帰ってきたルル、おかえり!②
完結後の追加の番外編、第2弾となります。前回は、ルルと麻衣沙の視点でしたけど、さて今回は……
※前半と後半の視点は、別人物となっていますので、ご注意くださいませ。
大学卒業後に大学院を経て、斉野宮家が経営する系列会社に、『斉野宮 樹』こと俺は就職した。僅か就職1年目にして、転勤命令が下った行き先は、海外であった。将来的に経営側に携わる人間として、ほぼ内定している道筋と言える。
『藤野花 瑠々華』ことルルが、大学を卒業した直後に俺達は結婚した。要するに俺は、大学院在学中に結婚している。彼女は大学卒業後、就職する気満々でいたから、防ぐ為でもある。早い話、美しく咲く花に戯れる虫ケラを、寄せ付けないようにしたかった。俺の幼馴染で親友である岬も、同類であったようだけれど…
当初の俺達は、互いの結婚式を同時に行うという案も、提案していた。互いに妥協する中で、ちょっとした行き違いが起こり、結局何方が先に結婚するという、勝負事となってしまった。
…どういう条件であれ勝負するならば、岬に負けたくない。それで、つい何時も通り張り合ううちに、結婚式の日取りも勝敗で決めてしまった。何をどう勝負したかは、ルルには絶対にバレたくない……
当時の俺達は互いに、婚約者から恋人に昇格しようと、何でも勝負ネタにし争っていた。それは度を越し、何方が先に一線を越えるかという話が、何方が先に結婚するという勝負に、繋がった。結果的に勝っても負けても、恋人には言えない事情となる。結婚後も未だ、ルルには話せずにいる。本気で怒ったルルには、俺は全く歯が立ちそうにないからな。
俺は、岬との勝負に負けた。岬と麻衣沙嬢の結婚式の1ヶ月後、俺はルルと結婚するつもりでいたのに、大安など吉日や列席者達の都合を理由に、親族達から待ったをかけられ、大幅に遅れることとなる。その結果、ゴネまくる俺にルルは……
「樹さんがいつまでもごねられますのなら、私も本気で貴方との結婚を、考え直させていただきますわね。」
「…っ!?……ルル、機嫌を直してくれ!…もう二度と言わないから、結婚を考え直すのだけは止めてくれ~!!」
狼狽え気味になりながら、俺は平謝りする勢いで謝った。それでも、ルルは簡単には許してはくれなくて…。普段は穏やかで、優しすぎるルル。それなのに…怒ったルルは、本気で止めそうだ。二度と怒らせないと、誓った俺。
岬達の結婚から数ヶ月後に、俺達も結婚した。大学院卒業後に就職したら、上司から海外赴任を言い渡され、俺はルルと一時も離れたくなくて、妻同伴で赴任することになる。波乱続きの俺達だが、幸いにも1年間の短い転勤で、一度も帰国しない状態で今回の帰国となった。ルルには、寂しい思いばかりさせただろう。
昔の知り合いどころか、周りに日本人もいない状況で、ルルが頼る親族や友人も誰もいない上、初の海外赴任先での妊娠・出産となり、如何に大変であったことだろう。俺の最愛の奥さんは一度も愚痴を零さず、毎日笑顔でいてくれて。
出産時は陣痛で長時間苦しむも、看護師達がギュウギュウお腹を押し、やっと赤ん坊が生まれてきたと思ったら、ルルはホッと安堵したのか、気を失ってしまった。これが難産であったとしても、安産であるはずがない!…「俺の子を命懸けで産んでくれて、本当にありがとう」と、神にではなくルルに感謝して。
日本に帰国し何年か経った後、ルルが決して寂しがっていないこと、それほど孤独を感じておらず、外国人の友達を頼っていたこと、初産の上に陣痛が弱かっただけで、難産どころか一般的な安産であったこと、等々…を知ることとなる。ルルが後悔したり不安にならなければ、俺にとってはどうでも良い。勿論、俺は今でも難産だったと信じている。
「…斎野宮先輩って、大分ヤバくね?…奥さんを大切にするのはいいが、少しどころか重度の依存ぶりで、あまりにも束縛し過ぎてるし、重いよな…」
「…そうか?…あの程度ならば、通常レベルじゃないのか。難産と思い込んでいたのも、奥さんを心配したからだろうし…」
「…いやいや、十分に重い。瑠々華さんが奥さんだから、何とかなっているんだろうと思う。色々鈍い彼女だからこそ、気付かない可能性も高いだろうし、気にも留めないんじゃないかな…」
「…そうだな。樹は昔から瑠々華さんには、猪突猛進気味だったかな。彼女は樹から逃げようとしつつも、樹の演技にはコロッと騙され、最終的には絆されていたな。意外と通じるものもあるし、ある意味では似た者同士なんだろう…」
「「「………(う~ん、良いのか?…彼女はそれでも……)」」」
外野が何やら、五月蠅い。お前達の話は先程から、全て聞こえている。俺を理解してもらう必要もなければ、ルルを兎や角言われる筋合いもない。寧ろ…俺達夫婦はこれで丁度、釣り合いが取れているのだから。
……ふん、余計なお世話だっ!!
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俺の妻である麻衣沙は、丁度1年前から憂いに満ち、1人になると決まって気分が沈んだ。俺はその原因が何かを、把握している。麻衣沙の幼馴染で大親友でもある、瑠々華さんが近くにいない所為だと。
瑠々華さんは俺の親友兼悪友の樹と結婚、樹が1年間の海外転勤扱いとなったことから、夫と共に渡航した。樹夫妻は一時帰国もなく、やっと先日任期を終え、帰国してきた。その間に俺と麻衣沙には、樹達より一足先に子宝に恵まれ、彼らが海外赴任中に麻衣沙は初出産している。
初めての出産に初めての子育てで、麻衣沙は忙しくしていたものの、子供が昼寝をしている間など、ボ~とする様子も屡々見られた。俺達は『立木家』の若夫婦としての付き合いもあり、若奥様の立場も重く伸し掛かっていただろう。
俺は元々『篠里家』の者であり、麻衣沙と結婚するという形で、立木家の婿養子になったばかりだ。俺が立木家の者として振舞うには、まだまだ未熟としか言えなくて、妻にはさぞ苦労を掛けているだろう。仕事が忙しすぎる俺は、子育ても任せっきりとなり、実に不甲斐ない夫であった。
「……お帰りなさいませ、岬さん。ルルが…難産で意識が戻らないと、樹さんからのご連絡が……」
その日は何となく、悪い予感がしていた。残業を早めに切り上げ、上司や部下の誘いも上手く切り抜け、真っ直ぐ帰宅した俺。真っ暗な部屋の中、妻は1人ぼんやりしていた。帰宅した俺を見て、今にも泣き出しそうな顔で、声を震わせ話す内容はあまりにも、衝撃的で……
「…麻衣、君が取り乱してはダメだ。樹は昔から、彼女のことには周りが見えなくなる。もう少しだけ、様子を見よう。だから君も、落ち着こう。」
「……ええ、そうですわね…」
俺は妻を落ち着かせるしか、できない。妻にも樹は信用がないようで、妻は俺の言い分を信じてくれた。改めて樹から連絡が来た時、俺は安産ではないかと疑いを持つ。最近帰国した、瑠々華さん当人から聞いた麻衣沙の話では、俺の勘は当たっていたらしい。1年ぶりに樹と再会した日は、まだ真相を知らずにいたけれど。
麻衣沙を含めた、乙女ゲームという前世繋がりの女子友と、瑠々華さんが久々に再会した日。俺達男性陣は仕事で会う機会も多く、その日は樹とも会うことがなかった。既に樹とも顔を合わせており、俺達は仕事仲間との飲み会と称し、後日漸く樹と酒を酌み交わす。
斎野宮家が手掛ける会社は、様々な大中小の企業も連ねており、樹はその中でも中規模の関連企業に、就職した。麻衣沙達の友人の1人・英里菜さんも、そのうちの1つの関連企業で働いている。英里菜さんの恋人・右堂も、そのうちの大規模な関連企業の1つに、顧問弁護士として専属契約をしたようだ。
妻のもう1人の友人・美和乃さんは唯一、無関係の会社に就職していたが、今は妊娠を切っ掛けに花嫁修業中らしい。彼女の恋人の矢倉は、俺が矢倉の才能に目を付け、立木家が経営する企業に就職を斡旋した。俺は入社後、一通りの仕事を短期間で済ませ、立木家の経営企業の人選に、関わらせてもらっている。
当然のことだが婿養子である以上、将来は重要ポストを約束される。麻衣沙と離婚でもしようものならば、失うことになる地位だ。既に篠里には俺の居場所はなく、妻と離婚する気も浮気する気もないから、特に問題はない。
矢倉は現在、俺の直属の部下ではないが、俺の立場が上であるのは、間違いないだろう。右堂と英里菜さんも、樹と同一会社の社員でないとは言え、同様に上司と部下の関係に近いだろう。一見して光条だけは、俺達と何の柵もないようだったが、実は…彼の実家が経営する会社は、斎野宮家や立木家と取引を開始した。つまり、実家の経営する会社に就職した光条が、俺達と取引することを持ち掛けたのだ。
光条も去年、婚約者の悠里さんと結婚した。悠里さんは由緒ある、二之倉家本家のお嬢様だ。我が国の歴史上から見れば、彼の家は我が国の中で最も古参の家柄で、現在でも其れなりに名家として、有名な家柄ではある。
何方かと言えば二之倉家は、大地主として名の馳せた家柄だ。土地や建物に関する権利を持っており、何らかの形で斎野宮家も立木家も、二之倉家とは関わっているようだ。しかし、まさか二之倉家ご令嬢と親しくなるとは、思わずに。このように俺達は全員、何かしら繋がりができた。
瑠々華さんの実家・藤野花家も、それは例外ではない。藤野花家は以前から二之倉家と、親しい付き合いがあるようだが、瑠々華さんはその真相に今も全く気付かないらしい。
「瑠々華さんは、未だ知らないのか?…それって、不味くない?」
「いや、知らない方がいい。自分も働くと、言い出しかねない。予想がつかないからね、ルルは…」
「知らない方が、怒ると思うが…」
「今は…ルルも、リリの世話が大変だし…」
このままでは不味いだろうと樹に忠告すれば、酔っていたはずの樹も真顔で応答してきた。嫌な予感が…する。目線を逸らすのは、彼奴が後回しにする時の癖だ。
…知らない方が怒るぞ、多分…。俺は一応、忠告したからなっ!
前半は樹視点、後半は岬視点となります。前回と同様に前半と後半は、同じ時間枠に起きた出来事です。本文中の会話内の( )された文句は、彼らの心の中でのセリフ、という扱いになっています。
前回同様に今回の話も、同じ期間の出来事を各々別の立場から、それぞれが感じたことを、別角度から切り込んでみました。同じ内容でも語る人物を変えれば、こうも意味が違ってくるのかと、書いた本人も楽しんで書いた次第です。
※さて、『婚約破棄する期間は、もう既に締め切りました!』は、完結後の番外編もこれにて完結となります。筆者の気まぐれにお付き合いくださり、ありがとうございました!
※最後に…。登場キャラの最新版を、近々更新予定です。その後、本作品は完結扱いとさせていただく、所存です。
 




