前回優勝者
「本当に!?フローガキングなら私、得意だよ!!大会も出たことあるし!」
と辻原先輩は喜んだ。
「辻原殿、大会というのは5月に開催された前回の公式戦か?」
「うん!」
辻原先輩は元気に答える。
それを聞いて二階堂先輩は「ほう!」と感心したように声を上げた。
「前回の大会は出場権を勝ち取るだけでも難しいというのに!流石、ワルドラをやっているほどのゲーマーだ」
「あはは~まあね~」
褒められて辻原先輩は、自慢げに胸(絶壁)を張った。もはや、ゲーム好きを隠す気はないらしい。
二階堂先輩が大会の様子について、辻原先輩に聞いていたので、俺は田中の方に行って先に練習しようとした。
しかし、なぜか田中がキレていた。
別に変なことをしている訳ではない。あいつは、今、俺らの分のゲーミングパソコンを用意している。
だが、怒りのオーラが出ている。かなり大きな怒りだ。
今までの会話に何かあいつを怒らせる要素があったのだろうか。
準備を手伝わないからか?そんな短気な人には思えないが…
「すみません。二階堂さん。なんか今、田中の機嫌悪くありません?」
田中に聞こえないように二階堂先輩に近づき、辻原先輩との会話に区切りがついたところで話しかけた。
すると二階堂先輩は、
「神崎殿我らはともに戦う盟友。敬語など不要だ!」
といい、バッと手を突き出して決めポーズをとった。
しかし二階堂先輩もただの厨二ではなかった。
馬鹿な会話をしているように見せつつチラッと田中の様子を確認していたのだ。こいつ、できるッ!
二階堂先輩は決めポーズやめると小さな声で話しかけてきた。
「確かに今、田中殿はキレている様子だ。しかしおどろきだな。彼が憤っているのを見抜くとは。我は彼と古くからの友人だが、三年は判別できなかったぞ?神崎殿は心が読めるのか?」
二階堂先輩は冗談っぽく言った。
「まあ、そんな感じだな」
「フッ。まあそんな冗談はさておこう」
いや、本当なんだけどな。
「多分だが、田中殿が怒っているのは大会のことを思い出したからだろう」
「大会って前回のか?」
「いかにも。彼は前回の大会でギリギリ出場権を逃したのだ。しかもぼろ負けで」
「あ~…」
それは思い出したら嫌だろうな。
するとその時二階堂先輩が、焦りだした。「やべ」といった感じの顔になっている。
「聞こえているぞ」
後ろから声をかけられ、振り返ると田中が立っていた。
オーラを見る限りどうやら怒りは収まってきたらしい。
「すまぬ…。勝手に話して」
「べつにいい。あれはもう相手が悪かった」
「ふむ。確かにな」
「田中君は誰に負けたの?」
辻原先輩が質問する。
「前回の優勝者ですよ。『トゥルー』とかいうやつですね」
「そうなんだ…実は私もなんだよね…」
そう、前回の優勝者というところから分かったと思うが、そのトゥルーというやつが俺だ。
ちなみに俺の名前『誠』から『トゥルー』は来ています。
なぜ大会に出ているのに『トゥルー』が俺だとがバレていないのかというと俺は仮面をつけて出場したからだ。
『フローガキング』は俺の中学校で大流行した。なのでまだこのゲームのファンの中学校の知り合いが大会に見に来ているかも知れなかった。
そこで仮面をつけることによって、知り合いにバレたり鉢合わせたりすることを避けたのだ。
幸い、仮面をつけているのは俺以外にも数人おり、浮くことはなかった。
そして辻原先輩も仮面をつけていた人のうちの一人だった。
大会が始まる前に選手の紹介があるのだが、オタクだらけの出場者に小学生くらいの女の子が混ざっていた。
大会のアナウンサー曰く、その人は高2らしい。
もう部活の知り合いを連想せざるを得なかった。
まさかそんなことはないだろうと思い、先輩に会ってもその話題には触れなかったが、後日、ゲームショップにてエンカウント。からの『フローガキング』で大会に出た発言。
そこで俺は疑いが確信に変わった。
あの大会の決勝戦で戦った人は辻原先輩なのだと。
「あいつめちゃくちゃハメ技使ってきますよね」
「そうなんだよ!やっと抜け出せても攻撃はほとんど躱されるし!」
「てかあいつ他の格ゲーでもハメ技開発しまくってるらしいですよ。とあるゲームでは運営が修正したこともあるらしいですね」
「そうなの!?うまいけど卑怯だよ!」
「真面目に練習しているこっちがバカみたいですよね」
『トゥルー』被害者の会による、悪口大会が行われていた。なんだか正体をバラしずらい雰囲気になってきたぞ…
しかし、厳密に言うと、俺が使っているのはハメ技ではない。
相手の行動を予測して動いているだけだ。まあ、俺みたいに心を読めないと使えない代物だが。
まず普通にコンボを決める。そこで回避を使うか反撃してくるかはオーラでわかる。
嫌がっている場合は回避、興奮が強まったときは反撃だ。
反撃も回避もたくさんの種類があるが、どちらか分かればなんてことはない。
行動に応じたコンボを繋げば相手は何もできないように感じ、ハメ技だと思うようになる。
でも、決勝戦の先輩は本当に強かった。
まず最初のコンボを当てることが出来ない。
なんとか当てても削りきることが出来ずに逃げられる。
しかも確実に攻撃を決めてくる。
まあ、俺は大技を確実に躱せるのでそこが勝負の分かれ目になった。
だから俺は負けるのが嫌で、ゲームセンターにて先輩と『フローガキング』をすることを断った。
「よし、今度こそトゥルーにリベンジするぞ!誠くんも一緒に頑張ろうね!」
「団体戦だから、来るかはわかんないけど、俺らのリベンジに協力してくれよ、神崎」
「お、おう…」
返事しちゃったけどそのリベンジできないと思うな…
君たちのチームにトゥルーはいるからな…