作るとなれば、どんくさい私が山に登らなければいけないもの。
正直、初めて登る山となれば、ちょっと自信がない。
茸が生える時期に合わせて山に採りに行って、半年しかいない私が作れるだろうか……。
カイルは私に付き合ってくれると言っていたけど、少し様子を見てから頼んでみるべきか。
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