第38話 ヒロインの向かう先
34話からの引き続きです。(同一日。)いつも通り、主人公視点となります。
※多少の過激な描写が…見られます。気分が悪くならないよう、ご注意ください。
さて、最後は…矢倉君が立ち上がられます。彼は、ヒロインに向かうより前に、私達の方を向かれてご挨拶されました。
「え~と、今日初めて会う人達も居るので、改めて自己紹介させてもらいます。俺は、『矢倉 聖武』です。そこに居るのは、俺の幼馴染で『霧島 美和乃』で、同じ学年の大学1年生です。俺達は、地元の大学の成井沢大に、入学しています。美和乃から、乙女ゲームの話を以前から聞いていたので、俺は父が転勤しないように手を回し、美和乃と協力してゲーム事情からは…遠ざかっていました。最近になり、他の悪役令嬢という女性達から、美和乃に連絡があり、俺も…詳しい事情を聞いたこともあり、ヒロインに出会わないよう協力してもらおう…と、今回連絡したのに…。皆さんに、ご迷惑を掛けたみたいです…。すみませんでしたっ!」
矢倉君は優等生らしく、綺麗なお辞儀を披露されました。矢倉君が悪い訳ではないのに…と、発言しようかと思った矢先に、美和乃さんも飛び出されて行かれて。
「聖ちゃんだけが、悪くないです!…聖ちゃんが悪いのなら、私も悪いんです!だから、私も謝ります!……ごめんなさいっ!!」
「……いや、頭を…上げてくれ……。君達が悪い訳ではないのは、俺も…ここに居る全員が分かっているから、大丈夫だよ。それより、これを機会に、女性陣だけでなく…俺達男性陣も、仲間に入れてほしいかな?」
美和乃さんは勢いよく、お辞儀をされますと、流石に…ヒロイン以外の皆さんは、呆気に取られまして。唯一冷静な態度で、樹さんが代表して対処されましたのよ。当然ですが、この場合…悪いのは、ヒロインですもの。漸く納得されたお2人は、共にヒロインに向き直り…。
「そこの…性悪ヒロインさんっ!…貴方になんて、私は…絶対に、負けませんからねっ!」
「……いや、美和…。君は…大人しく、座って待っていてくれ…。」
…え~と……美和乃さん。何処から突っ込みましたら、宜しいかしら…。唐突に…ヒロインに宣戦布告された、美和乃さん。お花畑のヒロインでさえ…目を大きく見開き、ギョッと…されましたわ。私達も、目がまん丸になりましたわよ。矢倉君もギョッとされた後、彼女を宥めながら席に座らせて。……うん。これは、放っておけない人物ですわね…。彼女、ある意味…私よりも、何をするか分からないタイプですもの…。(※自分のことは棚に上げて…)
「そういう訳で、君とは今まで出会うこともなかったし、当初転勤する一家が、予定通り引っ越したから、俺の父へ転勤の話は出なかった。美和乃とも話し合ったけど、君達の前世のゲームは、この世界の現実を元に、この世界から転生した誰かが、乙女ゲームとして作った可能性が高い。だから、ゲームの元はこちらの世界であり、ゲーム通りにならないのは、当然の事なんだ。」
「…そ、そんな……。嘘よ…そんなの……。ゲームの元になった世界なんて、私は…認めない…。ゲームを元に作られたのが、この世界の筈よ……。」
「…お前、馬鹿なのか?…ゲームの世界が、現実に作られる訳がないだろ?…神様でも存在するならば、別だが…。でもさあ、神様が存在するならば、尚更お前みたいな奴が、主人公の訳がないよな?…主人公は、誰でもいい訳じゃない。正義の味方みたいな真っ直ぐな奴が、選ばれる筈だ。どう見ても…お前じゃない。」
「……酷い…聖武君……。どうして、そんな意地悪を…言うのよ……。どうして…みんな、ゲームと違う態度なの?!」
「馴れ馴れしく、下の名前で呼ばないでくれないか。俺は…幼馴染の美和乃と、付き合っている。誤解される呼び方は、止めてくれ。ゲームとは違い、俺は…俺の意思で動いている。そういうお前も、そうやって動いているだろ?…イベントとか言いながら、無理矢理イベントを起こす時点で、それは…お前の意思の筈だろ…。ゲーム通りというなら、俺が転校していない時点で、ゲームとは相容れない…と、気付けよな…。」
矢倉君は、ヒロインにも説明するような形で、ゲーム通りの展開を、徹底的に避けて来たことを伝えておられますが。ヒロインは、聞く耳を持っておられません…。相変わらず、この世界がゲームの世界なのだと、思っておられるようでした。
岬さんは、矢倉君と同じようなことを、麻衣沙に告げられておられまして、やはり前世にもこちらの世界から、転生者が生まれていたのかもしれない、ということなのでしょうか…。だとすれば、全てが…納得出来ますわねえ。けれども、私達の努力は…無駄だった、ということでしょうね…。…ううっ。ジーザス……。
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「嘘よ、嘘…こんなの…嘘よ……。ヒロインは、私なのよっ!私が…幸せになるのよっ!」
ヒロインは何やら、ブツブツと呟いておられましたが、唐突に立ち上がると、私達の方へ…いえ、私を目指して、突進しようとしたのです。ポケットに入れていた何かを、隠し持って。それは…誰にも、想像が出来ずにいたことであり、あっという間の出来事でして……。
…もう、ダメかもっ!…そう思って、ヒロインが迫る恐怖に、ぎゅっと目を強く…瞑って。温かな何かが…私を包み込んだ瞬間に、「…うっ!………。」と耳元で、誰かの呻く声が聞こえて来て…。……えっ?…この声は…樹さん?……まさか…。
私はハッとして目を開けて、私を包み込んだ人物を確認して、言葉が出なくなりましたわ。私を抱き込んだのは、やはり…樹さんでした…。樹さんの顔を見ようとして、彼の肩にいる存在に…気付きましたのよ。彼の肩に噛みついていた…それは、小型の蛇でしたわ…。蛇は私の視線を感じたのか、噛みつくのを止めて、私の方を向いて来まして。蛇の口がしゃあ~という感じで、開いたのを見た途端、私の意識は…遠ざかって行くのでした……。
次に…気が付いた時には、私はベットの上でしたわ。見覚えのない筈なのに、何処か懐かしいような気が致します…。私はゆっくりと起き上がり、ハッと致しましたのよ。身体が…小さくなっている?…私の身体は、子供サイズに…なっておりましたわ。どういうこと!?…私がプチパニックに陥っておりますと、部屋の扉が開いて、そおっと入って来た人物と、目が合いましたのよ。私と目が合った途端に、慌てて駆け寄って来られます。
「目が覚めたのかっ!…まだ…起き上がっては、駄目だっ!」
そう仰っては、小さな体で…私を、ベットに押し込もうとされるのですわ。私と、同じくらいの小さな体で。……あっ、これ…小さい頃の…樹さんですわね……。懐かしい……。
「風邪をひいて熱があるなんて、知らなかったんだよ…。知っていたら、追いかけたりなんて、しなかったのに……。ルルも熱があるんだったら、今日ぐらいは…逃げなくても…良かったのに…。」
「…えっ?…私、お熱があったの?…なあんだあ~。追いつかれちゃったのかと思って、ショックだったのに。お熱のせいで…早く走れなかっただけなんだ~。」
……えっ?…私の意思に関係なく、私…喋っておりますわ……。そう言えば、身体も…反応しないです…。今の私は、体の中に入っても見ているだけ…のようです。これは……夢なの?……私の過去の…夢?
「ルルは、熱があることに…気付いていなかったの?……そうなんだ…。ルルはどうして、僕から…逃げようとするの?…僕もルルが逃げなければ、追い掛けないのに……。」
「だってえ、樹さんを見ちゃうと、体が勝手に動いちゃうんですの!樹さんはねえ、将来…私に酷いことをしちゃうの!だからね、怖くて…逃げちゃいますの。」
「………将来?…僕が…ルルに?…酷いことを…するの?…どうして、そう思うの、ルルは?」
「…え~とね、それはねえ、麻衣沙ちゃんとの約束だから、これ以上はお話出来ないの。私ねえ、樹さんと仲良くすると、死んじゃうこともあるんだって~。だからねえ、仲良くしたくないんだよ、本当は。…あっ、でもね…。1つだけ、私が助かる方法があるんだよ~。それはねえ、『こんやくはき』すればいいんだって、麻衣沙ちゃんが言ってましたのよ。」
「………。ルルが…死んじゃう?……僕と仲良くすると…?……『婚約破棄』…すると?……ルルが…助かるの?」
「うん!でもね、『こんやく』はダメなんだよ。『こんやくはき』しないと。」
「………。」
目の前の樹少年は、とても悲しそうなお顔を、今にも…泣きそうなお顔を、されておられました…。子供の時って本当に、正直過ぎて…残酷な言葉を、平気で言ってしまうものなのですね…。私は…この頃の私は、乙女ゲームに似た世界に転生したことを、まだ…よく理解していなかったのでしょう…。麻衣沙と約束していたことを考えますと、麻衣沙が理解してくださっていたお陰で、正体がバレなかったのですね…。私、美和乃さんのこと、言っていられませんわねえ…。
美和乃さんは、麻衣沙のような存在が誰もおられなくて、矢倉君に話してしまったのでしょう。私は…麻衣沙のお陰で、そうならずに済みましたのね…。麻衣沙、ありがとう…。昔から貴方には色々と、ご迷惑をお掛けしておりましたのね…。
私が死ぬかも…というセリフに、樹少年も…お顔が青ざめておりました。少女の中におります私も、同じく。何てセリフを…言っておりますの、私は。仲良くすると死ぬとか、樹少年は…完全に固まっておられますわよ。その上、『婚約破棄』しろとは…。『婚約』してはダメなのに、『婚約破棄』してほしいとか、意味分かりませんわよね…。
もしかして、樹さんは…。婚約破棄する為に、婚約されたのですの?…私の事を…信じてくださったの?…私が…死なないように、と。そうなのですの…?
今回は、途中から夢のお話(?)にチェンジしています。
ヒロインの退場が、間近(?)となりそうです。瑠々華と樹の伏線も、これで回収の目途が立ちました。後もう少しで、全ての問題が解決しそうです。
エンディングまで、あとちょい…続きます。




