後日譚1 俺が最後に出来ることは
今回も、前回と同じ人物視点となります。暫くこの人物視点が続きます。
※多少、過激な言動の描写が見られます。気分が悪くならないよう…ご注意くださいませ。
「………。ど、どうして…そんな酷いことを、言うんですか?…皆さん、悪役令嬢達に…騙されているだけですっ!…目を覚ましてくださいっ!」
どれだけ皆が、君の行動が迷惑だと伝えても、自分の存在だけを美化し、他の存在を…悪と決めて掛かる。本当に話にならないな…。悪女に本心から呆れていると、羽生崎教授が自分語りをし始めて、俺達は本心から驚いた。元々、悪女は教授に関心がなく、眼中にもない様子だが、教授の言葉にはショックを受けたようだった。しかし、開き直ったような様子となり、今度は…瑠々華さん達を標的とした。
「……樹さんと岬さんは、親が決めた婚約者ですっ!…彼らは、嫌々…婚約したんです。相良さんや聖武君も、可愛い子ぶった彼女達に騙されているんです。」
悪女の言葉に、斎野宮先輩と篠里先輩が完全に切れたようだ。特に斎野宮先輩は、容赦なく悪女の本性を引き出した。やはり悪女は、俺達の外見や家柄に惹かれていただけだな、これは…。
その後も順に、攻略対象側の主張は続く。右堂君は先程から、篠里先輩に軽く説明をされていた。今日まで知らなかったようだ。如何やら…悪女は彼にも、出逢いイベントとやらをしていたらしい。その根性だけは…感心する。
最後に矢倉君が、自分の気持ちを吐露するかと思いきや、先ず自己紹介から始め、こうなるまでの事情を説明し、俺達に迷惑を掛けた…と謝罪した。案外と、礼儀正しい良い奴だな。幼馴染の彼女から話を聞かされていたとは、昔から仲が良かったんだな。唐突に、その彼女が悪女に宣戦布告をし、矢倉君に回収されることに…。何となく…誰かを、思い浮かべるのだが……。
「君達の前世のゲームは、この世界の現実を元に、この世界から君達の世界に転生した誰かが、乙女ゲームとして作った可能性が高い。ゲームの元はこちらの世界なんだから、ゲーム通りにならないのは、当然なんだよ。」
矢倉君は、悪女にも穏やかに語った。俺も此処にいる皆…悪女以外の全員が、頷いていた。この世に神様でも存在しない限り、乙女ゲームを基にした世界など、誰が作れるというのか…。それなのに悪女は、現実を認めようとはしない。俺達の言動が、ゲーム通りの行動や態度を取るのが、当たり前だと言いたげで。都合の良い現実だけを見ている悪女、それが…俺の下したヒロインへの評価だ。
「嘘よ、嘘…こんなの…嘘よ……。ヒロインは、私なのよっ!私が…幸せになるのよっ!」
そうブツブツと呟いていた悪女が、唐突に立ち上がり、瑠々華さんを襲撃しようとした。誰も想定していなくて、あっという間の出来事だった。しかし、誰よりも早く動いた人物がいた。斎野宮先輩だ。彼は瑠々華さんを抱き込んで、悪女からの攻撃を防いだのだ。自分を…犠牲にすることで。そうして完璧に守られた筈の瑠々華さんは、何故かその後に気を失ってしまって……。
その後は、本当に大変であった…。斎野宮先輩が、気を失った瑠々華さんに気付くと、取り乱したからだった。そのあまりにも取り乱す彼には、俺も皆も…どうしていいのか分からず、本当に戸惑ったよ…。彼を良く知る篠里先輩と、年長の教授に任せて、残りの俺達攻略対象は、呆然としていた悪女を捕獲したのである。
「ルルっ!ルルっ!!…ああ、何てことだっ!…俺は…守り切れなかった!…あの女がルルを……。消してやる!…もしも、ルルに…何か起これば、お前を極刑の罪にしてやるっ!」
悪女は、俺達に取り押さえられたまま唖然とし、取り乱す斎野宮先輩をただ見つめていた。悪女が隠し持って来た蛇に、肩を噛みつかれて血が滲み出ていても、それにも構わず…今度は、悪女に掴みかかろうとしていた。流石に不味いと、篠里先輩と教授が取り押さえ、説得しようとして。
女性陣は真っ青な顔で、この光景を呆然と見ていた。いつもは落ち着いた麻衣沙嬢も、今は…唯々、瑠々華さんの身体を支え、泣きそうになっている。悪役令嬢達女性陣は、斎野宮先輩の様子に怯えている…というよりも、瑠々華さんが蛇に噛まれたかもしれないと、そちらの方に…怯えている様子だ。
そりゃあ、そうだろうな…。ヒロインの隠し持っていた蛇は、毒蛇の可能性が…考えられるからだ。噛みつく蛇=毒蛇とは…安易に言えないのだが、その可能性もあり俺達は、ヒロインを…問い詰めたのである。
「お前が持ってきた蛇は、毒蛇…なのか?…もしそうならば、一刻も早く解毒が必要だっ!…このままだと、斎野宮さんの命が…危ないんだぞっ!」
右堂君が悪女に向けて、斎野宮先輩の命が危ないかもしれない…と告げれば、漸くぼんやりとしていた顔が、恐怖の顔に染まって行き…。漸く…口を開いて、本音を語ったのである。
「……違う。樹さんに…危害を加えるつもりなんて、なかったのよっ!…私は、あの女がちょっとだけ、苦しめば良いと思って、家で飼ってるペットの蛇を、持って来ただけよっ!…毒なんてないっ!…それなのに、どうして……。」
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家で飼っているペットの蛇で、毒蛇でもない…と悪女が告げれば、この場にいる全員から、一気に緊張モードが抜ける。悪女が本音を語っているとは限らず、蛇のことをよく知らない可能性もあった。取り敢えず落ち着いた斎野宮先輩から、離れた教授が蛇を観察すると…。
「大丈夫ですね。この蛇は、単なる観賞用ですよ。毒もありません。但し、蛇に噛まれた斎野宮くんは、きちんと医師に治療を受けるように。毒はなくとも、何か善からぬ黴菌が原因で、死亡する例も稀に見られますからね。」
「分かりました、羽生崎教授。今から…医師を呼びます。」
「でしたら、私が診ましょう。こう見えても私、開業医の医師なんです。」
「ああ、そうだった。忘れていたよ…。斎野宮くん、そうするといい。彼女の腕は確かだ。私が…保障しよう。」
驚きの連続だな…。羽生崎教授が蛇について詳しく、正直言って助かる。篠里先輩が医師を呼ぶと言うと、教授の婚約者さんが女医さんで、診てもらえることになった。彼女は往診用の道具を持ち歩いていて、すぐさま斎野宮先輩の診察を始めて、テキパキと治療して行く。女医さんは瑠々華さんも診てくれて、単に気を失っただけ…と分かり。…ふう~。これで、一安心だな…。
その後、斎野宮先輩と篠里先輩が手配した警察官に、悪女は連行されて行くことになった。彼女は完全に気が抜けたようで、殆ど抵抗せずに、しかし…最後までチラチラと斎野宮先輩に目線を送り…。彼が完全に、無視しているのに。
その後は全員で、斎野宮家に移動することになった。但し、教授と女医さんはこの場でお別れとなる。お2人は、数日後に結婚式を迎える為、忙しいところを協力してくれたらしくて。俺達はお礼を伝え、教授達と別れたのであった。
斎野宮家に到着して暫くして、漸く…瑠々華さんが、目覚めたようだ。斎野宮先輩は先程までとは打って変わり、デレデレとした様子を見せる。これは…何かあったな、と気付くレベルのご機嫌ぶりである。瑠々華さんのあの蛇の時の様子でも、そうなんだろうな…と、気付いたけれど。如何やら、漸く…彼女も、自覚したみたいだな。瑠々華さん、お幸せに…。
瑠々華さんが目覚めた後は、女性陣は瑠々華さんの自宅にお泊りすることとなり、俺達男性陣は、斎野宮先輩の家に泊まることとなった。何故ならば、悪女の処遇を俺達攻略対象達で、決める為でもある。最終的には、先輩達が圧力を掛けるらしいが、一応は俺達の意見も、重視してくれることとなる。
俺以外の攻略対象は、自分の彼女にこれ以上の被害がでなければ、という当然の意見である。俺としては特定の彼女がいない為、瑠々華さんが大丈夫の範囲ならば、それで良い…と思っている。問題は、瑠々華さんの婚約者である、斉野宮先輩であろうな…。彼は悪女に対して、かなりの御立腹の様子であったから、出来る限りは彼女の前に出て来れないように、したいだろうなあ…。つまり、一生出て来ないように、したいのだろう。当然と言えば、当然だろうな…。
最後は先輩達に一任することで、全員の意見が一致した。あの取り乱した彼を見ている為、誰も反対出来ないよな…。俺はその夜、右堂君と矢倉君の3人で話すうちに、2人とは仲良くなった。矢倉君は、乙女ゲームの内容を詳細に知っており、彼は面白おかしく説明してくれた。お陰で、更に詳しい内容を知った。何と言うか…ゲームとは思えない、壮絶な内容だったよ……。
右堂君も呆れながら聞いていたが、幼馴染の役柄を詳細に知らされ、複雑な心境になったようだ。「あの時の英里は、そういうつもりだったのか…。」と、時折妙に納得して呟いていたな。俺のルートでの…瑠々華さんの待遇を聞いた時は、俺も頭を抱えたくなったよ。…ハハハッ。(※乾いた笑い)
俺は翌日の朝早く、斉野宮家を後にした。悪女の処罰が、孤島の監獄への収容に決まったと、昨夜休む前に篠里先輩から聞いていた。その前に悪女には、どうしても確認したい事、伝えたい事が…出来たから。2人っきりで面会し、どうしても…訊き出したかった。あんなにも…乙女ゲームの内容に、拘っていた理由を…。
また…何よりも偽りのない、悪女の本心を確かめる、最後の機会だと思っていた。何故だか彼女は、最後の最後まで…瑠々華さんを、目の敵にしていたように、俺には見えたのだ。そうでなければあの時、彼女だけを狙う理由が…全く分からない。つまり俺は、瑠々華さんだけに拘っていた、悪女の本心を聞き出したかったのだ。
瑠々華さんの為に、俺が最後に出来る事だと、思ったから…。そして、俺自身も…この恋心を、乗り越えて行く為にも……。
隠しキャラこと、光条君視点です。今回から『後日譚』の話も混じってきます。今回は、隠しキャラから見た裏話となります。実際の内容は、前半は前日譚に入る部分で、後日譚の内容は後半からですが、メインが後半である為に、副タイトルは『後日譚1』と致しました。
思いの外…長くなりましたので、更に次回の『後日譚2』に続きます。
※何か所かに、要注意な言動が見られます。ご気分の悪くなられた人には、申し訳ありません…。ヒロインを断罪する必要があり、結果的にこうなりました。




