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1-暗涙ノ魔王 中

築30年近い真っ白な古いビル。

そこの501号室のベランダへ出る戸が、魔界と人間界をつなぐ境界となっていた。

・・・作ろうと思えば境界は他にも作れるけど。

現時点では、ココが最高の場所だ。

因みに、俺等魔族は、"境界"のことを"道"と言います。


俺はそのビルの玄関の壁に余暇(ヨッカ)かって、ナナを待っていた。

遅い。俺が時間に敏感なタイプだって事は、ナナも知っているだろう?




「あー!! 惺慈。 待ったー?」

ナナが手を振りながらやって来た。


膝上3センチくらいの黒いスカートに長い茶色のブーツ。

それから、薄手の赤色のコート。

完璧秋スタイル。

いつも思うけど、ナナは服のバリエーションが広い。


ソレに対して、俺は黒い長ズボンに、青いラインのはいった白いパーカー。

俺は、服のバリエーションが狭い為、ほぼ毎日このスタイル。

ズボン+パーカーってヤツ。

ふと、自分の黒い携帯電話の画面を見る。

午後4時15分。

予定より15分遅刻。

遅すぎる!!! 俺が遅刻した側なら

申し訳なさすぎて、土下座してる。

だって、15分っつったら、カップ麺5回分もあるあし!!((ベタな表現でごめんなさい。


「んや。 そんな待ってない。」

俺は、かなり待ったけど。とは言わなかった。

幼馴染でも、悲しまれたら困るから。


「うっはぁー。 いつも思うんだけどさぁ。惺慈ん家(?)って、エレベーター無いよねぇ。」

ナナが息を切らしながら言う。

その声は、階段の中でこだました。


「古いけんな。 一応、エレベーター付ける計画は立ってたんやけど。

 ビル建てるときに、何らかの理由で 反対されたらしい。」

「だからって、5階まで階段で上るのは・・・。 ちょっと。

 ーあ!!惺慈早ッ 待ってよぉ。」

「あ。ゴメ。 流石に14年間ココの階段使ってると。なんか、ね。」


でも、本当に面倒なところに住んだ(道を作った)モンだよ。 新宮家。


家の前に着く。玄関で(スニーカー)を脱ぎ、そのままベランダへ向かう。

この部屋は、"人間(ゲカイジン)として"

の新宮家の家としても使用されてるから、流石に靴を脱がないで家には上がれない。

ベランダでまた靴を履くのだが、玄関→ベランダまでの短い道のりで

わざわざ履いたり脱いだりはダルイ。

ま、習慣になったから言うほどキツさは感じてないんだけど。


「あれぇ?執事さん達。今日はいないねぇ。」

ナナがひょっこりと家に入って部屋を見渡した。

そう、ここは、人間の新宮の家として使われているから、誰かが住んでいる。

と思わせるために、執事や家族の誰かが何人かで夕方から夜まで何時間かの時を過ごす。

というサイクルが行われているのだ。

「たまには皆昼寝したまんま、朝まで眠ってるって事にしてんだよ。

 仕事が忙しい日とか、特にコレする。多分、今日は

 この前家族会議で家事が手に付かなかった分、働いてるんだと思う。さっき俺が

 家に帰った時、皆パタパタしてたから。」

「昼寝・・・・。なかなか呑気な家族に思われそうだね。」

ナナが作り笑いをしてみせた。

「でも、良かったんかな。」

「何が?」

「ウチ、こんな忙しい日に遊びに来ちゃって・・・。迷惑じゃない?」

肩を小さくして、ナナの声が、少しだけ弱弱しくなった。

「んー・・・。良いんじゃない?別に。俺が許可してる訳だし。」

「そぅかな。アリガト。」

ナナが俺より先にベランダの方へ駆けて行った。



私がベランダに行くと、そこに見えるのは

広い草原、青い空、白い雲、舞い踊る蝶。


耳に入ってくるのは

小鳥のさえずり、風に揺れる木々の(ササヤ)き。


初めて来る人は、まさかココが魔界だとは思わないだろう。

人間界と変わらない。

いや。人間界より、ずっと、奇麗な場所。


私も初めてココに来た時、ビックリしたもの。

惺慈は昔、隠し事を隠し通すのがすっごくヘタだった。

ベランダを越えて欲しく無いなら黙ってればいいのに、

『なな!! べらんだにいっちゃ、だめやけんね!! ぜったいだよっ』

と言ってしまったのだ。

それも しつこく。


私は好奇心が抑えられなくなって、つい、こっそり扉を開けてしまった。

ソレが原因で、私の記憶を消去する計画が立てられた位、大騒ぎになったのも覚えてる。


それがあっての今なんだけど。



振り返ると、さっき出てきたベランダの戸は消えていて、

代わりに、赤い屋根の小さな小屋があった。

因みに、森の中。 (私がいるのは森と草原の境目)

そこが、魔界から人間界への扉だ。


その状態から視線を右に()らすと・・・

つまり、草原を向いた状態から左に


大きな洋館がたっていた。

そりゃもう立派な洋館。

敷地は、山や森は勿論、海の一部まで飲み込んでいるから、

私が歩いて1周しようなんて、考えるのも恐ろしい。


"敷地"と言っても、城を囲む壁のほとんどは壊れて役目を果たしていないし、

グチャグチャと、子供の落書きの様な跡が()っすらと残っていた。

(噂によるとだけど、幼き頃の惺慈の仕業)

要するに、わりとオープンな感じなのだ。その城は。



そして、言うまでも無いが そこが惺慈等、魔王(シングウ)家の本家。



― 魔界城なのだ。



まだ全部を見た事は無いけど、私から見えているのは、本館。

その他に、洋館合計三棟と、裏に和館、それから、植物用温室に花畑、野菜畑。

あと、伝達用の鷹や(ハヤブサ)小屋に神殿・・・・・・・・・・・Etcetc。

ー!! とにかくイロイロあるから、そりゃもう、ビックリ。


でも、生活に不必要なプールとかダンスフロアとかは無いと聞いた。

(魔王家は別に 金持ち集めて毎日パーティー!!とかはしないみたい。)


・・・・にしても。 たしかにコレは、家事が大変だわ。

執事さんやロボットがいても、手に負えないワケね。


ボロボロになった壁に付いているベルを惺慈が押し、

自分が私を連れて家に帰る事を誰かに伝えていた。

・・・だからと言って、別に

『足で本館まで行くと時間がかかりますからどうぞ。この車にお乗り下さい。』

と 高級そうな車が迎えに来るわけでもなかった。


惺慈の家に入る前に ふと、城を見上げる。

大きい・・・・。 空が視界にほとんど入ってこない・・・。

惺慈がドアを開けた。


「ただいまー。」

・・・・・・・・・・・・。


魔王の家はお出迎えに

執事がズラッと並んで『お帰りなさいませ。 惺慈様。』とかは無いらしい。

惺慈の声が部屋中にこだましただけ。


家の中は、ちゃんとしたお城らしく赤褐色の大理石で出来ていた。

赤い絨毯(ジュウタン)が部屋の道として敷いてあった。

玄関から階段まで。 住人達以外は分からないけど。

やっぱり 惺慈達は絨毯の道なんて無視するみたい。

それから、天井が高い辺り、

この部屋の上には、何の部屋も無いと思っていいだろう。

高い天井にある窓からは、日の光が射していた。

見た感じ、この部屋は風除けみたいなものらしい。


たくさんの部屋や廊下につながるドアがいくつか見える。


それから、面白い事に 

この城では 靴を脱がないといけないらしい。

ちゃんと靴箱がある。

たしか、惺慈のお父さんが

部屋が汚くなる!! 日本はそんな事しない!!とか言った。

って 惺慈が言ってたっけ。




靴からスリッパに履き替えると、

ナナがこちらを見てクスクスと笑っていた。


「*(ナン)笑っとーと?」(*「何笑ってるの?」の意)

と言ったが、いや。惺慈ん家がね・・・っ

としか言ってくれない。 そんなに変わってるか?ココ。


惺慈は、絨毯の階段を上がり、廊下につながる戸を開けた。

戸の先の廊下からは、大理石なんて無く、

木の床に白い壁。って感じので 

さっきとは感じが全然違う。


俺の部屋の前まで来たので、スリッパを脱いだ。

部屋まで履く必要ないし。


ナナがまた笑い出す。

何がおかしい。この!

 

「どーぞ。 ナナ。部屋、入って良いよ。」

「おぉ!! アリガトー♪」

ナナは高テンションで部屋に入った。

「あぁ。脱いだ靴はこのスリッパ掛けに掛けてな。

 あ。あと、そこら辺、適当に座っていいから。」

「わぁってるってぇ!!」

自分の胸をグーのてでトン、と叩き、辺りを見回した。


ナナは部屋に入るなり、

「うわぁ。 相変わらずな感じだねぇ!!

 いや。広いけどさぁ。なんての?空気!空気がなんかねぇ。

 普通すぎってか。 あれ?君本当に魔王?みたいな。まぁ。確かに

 部屋に観葉植物やらソファやらがあるまではまぁまぁらしいいんだけど。

 勉強机とかとか、 家具は普通だよねぇ。・・・しかも睡眠は敷布団!!ププッ」

と。人の部屋に長々とケチを付けながら部屋にあるソファに腰をかけた。


「いや。でも コレ普通の植物じゃないよ?

 ホラ。マ○オに出てくるあの赤に白い斑点の歯がある植物と同じヤツが一匹

 混ざってて、よく腕噛まれて俺マジで大変・・・。 

 いや。その前に、部屋に魔界蝙蝠(清潔)が5匹程放されてたり。そのワリに

 黒猫もちゃっかし飼ってたりしてるあたり、 

 あぁ。 この子は マジで魔王なんやなぁ。・・・って思うやろ???」

俺が負けまいと必死で対抗したのをナナが、


「あぁ。はいはい。アニマル好きなのはわかったから。この話は終了!!」

と あっさり終わらせてしまった。


「アニマル好きって・・・。」


お互いに顔を見合わせて笑った。

部屋に縁取られた出窓から夕日の光が射し込み、

笑いあう2人の顔をオレンジ色に照らした。


「あ。そんで、今日は何故に家に来たん?」

俺の左手はいつもの様に、観葉植物(水玉模様)に(カジ)られていた。

観葉植物のすぐ近くに座ってしまったから。

座りたての床の温度は低かった。


ナナは別に観葉植物の口から俺を解放させる気は無い様だ。

この風景は日常茶飯事になってるからか?

それとも蒼眼の少年が痛がらないからか・・・?


「ぉお! そうやった。えっとねッ・・・・・」

ナナがパッと明るい表情になって体をズイ。と

惺慈の方に寄せる。



・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・



ナナの話は終わってなかった。だが、

話に耳を傾ける事さえも忘れた新宮惺慈の脳が

大きな危険を察して、反射的に時期魔王頭首を立ち上がらせた。

窓の一点をグッと睨みつける。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」




心臓の音が五月蝿(ウルサ)い。

畜生。(ウルサ)い煩い煩い煩い煩い煩い!!!!!

気持悪い。頭がグルグルする!

右手で頭を支えて、荒い呼吸をする。


・・・・この感じは・・・!!!

さっきのより、もっと大きな、"予感"が惺慈の頭を()ぎった。




気分が悪いのは一瞬で収まる。

精神も安定して、心臓の音も聞こえなくなった。



何故なら それは・・・・・・



有り難う御座いました。

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