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目を覚ますとそこは樹海だった。そのど真ん中に私は立っていた。
私は、誇り高き竜族がひとつ。レッドドラゴンであった。人間には特に興味はなかったが、尊敬する魔王のために、人間と敵対し、100年に渡る戦争をしてきた。そして苦しくもこちらの敗北でその戦争は幕を閉じた。そしてその時に自分の命もなくなった。はず……だったのに。
なのに、何故生きている。
生きる意味は消えてしまった。なのに、自分は何故生きている。同じところへ行きたいと願ったのに。どうして。
打ちひしがれる気持ちとともに、無力な自分の手を眺めた。5本の指の生えた、柔らかそうな人間の手。
ーーー人間の手!?!?
駆け出す。そしてすぐに足がもつれて地面に転がる。軽い体、前に位置する膝、傷口から出る赤い血。これは、間違いなく人間のものだ。私は人間になったのだ。
「なんてことだ……」
○○○
樹海を歩き回ると湖があった。
最初は足を動かすのに苦労したが、しばらくしたら慣れた。転んでできた傷から出る血が気になるので水浴びをすることにした。また、この樹海は大変蒸し暑く、体から水分が抜けていくので、水分補給もしたかったからだ。
自分が何故人間になったのか、魔王が撃たれた後、世界はどう転換したのか、気になることはたくさんあるが、ずっと嘆いていてもしょうがない。気になることは調べることにした。幸か不幸か、戦争に勝利した人間になったから、同じ人間に聞けば情報は手に入る。そのためにはここから抜け出さなければ。
木々を抜ける開けた場所に出た。湖だ。
転ばないように駆ける。水辺に寄ると、反射した自分が水面に写った。
(赤い髪と漆黒の瞳…年齢はまだ幼いな)
生まれて10年と少しくらいの人間がそこにいた。ドラゴンの時は見なかった人間の裸に興味は募るが、それどころではない。
水面に口つけ水を啜り、湖に飛び込んだ。
しばらく水浴びしていると、数メートル先に同じように水浴びをしている人間がいた。初めて人間と話すので少し悩んだが、話しかけることにした。
「すまない、少しいいか?」
「えっ?」
急に近寄ったせいか、人間は目を丸くして固まっていた。その人間は、自分と同じくらいの年齢で、髪は腰まであるグレーで瞳も同じ色。吊り上がった目尻はまるで竜族のようだった。
(ところでなんだこの胸元の膨らみは……?私の体にはそんなものない。しかし私にある真ん中の足がこの人間には存在しない……??なんの違いだ??)
まじまじと体を眺めていると、ヒュッと風を切る音がした。
バッッッッチーーーン!!!
「ひ、人の裸、そんなにまじまじと見ないでよね!」
「!?」
「あっち向いて!」
「なぜだ!?」
「いいからあっち向け!」
「痛ーーー!!??」
頬を打たれたのは平気だった。しかし、真ん中の足を蹴っ飛ばされたのは良くなかった。人間の体の脆さが想像以上だったようで、自分は痛みに耐えきれず泡を吹いて気絶した。