第37話 やり直し不可能な現実
34話から…ずっと、引き続いております。(同一日ということです。)
いつも通り、主人公視点となります。
「この世界は、君がよく知る…乙女ゲームでは、ないんだよ。これは、ゲームの世界ではなく、現実の世界なんだよ。俺達は全員、今を生きる人間であり、ゲームのようなやり直しは…不可能なんだ。生きている俺達には、全てが現実でもあり、一度起きた出来事は、取り消すことは出来ない。誰かに死亡ルートが存在するならば、それが現実に起これば、もう二度と…生き返らない。ゲームと違って。」
こう仰ったのは、実は…光城さまなのです。正直言いまして、物凄く…驚きましたわ。光城さまは…乙女ゲームだと、ご存じだったのですね?…ということは、私達と同じく…転生者?…でも…あれっ?…あれれっ?…何となく違和感が…。
麻衣沙も同様に感じられたらしくて、眉を顰めておられます。麻衣沙のことをよく知らない人達は、こういう麻衣沙の表情を、機嫌が悪いと勘違いされておられますが、実は…悩んでおられる時の表情、なのですよね~。今は、私同様、疑問に思われているのでしょうけれど。
ヒロインも、相当に驚かれたご様子でしたわ。口をあんぐりと大きく開かれた状態のまま、ポカンとされておられますもの。乙女ゲームの存在を知らないのは、この場では…右堂さんと羽生崎教授だけですが。右堂さんはヒロイン同様、ポカンとされておられます。羽生崎教授は、お顔の表情はそのまま変わらず…。お会いした先程からずっと、無言のままですわね…。とんだ茶番ですものね…。
「どうして…徳樹さんが……。乙女ゲームのことを…?」
「この場に居る殆どの人物が、ゲームのことは…転生者のことは、知っている。君が…ヒロインの位置に、居ることも。しかし、此処は…ゲームの世界じゃない。自分達が攻略対象だとか言われても、巫山戯るな…と言いたい。君は自分が、乙女ゲームのヒロインだと思っているようだけど、ヒロインという者は、もっと純粋な性格じゃないかな?…君は、性格が悪過ぎると思うよ。自分勝手に話を進め、俺達の話を全く聞かないのに。それでも君はヒロインだと主張するのならば、俺達が嫌がることはしないでほしいなあ。この際…ハッキリ言わせてもらうけれど、攻略対象とされた男性は全員が、君以外の人物に惹かれている。教授はご結婚されるし、斎野宮先輩と篠里先輩には正式な婚約者が居て、右堂君と矢倉君にも彼女が居るんだ。俺は…今のところ居ないけど、君とは…絶対に、無理だな。」
ヒロインが震える声で光城さまに、「どうして…」と問われますと彼は、彼女に現実を突きつけるように、ゆっくりとはっきりとした口調で、語り掛けられました。主に、ヒロインに向けて。矢倉君は面識が無くとも、乙女ゲームのお話を真っ先に聞かれていただけあり、光城さまが誰なのかを理解されたのか、「うんうん。」という感じで頷かれます。右堂さんは「何のこと?」というお顔で、エリちゃんの方を頻りに振り返られておりました。羽生崎教授は、まだ…無言ですね。とんだ茶番にお付き合いいただきまして、申し訳ありません!
「………。ど、どうして…そんな酷いことを、言うの?…みんな、この悪役令嬢達に騙されているのよ!…目を覚まして!…私が必ず助けるわっ!」
「「「「「「………。」」」」」」
…あ~あ。このヒロインを、説得しようとしても…駄目なのかも。ヒロインのセリフで、羽生崎教授まで…怒りを露わにされましたわ。…こ…怖い…。何…この雰囲気は。彼方此方で、冷気が発生しておりますわよ…。羽生崎教授もギュッと眉を顰められて、この中では一番の冷気を漂わせておられます。
「和田くん、君は浪人生だったかな?…君は、堀倉学園付属大には相応しくないな…。君が受験申請しても、堀倉学園では拒否させてもらう。」
「…っ…!…そ、そんな…先生!……酷いっ!」
「一応言っておくが、君は唯の市民であり、堀倉学園の生徒の殆どは、君が手を伸ばしても相手にもされない、そういう身分の生徒達だ。乙女ゲームなどと巫山戯た理屈がなければ、彼らに相手にもされないだろう。それから言っておくが、私の結婚相手は…悪役令嬢ではない。私には昔から前世の記憶があり、そういうものを避けて来た。君が知っている乙女ゲームも、前世で姉が嵌っていて知っていた。敢えて私は、関係のない彼女を選んだのだ。その彼女も、同じ前世の記憶がある。」
…何と!…羽生崎教授も…転生者でしたのね?!…え~と、お隣に座られた婚約者さんも、転生者?…羽生崎教授は、ヒロインや悪役の女性教師には…関わらないよう、避けて来られたのですね?…これにはビックリでしてよ。樹さんも岬さんでさえ、目を点に…されておられますもの…。
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自分が歯牙にも掛けなかった教授が、前世の記憶から自分を避けていた、と聞かされたヒロインは、口元をヒクヒクと痙攣されておられましたわ。相当にショックだったのでしょう…。自分のプライドが、ズタズタに引き裂かれた感じかしら…。
「……私の話を、聞いて!…樹さんと岬さんは、親が決めた婚約者よっ!…彼らは、嫌々…婚約したのよ。相良さんや聖武君も…騙されているのよ。」
「…君は、何を根拠に言っているのかな?…それは、乙女ゲームの情報だよね?残念ながら俺は、自分で婚約を願い出たんだよ。両親は、まだ婚約は早いと思っていたけれど、相手が藤宮家のお嬢さんだと知ると、喜んでOKしてくださったよ。和田さんと婚約するなんて、現実では有り得ない。もしも…君と婚約すれば、藤宮家からも損害賠償が来るだろうし、俺の家は他の企業からも信用を失い、会社は経営破綻するよ。それでも君は、一文無しになった俺を…選ぶかい?」
「……えっ?!…そんなこと…有り得ない…。樹さんから…婚約したなんて…。私との婚約で、樹さんが一文無し…になるなんて……。」
……えっ?……樹さんご本人から、婚約を申し込まれた?…ご両親はまだ早いと、思われていた?…私の頭の中では、彼のセリフだけが…グルグルと回っておりましたわ。ヒロインのセリフなど、この際…どうでも良い程に、樹さんの言葉が嬉しくて…。彼が一文無しになった時、私ならば…どうするのでしょう?…私は………。その時、樹さんと目が合いまして、ドキッと胸が…締め付けられまして。麻衣沙やエリちゃん、そして美和乃さんからは、生温い視線を…感じましたわ…。
「つまり…君は、俺が金持ちだから、付き合いたいと考えている訳だ。その程度だということだね。俺からは、ルルとの婚約を…婚約破棄する気は、一切ないんだよ。端的に言えば、君には全く興味がない。」
「………。」
樹さんが最終通告をされまして、ヒロインのお顔は若干…引き攣られております。次は俺の番だとばかりに、今度は樹さんに代わり岬さんが、一歩前に出られます。今は、他の全員がヒロインと向かい側の席に、ヒロインと向き合うようにして、この場の全員が椅子に座っておりまして。発言のある者は、ヒロインと全員から、お顔が見える位置に立ち、発言されておられました。教授も樹さんも同じく。そして岬さんも同じ位置に立たれ、ヒロインに向かって話し掛けられます。
「確かに、俺と麻衣沙は…政略的な婚約だが、君が思っているようなものでは、決してない。この婚約は、俺の父が強く望んだものだから、乙女ゲームのように君を選べば、破滅するのは…我が篠里家となる。だけど、俺も…自分からは、婚約破棄する気はない。俺は昔から…麻衣沙が好きだったし、彼女に似合う人物になろうと、これまで努力して来たんだ。だから、君を選ぶことは…絶対にないっ!」
「…そんな……岬さんまで……。」
…おおっ!?…岬さん、この場のどさくさに紛れて、堂々と告白されましたわっ!麻衣沙をチラッと伺いますと、彼女のお顔は…完熟リンゴのようですわ。エリちゃんと美和乃さん達は、「きゃあっ!」と喜びの声を上げられ。私も同じ気持ちでしたけれど、一応これでも…ご令嬢ですし、先程の樹さんの衝撃の告白もありましたので、耐えましたわよ…。麻衣沙、良かったですわねっ!
「俺には昔から、幼馴染の英里菜が居て、偶に意味が分からない行動を取るとは思っていた。漸く先程、簡単な話を聞いた。君と会うのは、今日が初めてでは…なかったな?…だが、俺も君のことは、得体がしれない不審者…だと思っていたよ。ゲームでは君がヒロインで、英里菜が悪役令嬢かもしれないが、現実の俺には…英里菜の支えがあるからこそ、今の俺が居る。何が遭ったとしても、それは変わらない。俺には…英里菜だけだ。」
「……相良さんまで、私を…拒否するの……?」
岬さんが座られると同時に、今度は右堂さんが立ち上がられます。あら、いつの間に…お話を聞かれたのかしら?…エリちゃんは同じ女性同士として、私に付きっ切りでしたので、男性陣から…聞かれたのかしら…。彼も、エリちゃんへの告白めいた言葉を口にされ、エリちゃんは…ほんのりと頬を、染めておられましたのよ。…うふふふっ。生真面目で融通が利かないタイプと、彼女から伺っていた通りのお人ですわね。
右堂さんもまた…ヒロインを拒否され、ヒロインには…それが受け入れられないようでしたわね…。彼も、ヒロインの疑問には何も答えられず、無視してサッサと席に戻られましたのよ。まあ…ご返答しても、真面な返しではありませんものね…。
…あれっ?……いつの間にか、ヒロインとの出逢いイベントが、大学外でも起こっておりましたの?…これが、ヒロインの執念なのですか?……怖っ!!
メイン内容は、全主要キャラとヒロインとの闘い…ですね。この回の内容は、筆者的には辛い…。ヒロインが…お花畑すぎて。今後…もっと辛そう…。
教授と右堂くんのセリフ、今回はありました。転生者…意外と多くなったなあ。
エンディングまで、まだちょい…続きます。




