目覚め
生暖かいものが頬にあたった感触で文月は目を覚ました。草がチクチクして痛む。溺れて河川敷に引き上げられたのだろうか。
「持つべきは救助を読んでくれる友......か」
そう、呟く。しかし不思議なことに自分が全く濡れていないことに気がつく。そして周囲には誰もいない。おかしい、助けてくれたなら誰かいるはずだろう。
「ワンッ!」
「ん?あっ、こいつ......」
隣で心配そうにこちらを見ているのは白い毛並みに少し茶色が混じったチワワらしき犬。生暖かいものはこの犬の舌だったのだろう。よく見ると向こう岸に居た犬にそっくりだ。ということは反対側にあがったのだろうか。体を起こし、犬を撫でる。祖母の家で小型犬を飼っていたため犬の扱いにはなれているつもりだ。
「お前のせいで死にかけたんだぞー」
ごめんなさい、と言うように耳をたたんでこちらを上目遣いで見つめてくる。
「そんな可愛い姿されても......ってあれ?お前、目、濁ってね?首輪も無いし......捨てられた?おばあちゃん家で飼ってあげよか?」
両目が濁って白くなっている。ちゃんと見えているのだろうか。
「あ、起きたっぽいね」
「........!?」
知らない女性の声とともに"何か"が空中から着陸したような風が周りの植物を揺らした。驚いたのか、犬は向こうの茂みに逃げていってしまう。
「って........え...?」
ずっと下を向いていて気づかなかったが周りには明らかに地球の物ではない植物らしきものが生えている。空は異様な色をしておりまるで地球ではない別世界のようだ。
「ここ........どこ........」
何故今まで気が付かなかったのか、と自分に呆れつつ状況が飲み込めず困惑する文月に先程飛んできた女性が声をかける。
「周りを見ていない、無頓着って聞いてたけど世界が違うことにすら気が付かないの?逆に凄いね君」
その女性の服装はファンタジーの漫画などの重役の人たちが着ているような服装で、現実世界ではありえないような紺色の髪。いや、髪に関しては染めればなんとかなるかもしれないが染めたとは思えない自然な髪だった。
「ここは君が今まで暮らしていた世界ではない、様々な種族の生き物が共存する"冥界"だ」