死にたくない
あっという間に夏休みは終わり、最後の一週間でなんとか詰め込んで課題を終わらせた。登校してすぐに休み明けテスト。帰ってきた結果はボロボロで国、数、英と全て百位以下だった。国語だけは、前日にかろうじて漢字を頭に詰め込んだ結果多少溢れたものの平均点はとることができた。それでもギリギリ二百人中百位以下だが。長期休み明けというものは平和だ。数日間は課題が本来よりも少ないことが多い。それ故に、溜まっている課題も無いので出された少ない課題を終わらせればのびのびと心置きなく娯楽に時間を割くことができる。まあ、夏休みの課題を終わらせれなかった人や、不備のあった人は地獄の放課後居残りコースなのだが。帰ってきたテスト結果を親に見せると勿論怒られた。しかし中学一年生の酷かった時期よりはだいぶマシになっているので一年前ほどは怒られなかったが。気晴らしに外に出ることにした。先程まで雨が降っていたのだろう、道がぬかるんでいる。河川敷への道中に勉強会をした友と出会う。彼女は結局課題が終わらず居残りしていたところの帰りらしい。歩きながらお互い愚痴をこぼす。
「いや、いくら中高一貫の進学校だからって二年生の夏に三年生の範囲が入ってるって無理ゲーじゃない!?」
「ほんとそれ、しかも課題終わらしてないのバレて更に親に怒られたー!」
河川敷まで行くと、先程まで叱られていたので気づかなかったがかなり降っていたらしい。川が荒れていた。
「これ落ちたら終わりじゃね?」
「うわ、死にたくねー」
「あれ?珍しいね、いつもはすぐ「死ぬわ」って言ってるのに。このまま川にダイブしよっかなwって言わないの?」
いつもと違う反応の文月に少し驚く友。かといってそこまで気には止めていないようだが。
「いや、死んだら"無"になるのが怖いなーって。死後の世界が確立されてるならいいんだけど」
「あーね?」
すると川の反対側に何かが見えた。
「あれ?なんか居るくね?.....白い....犬?」
「ん?見えないけど?」
どうやら友には見えていないらしい。文月よりも視力は良かったような気がしたがそれよりも犬の近くに飼い主らしき人物がいないことに気がついた。そして、こちらを、自分をじっと見つめているように文月は見えた。気になって足元などろくに見ないで川に近づいていく。すると、突然ぬかるみに足を取られる。ふと脳裏に、父親が雨の時は側溝、川に近づくなと雨が降るたびに言っていたのを思い出す。その時にはもう遅かった。川に身が投げ出され"落ちた"と感じる間もなく流されていく。
「文月ッッ!?」
友人の姿が遠ざかっていく。怖い。嫌だ。死にたくない。腕で水をかこうにもどんどん息苦しくなっていくだけ。まとわりついた水は離れてくれない。沈んでゆく。最期まで諦めきれなかった。
「ガハッ......う......あっ........」
意識がなくなった。数十分後には息を引き取っているだろう。