検証してみた
何も起きないまま6月のになった。まじでびっくりするほどなにもなかった。
アニメだったら主人公が部活入って1週間後くらいに依頼がきて、ヒロインが追加されるはずなんだけど?
やったことと言ったら数1くらい(補習)。
あとはバイトくらいだが前に先輩と話してて遅れたときはやばかったな…。店閉められたからね。次の日謝ったら許してくれたけど。
そして俺は今日も部室へと向かう。昨日はバイトで休んだので今日は行かなければならない。
それにしても今年の6月はとても暑く、雨と熱気のダブルパンチだ。
階段を上がるごとにムワッとした空気になっていく。
廊下は湿度のせいでとても濡れていて気を抜いたら滑って転びそうだ。
やっとの思いで部室に辿り着くと、ドアを開け、思いっきり部屋に飛び込む。そして両手を広げて
「すっずしぃぃぃ…」
部室にはエアコンがついているので楽園状態になっている。やはり人類の技術は偉大だ。
さらに冷蔵庫にはお茶がキンキンに冷えている。
なんてホワイトな部活なんだ…!
強制労働させられているが。いや、俺が授業中寝なければいいだけか。
「楽しそうね、馬鹿みたいだけど」
奥からエアコンより冷めた声が聞こえてくる。
桐原先輩だ。長机の奥の方で本を読んでいたようだ。今日は先生も辻本先輩も居ないのをいいことに蔑んだ目で、こちらを見てくる。俺がMに目覚めちゃったらどう責任取ってくれるんだよ。
「涼しい部屋に入ったらこれをやるのが礼儀なんですよ」
「ふざけたこと言ってないでさっさとドアを閉めなさい。冷気が逃げるわ」
「はい、すみません」
俺はドアを閉めてから、疑問に思っていた事を聞く。
「今日は辻本先輩と先生はどうしたんですか?」
すると桐原先輩は小さくため息をついてから、机に本を置き、
「昨日言っていたけど居なかったから知らなくて当然ね。今日は新見先生は出張だそうよ。美優は予定があるらしくて参加できないと連絡が来たわ。だから…
今日は2人っきりよ」
と言い、ニヤッと笑った。
やばい、このセリフを聞いても全く嬉しくない。
「可憐でお淑やかな美人先輩と部室で2人きりよ。喜びなさい」
「美人なのはわかりますけど、嬉しくはないですね」
「は?」
「すいませんでした。調子乗ってました」
頭を下げる。45度の角度で5秒間。ふぅ完璧だ。
「よろしい。早く座りなさい」
「はい、ありがとうございます」
俺なんでこんなにへりくだってるんだ?もしかしたら既にMだったのかもしれない。
「今日も愚痴ですか?」
今日『も』と言うのは理由がある。それは最近、一緒に帰ることがたまにあるからだ。
そのときは大抵、先輩の愚痴を聞く時間になる。
本人曰く、「17年間誰にも言えなかったんだから黙って聞きなさい」とのこと。
とは言いつつも少し感謝のオーラが先輩から出ていたのは秘密だ。
「そう、聞いてよ、今日も担任が…」
そうしてまた先輩は喜々として愚痴を喋りだす。
俺はこの先輩の方が自然体で好きだった。やっぱり演技なんてしないほうがいいと思うんだけどな〜
長い間話すと少し落ち着いたようで今度はこちらに話題を振ってきた。
「そう、あとは貴方の話を聞かせて頂戴」
「へ?俺ですか?俺なんて特に話すことありませんけど…?」
「だから貴方の能力についてよ。どんなふうに嘘や感情が分かるのかとか、いつから使えるようになったのか、とかよ」
「あ〜〜、まぁいいですよ」
とりあえず俺は嘘をついたら角ができることやオーラで感情が分かることなどを詳しく教えた。
桐原先輩は興味深そうに時々質問などもしながら真面目に話を聞いてくれた。
「へ〜すごいわね。じゃあテストしてみてもいいかしら?」
「テスト?」
「そうよ、私が絶対に貴方が絶対に知らないような事を、話すからそれを見破ってみせなさい」
「わかりました、バレても恥ずかしくない話にしたほうがいいですよ」
俺は挑発するように言った。
「そう、本当に絶対見破ることができるのね、もし失敗したらこれから私の命令に絶対服従。わかった?」
「もちろん、余裕ですから」
「じゃあ1問目私は中2までピアノを習っていた」
頭に角は生えていない。
「本当ですね。角が生えていません」
「…正確よ、2問目。私と美優は小学生から友達である」
またもや角が生えていない
「嘘じゃないですね、てか小学生の頃から友達なんですか?」
「ええ、長い付き合いなのよ。美優がいたというのもこの部活にした理由の1つよ」
仲がよさようだなとは思っていたが思ったより深い関係なようだ。それにしても仲がいい女の子って尊いよね。
「う〜ん、そうだ」
桐原先輩は何かを思いついたようにぱっと顔をこちらに向ける。
「3問目、月の私のお小遣いは5万以下である」
「……嘘ですね、なんか遠回しな自慢してません?」
「4問目、私は最高成績以外を取ったことがある」
「…………………嘘」
「5問目、スポーツの大会で負けたことがある」
「先輩、これやめましょう」
「あれ?わからないのかしら?絶対服従よ?」
「わかりますよ!負けたことないんですね!」
こいつ、俺の能力を利用して煽りやがって!俺だってバイトすれば5万くらい行く。働いてるから俺の負けか。いや俺のバイト働いてないわ。
「別に私は自慢なんてしないわよ?ただ問題を出しただけで答えは言ってないもの」
そういうと先輩は嘲笑を向けてくる。
さらに悪意と喜びのオーラが出ている。なんとも性格の悪い人だ…
「はいはい、俺で遊んで楽しかったですね。じゃあそろそろ俺も買いたいものがあるので帰ります」
俺は少しふてくされながら荷物を手にし、ドアの方向へ向かう。
しかし、後ろから声をかけられた。
「ふふっ、そうは言ってても結局また私の話に付き合ってくれるのでしょう?優しいのね。優しくないとこんな面倒くさい女と話すわけないもの。貴方のそういうところ好きよ」
思わず思考が停止しそうになる。え、俺今告られたの?いやいや、人間性が好きってことだよな?でも弱みを見せれる相手が俺しか居ないからってこと?出会って1ヶ月は早すぎじゃ…!
俺が振り向くと、先輩は頭を指さしていた。そこには立派な角。多分、自分は見えていないのに俺から見たら生えているとわかってやっているのだろう。
うん、わかってたよ。流石にそんな都合よくいかないって。
「本当に性格悪いですね…」
「いいのよ、それが私だもの」
そして、先輩は本をまた読み始めた。
この人、性格悪いし、ストレス溜まるんだけど…
相手をイジるセンスがあるし、話が面白いんだよな。
俺は部室を出ると、ジメジメした廊下を進んでいった。
先輩が俺にいつ能力が使えるようになったのか言わなかったのに気づいてないくてよかった。
もし教えたらなぜ使えるようになったかまで教えることになりそうだから。