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部活動開始!

 涼しい風が吹き、木の緑の葉っぱが揺れている。

 その木の下をゆっくりと俺は歩く。

 そんな爽やかで気分が上がるような朝、俺は

 絶望していた。


「学校行きたくねぇ…………」


 カッコつけて「名前を貸すくらいなら大丈夫ですよ」とか言い放ったくせに、バックレるという偉業を成し遂げたからだ。ゆっくりと歩いていたのはただ、足取りが重いだけだ。

 あぁ…怒られるだろうな…気まずいな…心配かけたかな…でも辻本先輩も悪いよな…。

 横からトラックが突っ込んできて、そのまま異世界転生して逃げたい。


 しかしそんな夢は儚く消え、とっても安全なまま学校についた。

 俺は腹をくくる。大丈夫だ。俺はスクールカーストに所属すらできない男!悪口を言われてても失うものはなにもない!

 あ、あれ、涙が……


 今日もまだ部活勧誘は続いているそうで、正門あたりは賑わっている。

 途中「バスケやりませんかぁぉぁぁ!」と聞こえてきた。うん、絶対昨日の「部活行こうぜぇぇぇぇえ!」の人だ。てか一年なのにもう部活入って、もう普通に参加してて、もう勧誘してるって行動力、パない。


 そしていろいろ部活あるなーとか思いながら歩いてたら、前に仁王立ちしてこちらを見ているいる小学生がいた。あ、辻本先輩か。挨拶しないと。


「ども」

「あ、こんにちは…じゃなくて!」


辻本先輩は怒りのオーラを出しながらでこちらにズンズンと歩いてくる。


「昨日なんで来てくれなかったの?入部手続きとかしないといけないから待ってたのに…。それに、昨日の朝にだ、だ、大好きとか言わせたくせに!めちゃくちゃ恥ずかしかったんだよ!」


少し涙目になりながら頬をぷくっと膨らませて抗議してくる。

その様子が身長に合っていて、微笑ましい。


 ちなみに大好きのときに辻本先輩が恥ずかしがっていたのは知っていた。しかし、それをツッコむのは俺を部活に入れるために勇気を出して言った先輩をさらに陥れることになる。


 それにこれは社交辞令に過ぎないだろう。

 俺も気にしている様子を見せなければ、辻本先輩も少しは楽になるだろう。

 そんなのでいちいち期待したり勘違いするのは気持ち悪いにも程がある。


「行かなかったのは謝りますけど、大好きのほうは先輩が勝手に言ったんでしょう…。あと、先輩も悪いんですよ。部室どこか教えてくれないから…」


 すると辻本先輩は「あ」と間の抜けた声を出した。


「ごめん、すっかり忘れてた…」


 辻本先輩は肩を落として、しょぼんとしている。

 しかし、ちゃんと場所を聞いておかなかった俺も悪いだろう。


「こちらこそ訪ねたりしなくてすみません」

「それじゃおあいこってことでいいよね!」

「……まぁいいですけどはっきり言われるとなんか嫌ですね。」

「細かいことは気にしないの!そんじゃ今日こそ来てね!」


 そう言い残すと、辻本先輩はくっると身を翻し、校舎に向かっていった。

 そして俺はその姿を呆然と眺めていた。

 

 ついに俺を頼ってくれる人ができたのだ。

 確かにただの都合のいい人程度にしか思われていないかもしれないが、本当に誰からも相手にされなかったあの頃よりはずっとマシになった。


辻本先輩は少しは部活に参加してくれると嬉しいと言っていたが実際はあまり参加する気は無かった、でも 


 少しは手伝ってみるのも悪くないかもな。



あれ、なんか忘れてるような……?


「あ!結局部室聞いてねぇ!」


 俺は呆れながら急いで先輩を追いかけた。

 ドジっ子属性持ちなのかな?


 ・ ・ ・ ・ ・


 授業がおわり、テキパキと帰りの支度をし、覚悟を決める。

 ついに部活だ!辻本先輩が他に入った人もいるとは言っていたけど、どんな人だろうか。

 少し楽しみなのと、人見知りなので緊張するのとが混ざってさっきから落ち着かない。


 東校舎の4階の資料室の隣の空き教室か…。そこが先程聞いた部室の場所だった。

 俺は教室を出て、賑やかな廊下を通り東校舎へ、向かう。

 まだ日が経ってないないのも理由の1つだが、東校舎の4階には1度も行ったことがない。

 というか理由がなければ3年間一度も行くことは無かっただろう。


 うちの学校は2つの校舎に分かれていて、西校舎が3階建て、東校舎が4階建てになっている。

 その校舎が向かい合うようになっていて、上から見ると渡り廊下があるので「H」のような形になっている。

 ちなみに体育館はちょっとズレた場所にある。

 

 用途としては西校舎は普段授業を受ける教室がある。

 学年ごとに階が分かれてa〜h(学年ごとに変わることがあるが)までのクラスがある。


 東校舎は理科室や、美術室などの特別教室や、文化部などの部室に使われている。なぜ4階に一度も行かなかったかというと、先生が校舎案内のときに説明していた。


『東校舎の4階はもともといろんな部室になることを想定して作られたらしいんだけど、あんまり多くの部が作られなかったのと、特別教室を部室代わりにしている部活が多くて、ほぼ使われてないよ。資料室があるけど教員しか入ることはないし、どうせ行くこともないだろうから今回は4階はとばして案内するね。』


 とのことだ。なのでほとんどの人が4階には行っていない。もちろん興味本位でいった人もいるだろうが、話題になっているところを聞いたことがないことから、本当になにも無かったのだろう。


 しかしそんな秘境みたいなところでやってる部活って本当に人来るのか?


 一抹の不安を抱えつつ、東校舎の階段を登る。すでに部活が始まっているのか、きれいな歌声が聞こえてきた。

 しかし4階に上がると一気に別世界のような静けさになった。壁にはポスター1枚すら貼られておらず、電気がついていないので少し薄暗かった。

 廊下を歩く自分の足音だけが聞こえ、この世に自分1人しか存在していないような気分になり、多少の不気味さを覚えた。


 更に歩いていると奥に資料室の看板が見えてきて、同時に誰かの話し声が聞こえてきた。辻本先輩と、誰かが話しているのだろうか。ひょっとして依頼者が来ているのかな?それとも俺以外に入ったって言っていたもうひとりの人かな?


 資料室を通り過ぎ次の教室を、ドアの窓から覗く。

 そこには辻本先輩が椅子に座りながら奥にいる誰かと話をしているようだ。あいにく部屋の角度的にここからだと、話し相手の顔が見えない。


 あ〜、緊張するぅ。さぁ、俺の部活が始まるぞ!

 俺はコンコンとノックをする。あ、2回ノックってトイレのときにしかしないとか、言わなかったっけ。やばい。失礼な人とか思われないかな?


 程なくして、扉が開く。そして俺を見た先輩はパアッっと顔を輝かせて笑う。いや、普通の人はこんな仕草みたら小学生だと思うぞ。


「あっ!来てくれたんだ!さぁ奥へどうぞ〜」

「あ、はい。失礼します」


 先輩に従って中に入る

 部屋はあまり広くなく、端の方には使われていない机や椅子などが積んであった。他にもホワイトボードなどが置いてある

 ヒーターやエアコンなどがついていたので夏や冬でも過ごしやすそうだ。

 しかし旅館とかに置いてありそうな小さめの冷蔵庫があったのには驚いた。この部屋贅沢すぎん?


 部屋の真ん中には、長机が長いところをつけた状態で2つ置いてあり、向かい合うように3つずつ椅子が並べてあった。さらに机の上にはお菓子などが置いてある。


 そして、先程辻本先輩が座っていた位置の対角線上のところにその人はいた。

 その人はあまりに有名人で、俺ですら知っていた。


 桐原渚沙、2年ですでに生徒会長になっている実力者だ。

 容姿端麗、人当たりもよく、文武両道。まさにラノベの設定みたいな人だ。前回のテストでは500点中496点だったそうだ。

 すでにこの人は部活に入っているので新入部員ではなく依頼者のほうだろう。

 

 ちなみにこれらの話は休み時間にすることがなくて寝たふりしてるときに近くで男子がガヤガヤ喋っていたのが聞こえたから知っていた。

 そのうちの一人が「俺、桐原先輩によく目が合うんだけどこれってワンチャンある?」とか言っていたが、それはあなたがずっと見てるからよく目が合うように思ってるだけです。ワンチャンもなにもないっす。

 あとうちの学校はテストの点を公表したりしないのにここまでバレるのか…高校生の情報網、恐るべし

 

 しかし1つ不思議な点がある。桐原先輩は弓道部の中でも屈指の実力者だったはずだ。しかも県大会優勝するほどの。それほどの人がなぜこんなところにいて、練習をしていないのか、別に俺達に手伝ってもらうことなんて無さそうだが。(俺なんかができることがまず少ない)


「さぁ座って座って〜、好きなところでいいよ」


 辻本先輩はもといた席に戻ると呆然としていた俺をちょちょいっと手招きした。


「あ、はいわかりました」


 少し座る場所を悩んだが、辻本先輩の正面に座ることにした。

 まず桐原先輩の正面と隣は却下。緊張して変な汗かいちゃいそう。すると残りは2つに絞られるので、辻本先輩の隣よりは正面のほうがなんとなくいい気がしたのでそこに座った。


「それじゃ入部届書いてね、ちょっと待ってて」

「あ、はい」


 俺は大人しく座って待つ。

 辻本先輩は後ろのロッカーで「あれー?」とか「この辺に…」とか言いながら入部届を探している。

 それにしてもなんで俺って毎回返事に「あ」ってつけちゃうんだろう。

 コンビニ行っても「カードありますか?」「あ、ないです」

 「袋は必要ですか?」「あ、いいです」みたいな。


 そんなことを考えていると横から不意に話しかけられた。


「あなたが美優の言ってた神崎誠くんかしら?」

「あ、そうです。今日からこの部活に入ることになりました」

「聞きましたよ、本当は昨日の予定だったんでしょう?サボったら駄目ですよ」


 そう言って桐原先輩は口に手を当てて穏やかに笑う。育ちの良さが感じられ、確かにとても人当たりのいい話し方だ。


 しかし、猛烈な違和感を覚える。そう俺だけがわかる違和感。確かに人当たりのいい話し方なんだけど…………。もしかしてこの人…


「あったー!はいっ、じゃあこれ書いて」


 辻本先輩が話しかけてきたので思考が遮られる。まぁまだこのことは触れなくていいか。どうせすぐ関わらなくなるだろうし。


「了解です」


 書き始めてすぐのところで辻本先輩が部屋から出ていった。トイレだろうか。

 しかし気まずい。チラッと横を見るが桐原先輩のオーラが変わった様子はない。

 う〜ん、話しかけないとまずいのか?


「あの、今回はどんな依頼で来たんですか?」

「え、どういう意味?」


 桐原先輩はキョトンとして本当にわからないという顔をしている。


「だから、ここは派遣部ですよね?それじゃあなにか依頼をしに来たんじゃないんですか?」

「あ〜、そういうことね。私は依頼者じゃないわよ」

「じゃあなんでここにいるんですか?」

「美優からもうひとり新入部員がいることは聞いているかしら?」

「はい、それがどうしたんですか?」


 桐原先輩は少し間を開けてこちらをしっかり見ながら話しだした。


「その新入部員が私なのよ」



 ………………………………………は?

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