意外な趣味
部活を早めに帰り、家で財布を取って、チャリにまたがり、出かけた先はゲームショップ。
桐原先輩に言った今日買いたいものとは今日発売のゲームだ。
別に早く部活を切り上げる必要はなかったのだがとりあえず行きましたよという証拠を残しておきたかった。昨日休んだからね。
今日買うのは『ワールドオブドラゴンズ』だ。
オープンワールドの超大作RPG。ちなみにこれで4作目だ。
このゲームには様々な属性を持ったドラゴンがいて、自分で倒すドラゴンや仲間にするドラゴンを考えながらゲームを進めていき、それらによってルートが分岐する。
このシステムがとても面白くいつまでもやりこんでいける。
俺が最初にこのゲームに出会ったのは中1の夏休みのとき。
外を歩いていたらゴミ捨て場に『ワールドオブドラゴンズ』の2作目が捨ててあったのを拾ったときだ。
このとき既に3作目が出ていたらしいが2作目でも俺を虜にするには十分だった。
ちなみにそれで夏休みの一週間を全て捧げた。
それが終わると中古品店ビックオフ(バイクじゃない)に行き、1.3と買ってしまった。
このゲームは本当にガチのゲームオタク達たちからすれば王道だが、普通にただゲームが好きという人やただのゲームオタクたちからの知名度はとっても低い。
要するにコアなラノベアニメみたいなゲームということだ。
でも、知名度が低い決定的な理由がある。高いのだ。
税抜き11000円。たまに出るギャルゲーの高めの限定版くらいの値段がする。まぁ完成度から言うと安いくらいなのだが。
この値段だと「あ、このゲーム面白そう!でも高いな…やめよ」と普通はなるし、友達にも勧めづらい。
こんな感じのゲームだ。
そんなこんなでゲームショップへと着く。
今日は別の有名なゲームの発売日でもあり、少し人が多い。
そして皆こぞってそのゲームを手に持ちレジに並んでいる。
途中、ヒョロい眼鏡の斜めがけカバンを持ったやつがレジを見て優越感のオーラを出していた。
やめて!俺のほうがゲームに詳しいし〜って感じだすのやめて!見てて痛い!辛い!
俺は逃げるようにその場から去る。あ〜恥ずかしかった。
どうせ『ワールドオブドラゴンズ』は売れ残っているので、店内をぐるっと回ってから見に行くことにした。
色々なゲームや本体機器が並んでおり、ゲーム好きとしては少しテンションが上がる。
歩いていると、15禁のゾンビゲームをまじまじと見つめている女子小学生がいた。オーラはめちゃくちゃ喜んでいるのが分かる。
え、大丈夫なのかな?トラウマとかならないのか?でも最近の小学生は15禁でもバトロワとかのゲーム普通にやってるしなー。
通り過ぎようと思ったが小学生がふとこっちを向いてきて目があった。
辻本先輩だった。
辻本先輩の顔はみるみるうちに赤くなっていき、口をパクパクさせている。
あと焦りのオーラがやばい。
「あ、こんにちわ…奇遇ですね…」
一応挨拶すると、周囲を気にしながらこちらにゾンビゲームを持ったままさっと来た。
そして、ちょちょいっと手をまねいて、顔を近づけるように合図してきた。
それに従い、すこし前傾姿勢になって辻本先輩の目線に合わせる。
辻本先輩は小声ながならも、とても焦ったような声で、話しかけてきた。
「なんでここにいるの!」
「いや、ゲーム買いに来たんですよ。それ以外、理由あります?てか先輩もゲーム買いに来たんですか?先輩がゲーム好きなんて意外ですね」
「ち、違うよ。このゲームは…弟に頼まれて」
角が生えている。それ以前にめちゃくちゃ目が泳いでいる。
これじゃ俺の能力がなくてもわかる。
俺は姿勢を戻すと声の大きさを普通にし先輩に話しかけた。
「その手に持ってるゲームって面白いんですか?俺はあんまり、ゾンビのゲームはやったことないんですよね」
一気に先輩の目が輝く。かかったな。
「え!興味ある?やったことないなんて勿体ないよ!これは『アウトブレイクⅥ』ってゲームだよ!ちなみに全部で、8作品出てるからボリュームがあって長い間楽しめるよ!特長としてはバトルよりもどっちかって言うと謎解き要素ほうが多いかな。それで!1番の良いところはなんと言ってもストーリー!それぞれの作品ごとに主人公が変わっていて関係がないように見えるけど、ステージに前作の主人公が使っていた拠点があったりとか実は繋がっているところもあったりしてそういうところが興奮するんだよ!ストーリーの内容はネタバレになるからあんまり言えないけど、全然展開が読めなくて全く飽きないよ!もうⅥは4回くらいやったかなー」
長っ!思ってた3倍くらいオタクだった。話してるとき喜びのオーラを撒き散らしてたか可哀想で止められなかったじゃん。
「先輩、ちょろすぎません?」
「…?どゆこと………あ!」
「オタクの性質を利用させていただきました」
「うぅ…もう白状するよ…本当は自分が好きで見てただけです。このことは秘密ね!」
「別に今どきゲームの趣味を馬鹿にする人なんて少ないと思いますよ?」
そういうと先輩は少し顔を曇らせ下を向いてしまい、悲しみのオーラを出した。
「うん…私もそう思うけど、私のクラスに3人イケメンがいるのね。で、その人たちが凄いゲーム好きで、私が趣味をゲームって言うとアピールしてるとか狙ってるとか言われて無視されたりするかもしれないんだよ……」
「そんな奴らなんて気にしなきゃ…」
「無理だよ!」
先輩の声が響く。出ていたオーラは恐怖。
そこには過去にトラウマがあったとしか思えない。
俺は無神経な事を聞いたと思いとても後悔した。
しかし、あんな明るい先輩を陥れる程の恐怖って何があったのだろうか。
「ごめんなさい…」
俺は頭を下げる。何があったのか話を聞いたりすることも出来るかもしれないが、今はそうするべきではないと思った。
何より先輩が話したくないだろう。
「いいのいいの!ごめん、こっちこそ感情的になって…。よし、話題を変えよっか!誠くんはなんのゲームを買いに来たの?」
頑張って話題を変えてくれたのだがまだ雰囲気が暗い。さて、どうするべきか…
「あ、そうだ。じゃあクイズにしましょう。そのゲームが売られているところに着くまでがタイムリミットで」
こうすれば少しは、話しやすくなるはずだ。
こうしないと、「『ワールドオブドラゴンズ』ってゲームですよ」「へ〜そうなんだ」……会話終了なんてことになりかねない。
「いいね!あ、ちょっと待って」
辻本先輩は持っていたゾンビゲームを棚に戻してから、帰ってきた。
「あれ?買わないんですか?」
「さっき言わされたように持ってるしもう4回やったからね」
先輩は攻めるような目でこちらを見てきた。
いやいや、自分から言ったんでしょう…
「あはは。まぁもういいけどね、まずヒントは?」
「今日発売ですね」
「あ!『ブラストバースト』じゃない?」
「違いますね。てかそのゲーム前後の意味、一緒じゃないです?」
すっごい壊れそうなゲームだな
「違うんだ…神ゲーなのに。でもちょうどよかった。私も今日の目当ては新発売のコーナーにあるんだ」
「へ〜。なに買うんですか?」
「じゃあ私のもクイズにしよう!当ててみて」
う…少し困った。俺は特定のゲームはよくやるがあまり幅広くは知らないんだよな…。
とりあえずあの有名なゲームの名前でも言っておくか。
「『ショットバトル』ですか?」
「ブッブー、残念!『ショットバトル』も面白いんだけど私からすると簡単すぎるんだよね」
「やっぱり先輩はゲームうまいんですか?」
「うん!大会にだって出たことあるんだから」
「凄いですね」
「ふふん!」
辻本先輩は自慢するように胸を張った。
元々絶壁なので特に変化はない。大丈夫、貧乳だってステータスですよ。
「どうしたの?なんか優しい目で私を見てくるけど…?」
「いえ、何でもありません。クイズの続きをしましょう」
その後も歩きながらクイズをしていたがどちらの答えも当たることはなく、新作コーナーに着いてしまった。
「あ〜時間切れになっちゃったね…」
「じゃあ答え合わせしますか」
「せーので指さそう。せーのっ」
俺は端に追いやられた『ワールドオブドラゴンズ』を指さした。
先輩の答えを見ようと思って横を見ると俺と全く同じ所を指差していた。
「え、もしかして…?」
「誠くんも…?」
「「ワールドオブドラゴンズ!」」
ぴったりと声が重なった。
俺は自分以外にこのゲームをやってる人を見たことがないので、仲間がいたことにとても興奮する。しかし、それは先輩も同じなようだ。
「え!誠くん『ワールドオブドラゴンズ』やってるの!?」
「はい!やってますよ!超神ゲーですよね!」
「さっきのクイズで有名どころしか知らない様子だったからやってるわけ無いと思ってたよ!」
「自分も今までこのゲームやってる人、全く見たことないからいくら先輩でもやってないと思ってました!」
「それじゃ2人とも買って一緒に感想を話そう!」
「はい!」
まさかこのゲームをやってる人と出会えるなんて…!
しかも同じ部活だからいつでも感想を話し合える。
一気に毎日が輝き始めるぞ!
俺は棚から『ワールドオブドラゴンズ』を取る。
とても高揚し、嬉しかったが、その気持ちは一気に冷める。
棚の奥にもう1つあると思っていたが、なかったのだ。
これでは片方しか買えない。
「先輩…1つしか無いです…」
「え…ここら辺で他に売ってる場所知らない?」
「2駅先のショッピングモールのゲームショップにあるって情報がありましたけどそれ以外は一切聞きませんね…」
2人とも黙ってしまう。これはまずいぞ…
「じゃあ、先に取ったから俺のってことで」
「ずるい!これだけは絶対に譲れない!私は6年も前からこのゲームやってるんだから!」
「じゃあ先輩は特定の順番で仲間にしていくと見れるトゥルーエンド見たことあります?」
「え…なにそれ!」
「はい、僕のほうがやり込んでますね」
「それでもだめ!」
睨み合いが続く。しかし、これだけは俺も譲るわけにはいかない。
すると、先輩がニヤッと笑った
「そうだ、誠くん。ゲームのことはゲームで決めよう。この店の2階のゲームコーナーで勝負しよう!」
「いいですよ。言っておきますけど僕も少しゲームには自信あるんですよね」
俺たちの熱きゲームバトル始まる!