第36話 ゲームキャラが揃った?
前回は番外編でしたので、35話からの続き、となります。
いつも通り、主人公視点となります。副タイトル通り、全主要キャラの登場です。今更ながら、初登場キャラも…おりますよ。
「…お前こそ、何言ってるんだよ!…顔が少しばかり可愛いからって、巫山戯るなよ!…お前とは…今日たった今、知り合ったばかりだろ。俺は、お前のことなんて、全く知らないんだからなっ。唐突に難癖付けるのは、止めろっ!…それに、何が幼馴染だ。俺の幼馴染は、俺の隣に居るコイツだけなんだよ。俺とお前は、知り合いでもない、通りすがりの赤の他人だろっ!」
…おおっ!…矢倉君、ヒロイン全拒否で…言い切りましたね!…しかし、このヒロインは…打たれ強かったのです…。矢倉君のセリフを、自分の都合の良いように、解釈(=変換)されたのですわ。…本当に、いい性格をしておられます……。
「やだあ~~!…聖武君ったら!…私のこと、可愛いだって!…キャハッ!」
「……はあっ?………コイツ、頭…大丈夫か?…俺が褒めたとでも…思っているんだとしたら、馬鹿だろ、コイツ……。いくら顔が可愛くても、性格も悪いみたいだし、最悪だよなあ……。余っ程、美和の方が可愛いだろ。」
「また、またあ~。聖武君ったら、照れちゃってるのね~。…うふふふっ。思ったことと反対のセリフ、言っちゃって。聖武君って、可愛い!」
「「………。」」
馬鹿か、コイツ……。というような心の声が、私には…聞こえて参りましたわ…。当の矢倉君と美和乃さんは…兎も角、この場におられる乙女ゲームと関係の無い、全ての周りの皆さんも、同じ意見をお持ちのことでしょう。思わず私は、自分の周りの人達を見回して。私の行動に気付くお人はおらず、唯々無言で…呆れたという表情で、ヒロインを見つめて。
反対にヒロインは、周りのそういう冷たい視線に、全く気が付かれるご様子がありません。どういう神経を、されていらっしゃるのか…。ここまで…厚顔無恥っぷりですと、こちらが理解に苦しみます…。目の前のヒロインは、クネクネと媚びた視線を彼に向けられ、乙女ゲームのヒロインと同じ顔でも、似ても似つかない人物にしか、見えませんわね…。
…う~ん。今日のヒロインは、今までとは様子が異なり、あのケバさは無くなり、本来の乙女ゲームのヒロインの姿に、戻っておられます…。あのお化粧と衣装は、モテる要素もモテなくなくなるのだと、漸く気が付かれたのかしら?…それでも、自己中の性格は…やはり変わらないみたいで。まあ、ヒロインのあの性格は、前世からのものでしょうし、ヒロインに生まれ変わったことで、余計に天狗になられているのかも…しれません。ヒロインなのに、残念な限りです。
このヒロインの性格では、自分の首を絞めておられるだけですわ。樹さんも岬さんも、冷めた目で彼女を見つめておられますし…。ふと気が付いたのですけれども、私達から離れた場所で同様に、冷ややかな視線でヒロインを見つめておられる、光条さまともう1人、あれは…右堂さんかしら?…右堂さんはエリちゃんに召集されましたけれど、光城さまは…どうして此処に?……まさか、偶然…?
…うん?…彼方に立っておられるのは…もしかしなくても、羽生崎教授ですよね?一応、私達の授業の担当(※乙女ゲームと違い、担任ではありません)なので、お顔はよ~く存じ上げておりますわ。ですので…見間違える筈は、ありませんが…。お隣に立っておられるお人は、羽生崎教授のご結婚相手さん…なのかしら?
…わあっ!…とてもお綺麗で素敵な、大人の女性ですわねえ。…ああいう女性に、憧れますわ…。ヒロインさん、勝ち目は全く…なさそうですよ?
…あれれっ?…この状況は、一体どういうことかしら?……物凄く…嫌な予感が。悪役令嬢と攻略対象のキャラ(※名前の無かったチョイ役キャラは、覗いて)が全員揃ったのでは?…このような偶然…ありますかしら?…いやいや、何となく人為的なものを、感じてしまうのは…私だけ?
麻衣沙の肩をちょんちょんと突き、彼女に目配せ致しますと、彼女も直ぐに気付かれ、微妙な…お顔をされましたわ。エリちゃんも、彼氏である右堂さんの所へと、小走りで駆け寄って行かれます。…おおっ!…ゲームでは冷たい感じの右堂さん、エリちゃんには…緩んだお顔をされまして。乙女ゲームよりも、親しみやすい感じですね~。…ふふふっ。
そのお2人の近くにおられた光城さまと、私の視線が…ばっちりがお合いして…。私が彼の視線を避ける前に、光城さまが此方に、歩み寄って来られる素振りが見られて。…えっ?…どうして此方に来られますの?…樹さんの前では、彼と話したくない、樹さんに誤解されたくない、と思う自分がいて…。
このような居た堪れないような気持ちは、生まれて初めてで。どうして…しまったのかしら?……私は。どうしたら…いいの?
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私の方に向かって来られたる、かと思われた光条さまでしたが、彼は私の前を通り過ぎ、ヒロインの前まで出て行かれると、こう…仰られたのです。私はホッとしたのもつかの間、光条さまの言葉に…目を見張りましたのよ。
「君は、俺を追い掛けていたのに、今日は…他の男に媚びを振って…。俺に気がある素振りを見せていたのは、違っていたのかな?」
「……えっ、徳樹さん?!…違うのよ!…そうじゃなくて……。」
光城さまは先程の冷たい視線ではなく、爽やかな笑顔でヒロインに微笑まれます。ヒロインに、気がある素振りで。…あれっ?…ヒロインとの出逢いイベントでは、光城さまは物凄く嫌っておられる、ご様子でしたのに。いつの間に…好印象になられたのかな?…あれれっ?…先程の視線は?…ヒロインに、冷たい視線を向けられていたのは、何だったの?
驚かれたのは、私だけではなく麻衣沙は勿論、いつの間にか…彼氏と戻って来られた、エリちゃんと右堂さん、そして矢倉君と美和乃さんも…。光城さまを知らない彼らは、趣味が悪いなあ…という表情ですね…。…あららっ?…何故だか、樹さんと岬さんは、驚かれておられませんわね…。
言われた当人であるヒロインも、驚かれおります。まさか、光城さまが此処に来られるとは思わなかった、というお顔で。光城さまどころか、攻略対象が全員揃っておりましてよ。まだヒロインは、気付く余裕がないような。慌てたヒロインは八方美人なのか、矢倉君のことも諦めきれない、という感じが…見て取られますわね。うわっ…。全く一途さがないですわねえ、このお人…。二兎を追う者は一兎をも得ず、という諺を知りませんの?…彼女の場合は、二兎どころか…少なくとも、樹さん・岬さん・光城さま・矢倉君の4人ですからね…。
彼女の本命は、樹さんでした筈…でしょうに。大学に侵入した際に、そう呟いておられたのに。…かと言いましても、今更ながらに…樹さん一筋で行きます、と宣言されても、私も困りますわ。……ん?…んん?…あれれっ?…私が…困る?樹さんを盗られるのが、困りますの…?……どうして?
「兎に角、ここでは…目立ち過ぎているからね。場所を改めて、皆でじっくりと話をしようか?」
「………えっ?!…どうして、樹さんと岬さんが。…えっ?!…あなたは…『教授』?!」
樹さんも、ヒロインの目の前に出て行かれ、場所を変えて皆で話をしようと、ヒロインに話し掛けられますと、ヒロインも漸く私達に気付かれ、本心から驚かれて。彼の仰る…皆との話し合いには、羽生崎教授も…ご参加なさるようですわ。……えっ?!…何が…起きておりますの?
思わず…麻衣沙を見上げますと、彼女も首を横に振られ、エリちゃんは目を丸くされ、彼氏の右堂さんは、不思議そうに私達を見つめ、そして…ヒロインに絡まれたお2人は、キョトンとされましたわ。そうですよね…。樹さん達にバレたことも、今日共に来られることも、知らせておりませんもの…。麻衣沙と私はほぼ同時に、重い溜息を吐きまして。……はあ~、と…。
急遽場所を移し、樹さんが斎野宮家の名を使われ、何処かの有名な料亭と思われる所で、お店の個室を貸し切られます。私や麻衣沙、並びに岬さんは、家庭環境上ではこういう場所を、利用したことはありますわよ。光城さまと羽生崎教授も、どちらかと言いますと、こちら側の人間のようですわね。
エリちゃんと美和乃さんカップルの4名は、居心地悪そうですわね。これは、慣れでもありますのよ。私はずっと、前世の記憶に引き摺られておりますので、未だに市民感覚が抜けておりませんもの。
…ああ。お1人だけ、キョロキョロと興味深げに個室を見渡しては、豪華なお部屋の様子に歓喜したりと、忙しそうにされてます。高級料亭のいう場所に初めてご招待され、嬉しくて仕方がない、というご様子ですわね?…ですが私は…先程から、嫌な気が致しまして…。もしかしなくとも、…断罪の場、なのでは?…今のところは、ヒロインの方が…断罪されるお立場なのでは…。ゴクリ…。まさか、私では…ございませんよね?
大丈夫、大丈夫…。私には、麻衣沙やエリちゃん達という、悪役令嬢のお味方もおりますし、少なくとも…樹さんの親密度は、私の方が優位だと…思われますのよ。それでも私は、顔が青くなっていくのを止められず…。何とか…震えるのは、我慢出来ましたけれど。……怖い。
私の様子に気付かれた麻衣沙が、私の手をしっかりと握ってくださり、エリちゃんもにっこりと笑顔を向けられ、私の手を包み込むように握り。私は漸く、ヒロインと対峙しよう…という気に、なれましたわ…。
「和田さん、だったかな。この世界は、君がよく知っている、乙女ゲームでは…ないんだよ。これは、現実の世界なんだよ。俺達は全員、今を生きている人間であり、ゲームのようなやり直しは…不可能なんだ。」
ヒロイン再登場で、攻略対象が無事、全員招集(?)されました。
今までセリフも無く、真面な登場も無かった教授も、参加しています。未だ…セリフもありませんが…。もう1人、エリちゃんの恋人・右堂くんが初登場しました。次回は2人共、セリフ有りの予定です。
ここからはラストスパートですので、最後まで一気に進めたいと思います。




