目指せ青春
高校にも慣れてきた5月頃。俺、神崎誠はいつものように学校に向かっていた。
ある程度学校に近づいてくると他の生徒がチラホラと増えてくる。
ほとんどの生徒は俺みたいに孤高ではなく友達と和気あいあいとした雰囲気で、喋りながら登校している。
そしてその様子を見て俺はまたもや、うんざりする。
はぁ、また嘘ばかりか。
先程から仲よさげに「部活なににする〜?」などと話している前の女子のグループは見ている感じ8割くらい嘘だ。女子怖ぇ…
なぜわかるかって?何を隠そう、俺は心が読めるのである。
といっても、相手の考えてることが一言一句わかる、というわけではなく、感情などがオーラによって見えるのだ。そして嘘を付くと相手の頭に角が生える。もちろん俺にしか見えないのだが。
最初は角の生えた女子とかちょっとエエやん、とか思ってたがだんだんそうもいかなくなってくる。
中学の時に、めっちゃ明るくて元気な女子と席隣になったときに「これからよろしくね!」と言ってもらえたのだが、その子の周りの不機嫌なオーラと角を見たときは家に帰って泣いた。だから次の席替えまで気を使って一度も喋りかけないでやったからな!感謝しろ!まぁ俺のこと忘れてるだろうけど。
今の話を聞いたらわかるように、この能力はあまり便利じゃなく、しかも人間不信に陥らせるという狂気じみた設定になっている。
そんなこんなで、色々こじらせてしまった俺は友達なんか作れるはずはなく孤高に学園生活を送っている。
しばらく歩いていると俺が通っている高校が見えてきた。
いつものようにさっさと席についてラノベの続きを読もうと思っていたが、いつもより校門の奥のあたりが騒がしいことに気づいた。今日なんかイベントあったっけ?
校門から敷地に入ると辺りにいたのは沢山の部活勧誘の生徒達だった。そういや、今日から勧誘が始まるのか。嘘つき三姉妹が話してたのはこれがあったからか。
俺は部活に入る気はないので陰キャ固有スキル︙ステレス(常時発動)を使いながら校舎へ向かう。
すると見事なまでに声をかけられない。進路先は自衛隊特殊部隊にするか。
「あの〜、すみません」
いや、海外のスパイと言う手も…
「あの!」
「ふへっ?」
え、俺に話しかけてたの?びっくりして変な声出ちゃったし。俺のステレスを見破るとは、こいつできる!
そこにいたのは茶髪ショートの小学生だった。迷子だろうか。もしかしたらこの喧騒を祭りだと勘違いして入ってきてしまったのかもしれない。とりあえず先生に連絡するか。
それにしても今の小学生は髪を染めてもいいのか。俺の時代とは変わったものだな。
「あ〜、迷子かな?お母さんはどこかにいる?」
「え………どういうことですか!?私を迷子の小学生とでも思ってるんですか!よく見てください制服着てますよね!?」
あ、よく見てみるとうちの学校の制服を着ている。これはめんどくさいことになったかもだな…。てか速攻俺が勘違いしてることに気づいたってことはこれ何回もやられたんだろうな…。
「すみません。失礼なことを言ってしまって。それじゃ」
「何逃げようとしてるんですか!ちょっと待って下さい!」
手足をバタバタさせながらこちらに抗議してくる。その仕草をすることによってさらに小学生感が増すとか考えないのかな?さらに周りには怒りのオーラがでている。やらかしたな…。とりあえず要件を聞いてさっさと帰ろう。
「はぁ、それでなんで俺に声かけたんですか?」
「そうでした!あなた、私達の部活に入りませんか?」
「ごめんなさい」
「即答!?」
当然だ。部活なんて時間の無駄だ。中学の時も最初はやっていたが、途中で部内の人間関係が険悪になってしまい、辞めた。辞めたあとは時間が沢山使えてとっても便利だった。
だから高校でもそんなふうに生活したい。
しかも俺の場合、能力があるからチームプレイなど絶望的だろう。少し俺のことを嫌いだと思うとその感情が俺には見える。そんなやつと協力なんてできるか。
するとその女生徒がなにか思いついたかのように手を胸(皆無)の前でパンッと手を合わせ、口を開いた。
「そう!私を小学生だと馬鹿にしたんですから謝罪として部活に入ってください!」
「いや、なんでそんなことで3年間どう過ごすかを決められないといけないんですか。それに自分を馬鹿にしてきた人が同じ部活に入るなんて嫌じゃないんですか?」
「うっ…う~~ん。それでもです!」
なかなか意志が硬い。なにか特別な理由でもあるのだろうか。
「なんでそこまでして入らせたいんですか?」
女生徒は寂しそうな顔をしてから少しうつむいた
「私達の部活は人が入らないと今年で廃部なんです。既に入ってくれた子もいるんですがまだ足りなくて…。もともとこの部活は去年卒業した先輩たちが作った部活で、その後入った部員は私だけなので、もう私一人しかいないんですよ。私はこの部活でとても変わることができたんです。なのでせめて卒業まではこの思い出が詰まった部活を残したいんです」
そうだったのか。彼女は自分と仲の良かった先輩たちの絆を残しておきたかったようだ。
俺は友達ごっこは大嫌いだがこの部活の先輩たちはそんなくだらないものではなかったのだろう。
そしてそれらの思い出の為に奮闘する彼女のことをとても美しいと感じた。
この部活になら名前を貸すくらいならしてもいいかもしれない。そう思った。
「ちなみになんていう部活なんですか?」
「派遣部です」
「…………。一応聞きますけど何するんですか?」
「困ってる人の話を聞いて解決するんです!」
「………。」
まさかそんな擦り倒されたラノベの設定みたいな部活が実在するなんて…!
「どうしました?」
「あ、いえ、なんでもありません。わかりました。名前を貸すくらいなら大丈夫ですよ」
「ありがとう!でもたまには部活に来てくれると嬉しいな!あ、私、辻本美優って言うんだ。先輩だからタメ口でいいよね?」
「はい、大丈夫です。俺は神崎誠です」
「誠くん、これからよろしくね!」
そして、女生徒。いや、辻本先輩はニコッと可愛く笑った。
その表情と喜びのオーラをみて思わず恥ずかしくなり目をそらす。
「でも、最後に質問なんですけどなんで僕に声をかけたんですか?」
すると辻本先輩の目があからさまに泳ぎまくっている。そして周りに焦りのオーラが出始めている。ん?様子がおかしいぞ。
「いや…あの…、ほら!うちは派遣部って言うくらいだから色々できないといけないんだけど…。その…誠くんは優秀っぽさそうだったから!」
辻本先輩の頭から角が出ている。やはりか
「辻本先輩、今の嘘ですよね」
俺は問い詰めるように聞く。辻本先輩はバツが悪そうに少し苦笑いすると目をそらしながらこういった
「あははは…鋭いね…。そ、その〜…実は誠くんは見た感じ暇そうだったし、いけるかもと思って…」
うわぁぁぁ、俺そんなふうに見えてたのかよ。部活勧誘全無視して俯きながら歩いてるやつが暇なわけ、うん暇だわ。俺が悪いわ。
「はぁ、まぁいいですけど」
「ありがとう!誠くん大好き!」
「あ、そうゆうのいいんで」
「即答!?」
はぁ、もしかしたら俺の青春ラブコメが始まるかと思ったがやはり無理なようだ。
まぁでも美少女と1人知り合うことができたのだから及第点とするか。
それにしても派遣部とかほんとに俺大丈夫なのか?
アニメとかだったらもっとご都合主義的にいくのに…。
だけどポジティブに考えよう!これを機会に俺は青春をするぞ!