前日譚5 俺の幼馴染は目が離せない
今回は、聖武視点での過去のお話で、瑠々華達と知り合う前となります。
『前日譚3』と対になるお話です。
俺の幼馴染は時折だけど、物心ついた頃からおかしなことばかりを話していた。この世界に存在しない物について話したり、俺の知らない事実を知っていたりと、おかしな言動ばかりが…目に付いた。
俺も幼馴染も幼なかったから、まさかの彼女が転生者であり、前世の記憶が混じっているとは、まだ知らない。それでも…幼馴染の美和には「そういうことは、他の奴らには絶対に言うなよ。」と、俺はよく注意していた。そのくらい、俺は彼女を『目の離せない奴』として、心配していたのだと思う。
だが、彼女は…大きくなるにつれ、徐々に…自分が何者なのかが、理解出来て来るようになると、自分はパラレルワールドの転生者だと、嬉々として…俺に語るのであった。おい…。そういう事情は普通、誰にも内緒にするんじゃないのかよ…。
「普通ならは、自分が転生者だという事実は、必死で隠すだろうが…。いくら俺が以前から知っているからって、そういうことは気軽に話すなよ…。」
前世の世界と今の世界は、ここが違っているとか、あれは全く同じだとか、色々と微妙な細かい事情まで…語ってくるのだ、俺に。何で、俺にそういう事情を話すんだよ…。心底…呆れていたら、彼女は「テヘへッ…。」と笑って、テヘペロという動作をしたのである。…はあ~。これは、よく分かってないよなあ…。
俺の中での彼女の存在は、『目の離せない奴』から『片時も目が離せない幼馴染』へと、変わって行く。小学生となってからは男女別の所為で、どうしても離れ離れでいる時以外は、俺は何時も彼女の傍に寄り添っていた。お陰で稀に、質の悪い揶揄いも生じていたが、俺は一向に気にしていない。彼女は呑気な性格だから、全く気付いてもいないだろうな…。
ある日突然、彼女は更におかしな話をして来た。彼女は、俺が他所の地区へ転校する…という記憶を思い出した、と話すのである。「何故?」と問えば、前世で遊んだ乙女ゲームの情報だから…と、言って来たのだ。…はあ?……何だって?
「……はあ?……今度は、此処が…乙女ゲームの世界、だって?…まさか、自分の幼馴染が、乙女ゲームだとか…言い出すとは、思いも寄らなかったよな…。」
俺がそう言うと、「自分が悪役令嬢でなければ、傍観してるのに…。」と、彼女が呟いたのだ。おいおい…。何だよ、その物騒な言葉の響きは…。普通は、主人公とか脇役とか…だろうに。本当に…悪役令嬢なのか?
「うん。私、悪役令嬢キャラだよ。小父さんの転勤で 聖ちゃんも転校した後、私は強引に会いに行っては、聖ちゃんとヒロインの逢瀬を邪魔する役で…。聖ちゃんはヒロインの攻略対象で、私は…聖ちゃんルートの悪役令嬢なんだから。」
「……はあ?!……ちょっと待て!…情報量が多過ぎて混乱して来たから、1つ1つ整理するぞ。…先ず、俺が転校するとは、どういうことだよ?…俺、転校する予定は全く…ないぞ。」
彼女が乙女ゲームだと語った直後は、夢でも見たのかと、俺も呆れていたのだが、流石に…彼女が悪役令嬢だと聞くと、冗談では済ませられない。彼女から聞けば聞く程、俺は…混乱していた。今一番訊きたい話は、俺の転校についてだ。俺の父親が転勤するとは、初耳である。前世の記憶の…乙女ゲームの情報なのか?…親父が帰ってきたら、一応確認してみるか…。
次に気になるのは、俺が攻略対象ということだ。俺がヒロインと恋愛する…と言うのか?…確かにこの世界にも、乙女ゲームは存在するが…。俺も彼女もまだ子供であり、そういう類は遊んだことはない。
「うん、そうだよ。攻略対象は何人かいるけど、ヒロインが聖ちゃんを選べば、そうなるよ…。それに、聖ちゃんの引っ越し先が、ヒロインのお隣の家なんだよ。ヒロインとは、幼馴染の関係から始まるのよ。」
…俺の幼馴染は、美和乃、お前だろ…。引っ越す以前から、ゲームのヒロインと幼馴染だとか、言われてもなあ…。今一、ピンと来ない。最後に俺は、俺ルートの悪役令嬢が美和乃だということに、どういう意味があるのか、と訊くと…。
「それはね…。ヒロインが聖ちゃんルートを選ぶと、私はライバルとして登場するんだけど、聖ちゃんを奪っていくヒロインを、私が邪魔したり虐めたりする役なんだよね。それも…卑怯な手を使うから、悪役令嬢なんだよね…。」
「………。」
俺の問いに対して、彼女は出来るだけ、分かりやすく説明してくれたみたいだが。俺は、死んだ魚のような目に…なっていた。…はあ~。これが…乙女ゲームだと言うのか?…唯のゲームなんだよな?…現実には有り得ない…よなあ?
****************************
俺は、乙女ゲームについての情報を、美和から詳しく聞いた。よしっ!…内容は覚えたぞ。後は…色々と確かめるだけだ。俺は早速、親父に転勤のことを問い質すと、意外な答えが返って来た。今度、転勤する予定の人がいるらしいのだが、その人の家族が少々問題を抱えており、このままでは…俺の父親が、転勤をする可能性もあるようだ。不味い…。これは、乙女ゲームの強制力が働いている!?…そう思わざるを得なかった。
その後の俺は、頑張ったよ…。親父から転勤先の情報を手に入れ、色々と自分でも調べては、親父に相談して…。問題を1つ1つ解決して。自分でも、良い仕事をしたなあ。ハッキリ言って、このまま美和乃を放って置いて、俺だけ…転校なんて出来ないだろ…。親父の転勤の話が無くなり、心の底からホッとした…。
美和は絶対に、何か勘違いしていそうだけど、こうなったら…俺が守るしかない。俺で…良いのかな。そう思うことも屡々あったけど、今は俺しかいないんだから、俺が堂々と守れば良いよな?
それに俺は…ヒロインには、全く興味がない。美和は、俺とヒロインをくっつけたいような、そういう雰囲気が感じられるのだが。ゲームのヒロインが心優しい人物だからと言って、現実もそうとは限らない。それに、美和が…悪役令嬢キャラなんて、絶対に…変だよな?
その後、俺の作戦通りに問題が解決した家族は、予定通り転勤して行った。俺の転校が無くなり、これで良かったのかと、自問自答している彼女は。ヒロインと俺の出逢いも無くなったのだと、気にしているようで。…馬鹿だよなあ。俺が自分で選んだ、というのに…。
美和は当初気付いていなかったが、俺と出逢わなくとも、ヒロインには他に5人攻略対象が存在するようだ。だから、態々…俺が転校してまで、更にお金持ち大学まで行く必要は、皆無なのである。乙女ゲームでも、誰か1人としか恋愛出来なかったようだし。ハーレムエンドは出来ないと、美和が言ったくせに…。
こういう時に記憶力が良いと、助かるよなあ。正直に言って、俺は…選ばれるよりも、自分で誰かを選びたい。ただ単に待っているよりも、待つ方が…性に合っているんだよ、俺は。ヒロインを選ぶくらいならば、俺は…今の幼馴染の美和を、選びたい。いつの間にか…彼女は、俺の中では存在が大きくなり過ぎて、『片時も目が離せない幼馴染』から更に、『片時も目を離したくない女子』に変わっていたようだよ…。…はあ~。ヘンテコな奴を…好きになったな、俺…。
俺達も高3になり、大学を受験する為に何処を受験するか、選択する頃になって、美和はまた…何かを思い出したようだ。彼女は、独り言を言ったり挙動不審になったりするから、直ぐに分かるんだよなあ…。独り言でブツブツ話すから、大体は…理解出来るんだよ。だけど…受験終了までは、気付かない振りをしようかな…。
あの後も、美和乃との関係は全く変わってない。彼女は相変わらず、俺には何でも話してくれる。彼女にとって俺は、唯の幼馴染だからだろう。俺は彼女と同じ大学を受験して、大学に合格したならば、彼女に告白するつもりだ。大学生活は恋人として、彼女と…イチャイチャしたいのだ。
「美和。無事に大学生となれたし、俺達…付き合おう。」
…うっ、緊張する…。2人共、大学に無事合格したので、俺は…彼女に告白したのだが、彼女は目を見開いて、完全に固まっていた。無意識に…独り言を呟いて…。
「聖ちゃんが…私と付き合うの?……何で?」
「そんなのは…決まってる。俺は…美和乃が好きだ。美和は…俺のことを、どう思っているんだ?」
「……へっ?!…どうって…好きだけど……。」
「んじゃ、相思相愛ということで、付き合うのが当たり前だよな。」
如何やら、彼女は…自覚していなかったみたいだな。こうなったら、無理押ししてでも、彼女に認めさせようか…と。だから、少々強引に…付き合う理由を述べて。そうしてその日から、付き合うようになった俺達は。あんまり…以前と、変わっていないんだけどな…。
他の悪役令嬢達が、美和乃に接触して来るまでは、普通に平和だったのになあ…。唯、現実のヒロインの正体が先に知れて、良かったとは思っている。やっぱりヒロインは俺の思った通り、ロクでもない人物だったな。そう思った矢先、本当にヒロインと遭遇してしまい…。
…ああ、ヒロイン…性格悪過ぎだな…。何も知らない癖に、美和乃達を悪く言うなんて、お前は…ヒロインじゃなくて、悪役令嬢だろ…。他の攻略対象の男性陣も、何故か…全員が集まっているし、急遽…ヒロインを糾弾をすることになったし…。全く反省しないこの女は、一体何を見て何を考えているのやら…。反吐が出る。
ヒロインは、瑠々華さんに害意を加えようとして、警察に逮捕されることになり。他の攻略対象達の話では、彼女の罪は厳しくなるらしい。特に、瑠々華さんの婚約者である斎野宮さんが、圧力を掛けたようだ。…ふう~。絶対に…怒らせてはいけない人だな、この人は…。
これで…俺達の悪夢は、漸く全て終了した。美和にも、俺以外に何でも話せる友人が出来たし、良かったな…。
美和乃を意識し始めた切っ掛けが、含まれたお話となりました。
初めての聖武視点でしたが、何となく彼の方が、生真面目な感じになったかも…。付き合いが長い所為もあり、唯一の健全カップルとなりました…。彼は…今後も、苦労しそうですね…。




