真夏に猫になってしまった!
青い空、山、セミのジージー、ショワショワがうるさいくらいの田舎のおじいちゃんの家。
畳の部屋で、トラ猫のトラと一緒に寝ていた私は、目覚めるとトラと体が入れ替わっていた。
ひと通り驚いた後に思ったこと。
なぜ、こんな真夏に猫になってしまったのか!
暑い! モフモフが暑いよ!
扇風機の前に行って、後ろ足で立ち上がって、毛を前足で逆立てて風を当てる。
ちょっと涼しくなったけど、扇風機から離れたら終わりだ。
なんとかしないと。
後ろの私ことトラを見る。
猫のように伸びて寝ている。
体に肉球を押し当てて、戻れ!ともう一度念を送ってみる。
はい、戻れない。
猫のまま、この暑さを何とかする方にシフトしないと。
私はさらなる涼を求めて、部屋を出て廊下を歩いた。
おお、猫のように歩ける。
綺麗だと思っていた、猫歩き。
自分が体験できるとは。
猫モデルと化し、無駄に廊下を往復してしまった。
暑い! 無駄に体に熱を溜めてしまった。
階段を降りて、涼しそうな縁側に来てみた。
おじいちゃんが広げた新聞の前にしゃがみ込み、バリカンで頭を刈っている。
そうだ! ライオンカットにしてもらおう!
ライオンカットとは、頭としっぽの先以外の毛をバリカンで刈る、その名の通りライオンに似せたカットスタイル。
トラ猫がライオンカットにした姿は、まさにライオン!?
私はライオンになることにして、おじいちゃんに近づいた。
いつかはトラをライオンカットしたいと思っていたけど、こんな風に機会がやって来るとは思わなかった。
一瞬、トラの体を勝手にと思ったが、暑さには勝てない。
おじいちゃん、おじいちゃん。
丁度、刈り終えたおじいちゃんの足を、肉球で叩く。
「トラ、お前も刈るか?」
話が早い!
でも危な!
頭を狙ってきたバリカンを、素早くかわす。
頭を刈られたら、ライオンカットにならない。
「へへへ、冗談だ」
おじいちゃん、冗談じゃなくて本当に刈ってほしいんだけど。
体としっぽをこの辺まで。
後ろ足で立ち、バリカンを前足で指してから、体を撫でて訴える。
こう、こう、カット、カット。
「ニャ、ニャ」
「おお!? こうか?」
トラが初めて見せる動きに、おじいちゃんは目を見張り、バリカンで体の毛を刈る真似をした。
そうそう!
私は身を任せるべく、横になった。
ブイーンと音を立て振動するバリカンが、毛に迫ってくる。
「猫も毛まみれで暑いわのう」
バリバリバリ
「ちょっと! お父さん! なにしてるの?」
お母さんが駆け寄ってきた。
ややこしいことになった。
体を見ると、数センチいったかというだけだ。
おじいちゃんはバリカンのスイッチを切ってしまった。
「猫も暑いから、毛を刈ってくれというんだよ」
「なに言ってるの」
「こう、バリカンを指差しちゃあ、体を撫で回してたんだよ」
「熱中症で、幻みたんじゃない?」
「トラ、見せてやれ。さっきの仕草を」
心得た。
私が体を起こした時、私ことトラが階段を降りてきた。
四つん這いで。
「ちょっと! どうしたの!? 熱中症!?」
お母さんが慌てて駆け寄っていく。
まずい! トラがどんな反応するかわからない!
私も急いで駆け寄ったが、猫なのでウロウロするばかり。
「暑い〜。涼しいところ行きたい」
意外にも、トラは普通にしゃべった。
ニャア〜とか言ってたら救急車呼ばれてた、よかった。
トラはお母さんとおじいちゃんに抱えられて、私はその後ろをついて行き、唯一エアコンのあるリビングに移動した。
最初から、ここに来ればよかったんだ。
トラと一緒にソファに横になると、急激な眠気が来た。
起きた時には元に戻れていた。
戻ったトラは、すぐにグルーミングを開始して、脇腹の毛が数センチなくなっているのに気づいた。
なぜ?と言いたげにそこを見つめるトラを、抱き上げて膝に乗せる。
お前の仕業か?と言いたげな目で見上げてくるトラ。
「トラ、ライオンカットにすると涼しいよ」
トラは答えずに、すぐに膝から降りた。
やはりお前の仕業かと背中が言っている。
ライオンカットにはさせてくれないだろう。
言いなりにはならない、それが猫。
絶対涼しいのに。
猫になっているうちに、ライオンカットにできなかったのはやっぱり惜しかったか。
「もう少しで夏も終わるし、いいか」
私はソファに横になり、一時の素晴らしい体験を回想するために目を閉じた。
最後まで読んでくださってありがとうございました!
ライオンカットにする前に、獣医さんやトリマーさんに相談した方がいいそうです。