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ゲームは誰の手に

 勝負が終わったあと、俺と先輩はゲームコーナの端の休憩スペースに行った。


「何か飲む?」


 隣にある自販機で飲み物を買おうとしていた先輩が声をかけてきた


「あ~、爽快美茶ってあります?」

「あるよ、これでいい?」

「お願いします」


 いや~負けたな…もっと得意なゲームにしとくべきだったな…

 ワールドオブドラゴンズはお預けか…頑張って予算作ったんだけどな…


「はい」


 飲み物を買い終わった先輩がこちらにお茶を差し出している。


「ありがとうございます。いくらでしたか?」


 お茶を受け取ってから、財布をポケットから取り出す。

 しかし、そうすると先輩は慌てたように両手を振って俺を制した。


「いいのいいの!これくらい!財布だからしまって」

「そ、そうですか?それじゃあお言葉に甘えて…?」

「こんなの"先輩"なら当然だよ!」


 先輩の部分がやたら強調されていた。

 今まで先輩扱いされたことがほとんどないのは想像できる。おいたわしや…

 

 というか気になっていたことを聞かないと、


「辻本先輩、さっきの燃料切れってなんなんすか?」


 すると先輩は待ってましたとばかりに生き生きと説明し始めた。


「実はね~このゲームクラッシュギリギリを攻めすぎると、燃料切れになっちゃうんだよ~。だからさっき、『上手すぎた』って言ったでしょ?普通の人はクラッシュギリギリを攻めるのはとてつもなく難しいからバランス型でもいいとおもったんだけどね~」


 先輩はそう言うと先程の雰囲気とは打って変わり、少し寂びしそうな顔をしてから続けた。


「誠くんが上手くて少し苦しかったけど、同時に喜んじゃったんだ。『これなら燃料のことを教えなければ勝てるな』って。というかこのゲームを誠くんがやったことないって聞いた時点で勝てるなって思っちゃったんだよ。だから難しいことも教えなかった。」

「こんなの全然公平じゃないよね!いや〜つい熱くなっちゃった!」


 明るく取り繕ってはいるが、先輩が今罪悪感に飲まれそうになっていることは俺には分かる。

 確かに俺も最初、何も説明しなかったのが故意的と、知ったときは少し不満を抱いたが、元はと言えば知ってるゲームを選ばなかった俺が断然悪い。


 そして、少し相手を騙そうとしても罪悪感に負けてすぐに謝ってしまう先輩は、やはりお人好しで正直な人だなと再確認することが出来たのが、俺にとってなりよりの喜びだった。

 もっと早くこんな人に出会えていたら俺はもう少し違ったのだろうか。


「だから、ワルドラは誠くんが買い…?」


 先輩が言い終わる前に先輩の顔の前に突き出し、制す。

 あと、ワールドオブドラゴンズってワルドラって言うんだね。


「みなまで言わないでくださいよ先輩、勝ったのはあなたです。だからゲームはあなたが買うべきです。」

「えっ、でも…。」

「まず、あのゲームを選んだのは俺ですよね?それならやったこともないのに適当に選んだ俺が悪いですよ。それにもし、完全な平等にしようと思うなら、プレイ時間まで合わせた方がいいとかいう話になってきますよね?」

「いやいや…それは極論でしょ…」

「確かに極論ですけどゲームは情報も実力のうちですよ。それに、先輩と遊べたんで今日はなんか満足しました。もしお詫びって言うならあと何回かアクセルバーストやりましょ」


 先輩の罪悪感のオーラは先程より薄くなっていた。

 先輩は多分お人好しすぎるからこのことをいつまでも気に病んでしまうだろう。そうさせないためにも先輩の罪悪感を減らそう


「うーん、そこまで言うならお言葉に甘えさせてもらおうかな。誠くん、ありがとっ!気分変えていこうっか、次も負けないよー!」

「ルールが分かったから今度は僕が勝ちますよ」


 ・ ・ ・ ・ ・

 

その後、俺たちは最初を含め6回目アクセルバーストをやっていた。


「うおおおおぉ!」

「いけぇぇぇぇ!」


 ほぼ同時にゴールラインを通る。けれど俺の画面には金色で堂々と1位の文字が表示されていた。


「はいー!俺の勝ちですね〜。これで3対2で勝ち越しです」

「違うよ!3対3だし!引き分けだもん!」

「それ一番最初いれてますよね!?ずるいですよ!」

「ふーん『勝ったのはあなたです…』って言ってたの誠くんじゃん」

「う、確かに言いましたけど。そんな吐息厨みたいな言い方してませんから。訂正してください。」


 今思うとあのときの俺めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってない?うわー引くわー。さっきの俺を殴りに行きたい。


 しかしそれにしてもこんなに誰かと遊ぶのはいつぶりだろうか。

 先輩と、わーわー騒ぎながらゲームをするのはとても楽しかった。他の人から見たらあまり多く遊んでいるようには思えないかもしれないが、俺には十分だった。


 そして同時に恐怖を感じる。これでは仲良くなりすぎてしまう。なぁなぁの関係でいい。深く関わることは深く傷つくことに繋がる。俺はもうあんな経験はしたくない。


「次はどうする?今度はスタミナ型禁止でやってみる?」

「あー、とりあえず今日は終わりましょう」

「?。どうしたの?なんか予定があった?」

「いや、特にそういうわけじゃないんですけど」


 先輩は不思議そうに少し首を傾げた。けれどすぐに元の体勢に戻り、荷物をまとめ始める


「そっか〜、じゃあ続きは今度やろっか」

「はい、そうですね。機会があったら」

「本当に私が買っていいんだよね?」

「大丈夫ですよ、もしどっかで見つけたら教えてください」

「うん!」


 先輩はにっこりスマイルを見せた。…この人ほんとに高校生?笑顔が完璧に幼女なんだが。ロリコンじゃなくてよかった。


 ・ ・ ・ ・ ・

 

 エスカレーターを下りを降りてゲーム売り場に戻ってきた。」先輩はワルドラ(覚えたての言葉)を買いに行くので、そこで別れを告げ、俺は出口へと向かった。

 後になって少しずつ後悔の念が押し寄せてきた。あぁかっこ悪くても俺が買うって言っておけばよかったかな…。ゲーム機本体の容量がほぼないからダウンロード版だと無理だしな…。

 一応ほかに売っている場所がないかスマホで調べていると、見覚えのある横顔が俺の少し前を歩いていた。

 さっき新発売のゲームを買っている人を馬鹿にするように見ていたひょろい眼鏡だ。

 手にレジ袋を持っている。さっきは持っていなかったことからゲームを買ったようだ。

 気になるのは喜びのオーラがやばいことだ。台風で休校になった時くらい喜んでいる。

 ふと興味がわき、レジ袋を見ると「Wor…ofD…」とだけ見えた。

 ワー、オブd………

 まさか!!!!!!!!!!!


 急いでワルドラが売っていた場所に走った。

 到着するとそこには膝から崩れ落ちている、幼女(辻本先輩)の姿があった。

 虚ろな眼で空の棚を呆然と見つめている


「…先輩?大丈夫ですか?」

「アハハ…なくなってたよワルドラ…。先に買っておくべきだったね…」

「そうですね…でもダウンロード版で買えばいいじゃないですか」

「容量ないんだ…」

「あ、仲間ですね…」

「今度一緒に探っそっか…」

「はい…」


 俺たちはすっと天を仰いだ。

 あいつ、ガチ空気読めや…


 ・ ・ ・ ・ ・


 数日後、いつも通り部活に向かっていると渡り廊下で辻本先輩に出会った。

「こんにちは、今から部活ですか?」

「うん、一緒に行こうか」

「そういやワルドラ、ほかの店で見つかりましたか?」

「ううん、全然ない。ネットでも売り切れがほとんどだし…」

「再入荷まで待つしかないですかね…」


「あの、ちょっといいすか?神崎、キミ、ワルドラ探してんの?」

 いきなり後ろから声をかけられた。男で早口だ。どもってるし、活舌悪いし、あとなんか慣れ慣れしい。

 振り向くとそこにはゲームショップで会ったひょろい眼鏡がいた。


「知り合い?」


 辻本先輩が訪ねてくる。


「いや、知らないです」

「え、は、まじかよ同じクラスなのに。友達いない同士仲間だろ」

「いや、知らないし一緒にすんなよ。あとなれなれしい」

「え、いいだろ…ってそんなことは置いといて、なんか神崎ってお悩み解決部みたいなのやってるんでしょ?頼みたいことがあるんだよ。自分もうワルドラクリアしたからさー、それを譲るのが報酬でどう?流石に金はもらうけどちょっと安くするからし」

「本当に!?」


 先輩が前のめりになって眼鏡に話しかける。

 すると眼鏡は目をそらして


「え、あ、あ、はい」


 と小声で答えた。

 うわぁ、見てられない。


 とは言え、これでやっと初めての依頼が来たようだ。

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