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1-暗涙ノ魔王 上

―人間界

      日本―    

   



秋。緑を失ってきた葉の間からは

とても秋の太陽とは思えない程強い光がもれていた。

その眩しさにも気付かずに俺はひたすら走り続けた。

俺の男子平均より少し長めの黒髪がなびく。


日の眩しさに 少し眼を細める。

俺の眼は深く、透き通った(アオ)色をしていて、

日本にいると結構目立ってしまう。

だからと言って外国に行くと髪が真っ黒なのでまた目立つ。

(そうでもない国もあるんだけど;)

何故日本人でありながら、眼が蒼いのか。と言われると それはまぁ、

人間ではなくて、魔族だから。なんだけど。


さっき日本にいると〜と言ったが、

この国のこの場所。つまり"日本九州福岡"が

1番魔界と人間界との境目に良かったんで、

この国のこの地域周辺以外には、あまり境目を作らない方が良いってゆう理由で

ココにいなきゃいけないから外国なんてほぼ論外なんだけど。


今日から着る事を定められた学ランが、ずっしりとしていて重い。

夏服のカッターシャツスタイルが、夢の彼方(カナタ)に消えた様に思えて仕方がなかった。

でも、久しぶりに着た学ランの重さが少しだけ、

何か小さな希望を与えてくれている様な気もした。


学校に行くには歩いて10分程度 そんなに遠くは無い。

それでも時間に余裕が出来ず、ついに遅刻決定の時刻に家を出る羽目(ハメ)に・・・。

正直、体力(特に足)には自信がある。

でも、もう間に合わないに決まっている。

・・・・・・・・・少しだけ・・・・歩こう。

なんとかなるさ。



あの陽だまりの光源のある青く広大な空には小さな雲が点々と泳いでいた。

夏の空気漂う秋、俺は汗を(ヌグ)った。



(ワガ)中学校の校門の前。 風の音が響く。

この静けさは・・・分かってはいたがもう遅刻決定だろう。

いや。 もう朝のホームルームが終わった頃か。


午前の学校は静かで廊下には生徒どころか先生もいなかった。

ここまで誰もいないと、かえって緊張してしまう。

俺の歩く音すら響かない廊下は、時間が止まった空間。そのものだった。


教室に近づくにつれて聞きなれた生徒達の賑やかな声が聞こえてきた。

そう。聞きなれた博多弁。 此処はまさしく九州福岡の博多ですから。

少し安心。


俺にはかなり臆病なところがある。

だから教室に入る時、少しためらってしまう。

・・・・・・魔王ともあろう者が、こんなんで大丈夫なのだろうか。

おそるおそる教室の戸に手をかけて深呼吸。

((遅刻したけど、普通に入っていいよな?・・・多分。 うん、大丈夫。))


ガラッ っという音と同時に 生徒達の声は急に大きくなり、

俺の視界にいつもと変わらぬ教室風景が飛び込んでくる。


俺の通っている中学校は、最近まで"ヤンキー学校"とも呼ばれていて、

学校でお菓子を食べたり、爆竹を鳴らしたり、外で犯罪を起こして新聞に載るなんて事が

しょっちゅうだったらしい。

だから今でも周りからの評価はあまり良くない。

実際、まだ創立20周年を迎えたばかりのわりと新しい学校であるにも関わらず

校内はかなりボロボロ。


・・・とは言っても 本格的にヤンキー学校だったのは5年程前までの事で、

その面影を残しつつも確実にいい方向へと成長している。



俺の通う教室―つまり、2年5組では現在、

配られたプリントを丸めて投げたり、ほうきで打ったりして遊ぶ男子達、

教室の隅でグループを作ってお喋りをする女子、

それから塾の宿題の答えをうつし合いっこしている男女等、

いつもと変わらぬ風景が見られた。


よくこんな狭い教室で・・・・。と少しため息。

でもそれは、『あーぁ。またかぁ ぶつかったら危ないじゃん(ムカムカ)』

じゃ無くて、『しょうがないなぁ。(微笑み)』のほうのため息。


「お・・・おはよー。」

教室に入ってとりあえず挨拶を行う。 その瞬間さっきまでの賑やかな時が止まった。


「「う゛ぁ゛!!!!!!! どぅしたの!? その怪我ッ」」

同クラスの者達が、一斉(イッセイ)に俺のまわりに集まる。

中にはまともに俺を見る事が出来ず、手で目を覆っている女子もいる。

・・・のに対し、興味心身な奴もチラホラ。

あー。 忘れてた。俺は今本当にケガを負っていて、正直少しグロイ事になってるんだった。

右手にはグルグルと巻かれた包帯。

しかも流れ出したばかりの新鮮な真っ赤な血がじんわりと滲み出している。

額に貼ってある絆創膏(バンソウコウ)からは血が漏れ、鼻頭から2手に分かれて

そのまま(アゴ)まで達している。

そして目尻から口元あたりまでに及ぶ、赤く残った引っかき傷。

そりゃぁ皆驚く訳だ。

俺だって、友人が怪我だらけでイキナリ登場したら大パニックだ。・・・・多分・・・ね。


とっさに理由を考えるが瞬時に出た言葉。

それは言うまでも無い。

恐らく誰でも予想出来ちゃう様な。そんなセリフ。

「えっと・・・転ん」

「「嘘付けぇぃ!!」」

やはり。発する言葉がベタなら反応もベタときた。


え。ばれたぁ? そう俺は右手で後ろ頭を掻いた。

魔族事情なんてクラスメイトにそう軽々と話せるもんじゃない。


そこへ、群がる生徒たちをかきわけ、ズイッと1人の少女が歩み出た。

少女の紺色のセーラー服の膝下まである長いスカートが揺れて、膝が見え隠れしている。


光明寺(コウミョウジ)ナナ だ。


惺慈の幼馴染でクラスメイトの少女。

彼女は茶色い眼をした少女で前髪を真ん中で分けてそれをピンで止め、

余った後ろ髪も真ん中で分けてゴムで止めている。2つ結びというヤツか。

眼がパッチリとしていていかにも明るそうな女子。友達も多そう。

・・・・・・というか、実際にそう。


彼女は惺慈に群がった生徒達を

はいはーい。見せモンじゃないからねー 邪魔邪魔。 と手で払った。


そして、自分に用があって現れたであろう彼女を無視して

スタスタと自分の席に戻ろうとする惺慈を追いながら彼女が言う。

「どうせ お父様やろ?・・・そのケガ。んー!!もう。早く血ぃ拭きなって。 保健室は?」

彼女の発した言葉は、少し強い口調だったが、その表情は明らかに惺慈の事を心配していた。

 

「ん。まぁ・・・そうだけど。流石(サスガ)ナナ。

 あー。ハンカチ忘れたわ。俺 焦ってたから。ってか保健室って

 学校以外での怪我って治療してくれないんじゃなかったけ?」

自分の席にバックを置きながらそう言う。

なんとなく、何かしながらじゃないと喋りたくなかった。 

ちょっとした苛めでだけど、無視して悪かったなぁと。

悪い事をしたのに、そんな事は気にもかけずに心配してくれたのだ。ナナは。

自分が恥ずかしい。そう思った。

まともに話せなかった。

だから何かをして気をまぎらわせたかった。



自分はまだまだ子供だ。そういえば、昔 ナナにこんな事を言われた。

『女の人はね。男の人より精神年齢が3つくらい上なんだよ。

 だから 女の人は16歳、男の人は18歳から結婚できるんだよ。』

って。 そんな事知っていた。

でも、そんな事信じたくないなって思ってた。


大当たりじゃん。


惺慈はナナの顔をまともに見る事が出来なかった。


ナナは、惺慈の家庭事情(魔王である事)を知る唯一の人間だ。

だからこそ、分かり合える事がいくつもある。

ナナがふぅ。と肩でため息をした。


「ムリすんな!!・・・って。右手怪我してるけど、字、書ける? 右利きでしょ?」

ナナに心配される事が少し、ツライ。

そして少し後悔。 引きずるタイプなんだよなぁ。俺。


・・・そんでもって、

このケガと父とが関係しているのは本当。

ケンカをした。

ケンカというかトレーニングというか・・・。

父は魔族の王らしくない俺をどうにかして育て上げたいらしい。


ちなみに"魔族の王らしい"とは、

1.優しさ有

2.冷静沈着

3.拳を強く!!

4.防御力を強く!!

5.素早く!!

6.殺す時は何も考えずに。

ETC ETC・・・・である。

俺はその中の2つ(1・5)しか合格してないらしい。


・・・で、たまにこんな風にすごい怪我をしてしまうのだ。


父の能力は"毒"と"ワープ(空間移動)"怖い&キリが無い能力だ。

って。さっき言った事だけだとあまり仲が良くない感じしてるけど、

実際、結構仲が良い。一緒に買い物に行く事もしばしば。



「よっす。はよー。」

「ん?」

後ろから声をかけられ、さっきまで机に教科書をしまっていた手が止まる。

振り向くと友人が立っていた。

「あ。恵比須(エビス) 横町(ヨコマチ) 大野(オオノ)。おはよ。」


恵比須は髪がツンツンしていて、少し茶色がかっている。

頬には十字傷。いかにもヤンチャ坊主な小さいの。


横町はなんともいえぬワイルド(?)な髪のわりに

眼を閉じてる風なキャラ。平均−3cmくらいの。

大野は簡単に言ってしまえば学級委員キャラ。

眼鏡をかけている。平均+5cmくらいの。俺とほぼ 同じサイズ。



眼鏡といえば、俺も視力が低くて小学校5・6年時は眼鏡だったっけ。

後から戦闘に不便だって事で 戦闘用コンタクトに変えたんだ。

 

「おはよ。今日は遅かったじゃん。ナナが体調不良っつってたけど、

 怪我・・・だったんやな。」と大野。


「おぅ。 まぁ・・・イロイロ・・・。」

俺は今日みたいに家庭事情(?)で学校を遅刻or休む事が多々ある。

なので、それをナナがいつもフォローしてくれているのだ。

チラリと前を見直すと、さっきまでそこに居たナナは、別の友達のところにいた。

うっわ。友人にイキナリタックルかよ。・・・・そりゃあ怒られるわ。 はは。

微笑ましい光景を見る時、それが幸せ感を感じる時だった。


しばらく3人とくだらない会話をして盛り上がっていたが、やがてチャイムが鳴り、

俺等の盛り上がりはプッツリと切れてしまった。

まるで俺等がテレビで、チャイムがリモコンなのかの様に。

でも、 いくつか不良品が有る様で、なかなか会話を止めて席に着かない者もいる。

中には 先生が来て、号令が始まっても落ち着きが無い生徒がいるあたり、

流石は元ヤンキー中学校。 と思ってしまう。


昼休みになると、あの3人とまたくだらない会話を始める。

本田先生は元ヤンキーだった。とか、アン●ンマンの頭は最低でも*グラムはあるだろう。

ってことは、ソレを投げるバタ●さん達は、実は凄い筋力を持っているであろう。

とか、そんな話。


「バイ●ンマンは菌なんだから、細胞分裂する筈・・・・と思うんだけど。」

大野が視線を右ななめ上に上げて言う。それを聞いてあぁ〜。 そりゃそうだ。と皆が反応。

「あー。 それあるわ。 って、じゃぁ 実は単細胞だったって事!!?」

俺はあのバイ●ンマンが単細胞である恐れ説を説く。大した事は言ってないと自覚しつつ、少し得意な気分になってニコニコとしている俺は続けて

「って事は、バイ●ンマンは日替わりの恐れが出るわけか。」と頷く。

「え!!?じゃあ ドキ●ちゃんも分裂をするって事やろ? それってヤバくね?だって、ホラ。複数いるドキ●ちゃんはドキ●ちゃん同士でショク●ンマンの取り合いでコロシアム始めちゃうやん。」恵比須の声はとても明るく、楽しげだった。

「思った。分裂後は多分、カビルン●ンだよ。・・・あ?でも 分裂って事は、

 形質も遺伝も同じな筈・・・・え??あ゛ー 分かんなくなってきたぁ。」

俺は両手で頭を抱える。

「アン●ンマンネタって、いくら話しても尽きんし、

めった面白いよね。ってか、ナゾが多いって感じかいな。」

横町はそう、のびのびとした声で言った後、一瞬だけ眼を大きく見開いた。

それから考え込む様にわずかに眼を細め、

「ナゾって言えばさ。 惺慈って・・・。」

と言いかけたが恵比須と大野が慌てて横町を止めにはいる。


「?」一人きょとんとする俺の前で二人が横町の口を塞いでいる。

「ちょッ それはヤバイって!! 前に皆で誓い合ったやんか!!それは禁句やってッ」

「だッ 気になるやん。 惺慈なら大丈夫だってー!!」横町が二人を剥がす。

まぁ・・・そうだけどさ。 二人が静まりかえり、三人が惺慈をジッと見つめてきた。

惺慈は一人で え・・・さっきから(ナン)なん?ぇ・・・ちょッ 

―と、胸辺りで降参ポーズをし、戸惑っていた。


大野が問う。

「突然ですが、質問します。いいですか?」

「おぅ。」緊張感が腹から胸へと走ってくる。


「授業参観がありました。ほとんどの生徒の親は我が子の晴れ姿を期待して

 見に来ているのに対し、A君のお母さんだけ来ていませんでした。」


「・・・うん。」


「体育祭がありました。皆家族とお昼を食べています。

 ところが、A君は1人でご飯を食べています。

 A君には、そんな事がしょっちゅうありました。」


「? ちょ。意味不明なんだけ・・・」

と惺慈が言いかけたが、恵比須の咳払いがそれを打ち消す。


「そこでですよ。誰かがこんな事を考えました。

 A君は、親と一緒に暮らしていないのではないだろうか。両親が離婚していて

 それどころではないのではなかろうか。と。

 もし、惺慈がA君の友達なら、どうする?」


えっと・・・・どうだろ・・・。惺慈はそう、考え込むように言った。

三人はそんな惺慈をじっと見ている。


「そこは相談に乗るべきだと思うけど、怖くて何も言えない・・・・かな。」


視線を三人からそらして、自信無さ気に言う。

その答えにリアクションをせずに、大野がまた惺慈に問う。


「じゃぁ、お前がA君ならどう思う?」


困った。惺慈はそう思いながら答える。


「誰か自分のSOSに気付いてくれんかな。って思う。」



「・・・・。」

「・・・・・・・・・?」

沈黙がほんの少しだけ続いた。


「まぁ、特に大したこどじゃないんだけど。惺慈について、ずっと気になってた事があって。

 でも、それがお前の心を痛みつける様な質問なら悪いかな。という事で、

 ずっと*黙っとったっちゃんな。

    (*「黙ってたんだよ。」の意味)

 でも、お前がさっき言った"SOSに気付いて欲しい"って言葉。

 それは、古傷掘るなタイプではなく、悩み聞いてタイプと見た。」

「はぁ。 それで?」

 そんな、タイプって。そんなの時と場合によるから。

・・・と言いそうになったが、その一言が大野の心を痛める可能性があると思ったので、

辞めておく事にした。そんな小さな事で仲違いはしたくない。


「イキナリ悪いけど、あんさ。お前ってなんで―」

唾をのむ。嫌な予感がした。


「なんで、眼、(アオ)いの? 日本人・・・だろ?」


この質問・・・・。

小さい頃はしょっちゅうだった。

その度、頭を働かせていた。

俺は、された質問を毎回同じ様に答える事が出来ない子供だった。

ある時は、注射で着色した。とかグロイ事を言っていたし、

またある時は、ハーフだから。とも言っていた。

その為、俺の蒼眼説は迷宮入りの謎と化っしていたのだ。


でもそれは、最近中々されない質問だったので正直油断していた。

そうか、皆気遣ってくれていたのか。

少し嬉しく思ったが、今はどう答えを返すかを考えなければならない。

リアリティーのある答えを出さねば・・・。

頭がフル回転し、何がなんだか分からなくなる。

流石に、生まれつき。とは言えない。

そんなの、謎が深まるばかりだ。


「え・・・・・・・えと。・・・・・あの・・・・・な。」


おどおどして時間を稼ぐ。

俺の視線は右斜め上を向いていたのだが、

やっぱり悪い質問だったのか。と

三人が心配そうにこちらを見ている気がしたので、


ちょっちょい待って。 なんて言えばいいとかいな。

あ。決して質問が悪くて、俺の心にさっわった。ってワケじゃなく、

ただ、なんて言えばいいのか。整理がつかんだけやから。


と慌てて言ってしまった。

その時だけでも皆の目を見て話そうと試みたが、上手くいかない。

しくった。"整理がつかない"なんて言ったら、

もう、複雑な話しか出来ないじゃん!!

と、さっき良かれと思って吐いた言葉の欠点を発見してしまった。

自分の首を絞めることをうっかりと言ってしまう。

それが俺のいけないところだ。

心の中がパニック状態になる。


冷静に。

そう、冷静になれ!!

父さんによく言われるだろう?

冷静になれッ


心の中で連呼する。


「あ・・・・あんな。」

こうなったら、もうどうでもいい。

瞬間に思いつくかもしれない。


三人が心配そうに俺を見つめる。


「が・・・・・眼球移植だよ。

 小さい頃に病気になってさ。 うん。」


俺の言葉に三人が驚く。

何か恐ろしいものを想像したような感じで 眼を細め、眉間にしわを寄せた。

怖ッ!! ・・・・多分そう思ったであろう。

複雑な話に分類出来るほどの答えではなかったが、

なんとか場を乗り超えられたと思う。

一安心。


「ん・・・・と。じゃぁさ。」

恵比須が静まった空気を直そうと話題を作る。

「惺慈ってさ。プールとか入んないじゃん?

 あと、修学旅行の時も風呂を別で入るし。あれって何で?」

安心しきった惺慈の心、体、全細胞が 急にあわてだした。


それと同時に横町と、大野が顔を強張(コワバ)らせた。

それは、眼の事より恐ろしい説がある可能性が高いからだ。

例えば、背中に、幼い頃に事故で負った大きなケロイドがある。とか

親からの暴力で出来た消えないアザ。とか。

"タイプ"関係無しに、誰でも思い出したくない様な事実が隠れているかもしれないからだ。

まぁ。眼もそうと言ってしまえば、そうなんだろうけど。

そんな簡単な事も考えられない無神経男。

ソレが恵比須。


「水嫌い? それとも日に弱いよか? うゎッ王子ー

ねぇ。 何? 何???」

(イマ)だに自分のミスに気付いていない様で、

恵比須はキャッキャと俺をおちょくってくる。


「あ・・・ぁ・・・・・・。」

うつむいて(アセ)る俺を見て、コレは本当にヤバイと感じた大野が、

恵比須を止めに入る。

「馬鹿!! 惺慈が困っとーやんか!!」


効果なし。


恵比須は本物の馬鹿と見た。


確かに俺は人前で水に入らない。

・・・というか、肌を見せない。

それは、決して恵比須の言うような、

水嫌いとか 日に弱いとか、そんな理由ではない。宗教でもない。


"魔王家の印"が(ミギカタ)に刻まれているからだ。

これは誰にも見せられない。

中学生がイレズミを入れてるなんて騒がれたら、もう此処にはいれないだろう。

まぁ、イレズミではなくて、魔力で描かれた物なんだけど。


コレは何と言えば良いのやら・・・・。


「だッ・・・・それは・・・・ぁ・・・。」

勝手に口が開いてしまった。

俺の悪い癖だ。 言う事がなくてもつい、何かを言おうとしてしまう。

ってゆうか、時間稼ぎ。

あと、こうする事によって、

自分はちゃんと言う事があるんだぞ。

でも、なんていえば良いのか分からないだけなんだぞ。

決して 負けてなんか無いぞ(モノをスグに争い事にする癖の現れ)。

と、相手に伝えようとしているつもりなのだ。俺の心が。


既にこの行動自体、負けに近いが。


負けず嫌い。ソレが俺だった。

負けを認めようとしない。

でも、その為に努力をする事はほとんど無い。したがらない。面倒くさいと思っている。

楽に壁を乗り越えよう。

楽に良い結果をだそう。


そう考えてしまう。


簡単に言うと、じゃんけんをするぐらいなら、

話し合って決めようタイプ。

因みに、自己主張が苦手なので、

じゃんけんをする事になりがち。

そして負けたら、遠まわしに負け惜しみを言ったり、悲しんだりする。

ソレを誰かに気付かれる事は無に近い。

・・・というか、気付かれると嫌われる可能性があると思って控えている。

勝ったら何故か、凄く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


全く。

駄目な魔王だ。


「ん・・・・と。」

惺慈が一生懸命答えようとしている様子を見て、

三人が黙る。

三人は心の中で惺慈をさり気なく応援していた。


「・・・・ど・・・。」

惺慈の口が開く。

三人が息を飲む。

「どうしても・・・いッ言わないと ダメ・・・・・なのかな?」

切なく、女々しい細い声で訴えかける。

惺慈の蒼く透き通った瞳に涙が溜まる。

そのウルッとした瞳が三人を見つめる。

頬は紅く染まり、今にも泣きそうな表情・・・・。


「「いいです!! 気にしないで下さいッ!!!!」」


慌てて返事をする。 そうしないと今にも泣き出しそうだった。


(三人脳内)

鼻血。 ハートの矢が胸に突き刺さる音。


演技だろうけどさっ

どーせ 演技なんだろうよ!!

惺慈の馬鹿ー!!

でっでも・・・。 ブハッ・・・・((死



(惺慈脳内)

コレは出来る限りしたくなかったけど、

もう頭パンク状態だったんだよ!! 3人ともゴメン!!

ギブッって、ゆうか。

単純な奴等だなぁ。ヒヒヒッ


(↑その場を乗り越えた後は常にBLACK)



放課後。

今日は部活は無い。

まぁ。俺は帰宅部も同然な感じで、

吹奏楽部のお手伝いをしている。

指導したり、重要な楽器担当さん休部中の補欠になったり。

もち、コンクールも出ない。

因みに楽器はPERCUSSION(打楽器)。

ナナが勧めてきた。

少しは部活してるフリしないと、天使から生活パターン、マークされるでしょ?

アンタ、楽器できるし。部員より上手じゃん。って。


えっ!!? 手伝いって。

運動部じゃないの? 魔王なんだから、体力あんじゃないの?

ってゆうか。楽器できんの??


・・・とお思いの方もいるであろう。

俺の運動能力。ソレは確かに、人間よりはるかに上。

でも、人間界ではそれを抑えながら行動せねばならない

そうしなければ、イロイロと大変だろう。

有名になって変に目立ったり。

そのせいで、行動パターンが限られたり。

だから、人前では力を人間くらいに抑えて行動しているのだ!!((笑))


・・・・((笑))←といえる程簡単でもないけどね。

俺は力を抑えすぎて、男子の平均くらいの体力って事になってる。

だから、部活の勧誘も来ない。

それに、いちいち部活なんて毎日やってたら

魔界が大変。

(俺はまだ子供だから、仕事を任せられる事はほとんど無いけど手伝いくらいはしないと、家族と執事さんだけでは(家事が)ヤバイ。国の仕事もしなきゃいけないのにね。)


因みに、"楽器"は確かに出来る方だ。(多分・・・・。)

家族が好きなんだ。ピアノやらドラムセットやら、ギターやら。

ギター以外の弦楽器と管楽器を除いたポピュラーな楽器なら、

大抵家にある。ポピュラーでなくてもある物はある。かな。ビブラスラップやらそうかも。

あ!!あと管楽器リーコーダーもあるか。


だから、楽器なら小さい頃から両親に教わってきたし。

人並みにはできるかなぁ。と。


部活動生は、まだ家にはかえらない。

だから下駄箱は 空いていた。

惺慈・恵比須・横町・大野は、家の方向が違う上、

惺慈以外は部活をしているので普段は一緒には帰らないが、

今日はたまたま(校門までだが)一緒に帰る事になった。


女生徒達がバイバイ。と言っている声が外から響き、聞こえてきた。

「あーダルッ 俺塾あるから、早く帰らんといかんっちゃんな。」

大野がため息をする。

「ばッ止めろって。 ため息は伝染病っちゃけんな。」

恵比須が慌てて言う。勿論、おフザケで。

「因みに、ため息をすると、寿命が一年縮まると聞いた。」

横町がありえないことを言い出す。

「はぁ? 不幸になるんじゃなくて?」

「分かってるならため息すんなって。」

俺も参戦。


惺慈は自分の黒いラインの入ったスポーツシューズを取り出した。

・・・と同時に、水色水玉模様でシンプルな感じの封筒が、靴の上から滑り落ち、

ヒラヒラと中で泳ぎながら惺慈の足元に着陸した。

「あ・・・。」

思わず声が漏れる。


恵比須が楽しげに叫びだす。そしてなぜか期待のガッツポーズ。

「ラッラブレタァーすか!!!? いや、下唇()みますッラヴレター!!

 何で君はそう、モテるんだ?流石っす!!(ウラヤ)ましいっす!!!!」

手紙を受け取った本人よりもビッグリアクション。


惺慈はヨッと掛け声を出しながら、手紙を拾う。

「あーいや。ちがう。」

惺慈は面倒くさそうにため息をし、手紙を開く。

「えー何だよ!! 違うわけないやろ!?靴箱にお前宛てに手紙置くったら、

 ラヴなレターっしょ? もっと喜べ!青春しろ!ブーブー!!」

恵比須がけちを付けてくる。


「いや。だから違うって。」

本当に違うんだけどなぁ。だってこの封筒は・・・。

苦笑いで封をあけると、封筒とお揃いの便箋にこう書いてあった。

『惺慈に告ぐ!! ナナから!!

 恵比須はどう? 今頃ブーブー言ってるでしょ?((藁))

 今日部活ないし私 暇だから、お久しに惺慈ん家行っていいよね?

 言いたい事とか色々あるしね。 理由は後で言うわ!

 4時頃にビルの前に行くから。 あ、お菓子ヨロ↑↑』


女の感って怖い。


「あー。 手紙くれるくらいなら 口で言えよ。てか。絶対お菓子目当て」

ナナは最近手紙ブームに入っているらしい。






ここまで有り難う御座いました。

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