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婚約破棄する期間は、もう既に締め切りました!  作者: 無乃海
【後半】 物語は佳境に入ります…編
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閑話2 ヒロインと遭遇した俺は

 今回は、閑話としての番外編とし、とある人物の視点となります。


あのケバいヒロインが、久しぶりに登場します。


※前回から、ラストスパートに入りました。今回は、本編完結前の最後の番外編となり、タイトルも閑話としています。前回の続きを期待されていたら、次回に持ち越しで申し訳ありません。また、前回の分で訂正箇所がありましたので、訂正もさせていただきました。

 夏休みに入ってから、全く彼女に会えないのは、正直言って…魂が抜けたような気さえ、している。彼女に初めて会ってから、俺は充実した毎日を過ごしていたんだろう。彼女の怒る姿が可愛くて、ついつい…楽しくて、揶揄ってしまっている。お陰で彼女には、警戒されているというのに。


しかし、この長い夏季休暇に入ってから、全く彼女に会う手段もなく、自分でも…何も手が付かないくらい、戸惑っていた。暇があれば、彼女の顔を思い浮かべてしまい、彼女の声をも…思い出してしまって。


夏休み中は会えないのだと、思えば思う程…憂鬱となり、何とか彼女との接点を作ろうと、彼女の周辺を調べさせれば、彼女は…とあるタンススクールに通っているようだ。それならば、俺が通ってもおかしくないだろうと、早速彼女が通うスクールに入会して。事前にダンス講師に話を通せば、彼女とペアを組むことに、すんなりと成功した。彼女の婚約者が通っていないのは、ラッキーであった。


あんなにも彼女に執着している婚約者が、此処(ここ)に通っていないのは、不思議だな。彼ならば、彼女と踊っているダンス教師にも、嫉妬しそうだというのに。


何度か教室に通い、彼女と一緒に踊るうちに、漸くその理由が分かったよ。彼女が婚約者を、避けている節があるのだ。その上、彼女は自分の婚約者が、自分と()()()()()()()()()が、理解出来ていない様子である。政略結婚として選ばれた婚約なのだと、本気で思っているようだった。そんな馬鹿な…。あれだけ、彼が真剣に…口説いているというのに。


彼の本気が…まるっきり、彼女には伝わっていなくて。いや……鈍過にぶすぎるだろ…。そこに付け込む形で、俺は彼女に近づくのだが、彼女は全くもって、俺の本心にも気付かない。…う~む。これは、ただ単に…鈍いというだけでも、ないようだな…。他にも…理由が有りそうだ。彼女は…何か理由があって、婚約者とも俺とも、()()()()()()()()()()()ように、俺は感じ取っていた。


そんなある日、俺がダンススクールに顔を出すと、ダンス講師が慌てた素振りをしていた。何だろうと思ってダンスホールに入って行くと、彼女は他の誰かと踊っていて、それが誰かは…直ぐに判明した。彼女の許嫁である。ここには顔を出さないと思っていたのに、油断していたな…。彼は入って来た俺に、直ぐに気付いたようである。案の定、物凄く睨まれた。やはりな…。俺が此処に通っている理由が、彼には感付かれているのだろう。俺は…牽制されているのだなあ。やはり、そう思われても、仕方がないだろうなあ、と。


彼女に近づいたのは、単なる興味本位である。しかし、今の自分は…明らかに、彼女に惹かれているところもある。自分でもよく分かっていなかったが、彼女と一緒にいると退屈しない。彼女は表情がコロコロ変わるし、顔に直ぐ出てしまうタイブだからか、嘘が付けないようだった。本当に分かりやすい人物である。


だから俺も、自分に正直な気持ちになれるし、彼女を見ていると心が和んでくる。それは婚約者も同じようで、彼女と踊っている彼は、心の底から楽しそうに笑っていた。大学では、見せかけの笑顔でしか微笑まないくせに…。女性に囲まれていても、表面上の優しさしか見せないというのに。自分の婚約者には、本心から…彼の素を出して、蕩けそうな笑顔を見せたり、心配りもしているのに。簡単に言ってしまえば、自分の婚約者と他の女性の前では、待遇が全く異なっている訳で。


それに対し彼女は、踊るのが楽しいという雰囲気で、俺に気が付いた瞬間、表情を固まらせて完全に引き攣っていた。あれは単に、婚約者と俺とを引き合わせたくなかった、という表情だよなあ…。二股だと思われたらどうしようとか、浮気していると思られたらどうしようとか、彼女に限り…そういう思いでは、ないようで…。まあ、そうだろうな。彼女にとっては、()()()()()()()()()()ようだし、婚約者の彼を優先した、というだけだろうし。


兎に角、そういう疚しい気持ちもなく、恋愛に鈍い彼女だったが、婚約者の機嫌の悪さ加減は…理解出来るようだな。彼の腹黒い部分に、恐れている様子は見られるが…。彼の言動の意味は、分かっていないんだろうなあ。その日は、彼女は婚約者の機嫌を取る形で、俺には見向きもせず帰って行った。何となく…俺も面白くはないけれど、正式な婚約者のいる彼女に、ちょっかいを掛けている時点で、俺に…勝ち目はなく。


仕方なく、俺は黙って見送っていた。彼女の婚約者が…勝ち誇ったような、俺に嫌な笑みを向けて来たが、俺は…気にしない風を装って。






    ****************************






 「光条徳樹(こうじょうのりき)さんですよね?…やっぱり、居たんですね〜。私、和田鮎莉(あゆり)と言います。私のこと、覚えて置いてくださいね?」

 「………。(はあっ?!…何で俺が…覚える必要があるんだ?)」


ある日、俺はどうしても外せない用事が出来て、今は街の方へと出掛ければ、前方から現れたケバケバしい容姿の女性に、絡まれてしまう。…あれっ?…この女は、俺達の大学に侵入した浪人生だったよな。何で…この女、俺のフルネームを知っているんだ?……()()()()()()()()()()、ストーカーか何かか…。どうして俺の名前を知っているのか、問い質したいところではあるが、この女には常識が通じないことは、以前の斎野宮先輩達との会話で理解した。だから、俺はこの女を、完全無視することにしたのだが…。


 「うふっ。こんな所で出会えるなんて、徳樹さんと運命を感じますね?」

 「………。(初めて会った君と、運命なんて…感じる訳がないだろ!)」

 「現実の徳樹さんって、意外と…口下手なんですね~。」

 「………。(喋ってもいないのに、口下手ってなんだよ…。)」

 「それとも…恥ずかし屋さんなんですかあ?…私は、そういう徳樹さんも、結構好き。やだ~恥ずかしい。…きゃっ!…到頭、言っちゃったっ!」

 「………。(…はあ?!…今、初めて会ったばかりだろ?…俺の何を知っているつもりだ?…好きって…なんだよ。馬鹿なのか?)」

 「今から、どこに行くんですかあ?…私も一緒に行っても、いいですよね?」

 「………。(…はあ?!…俺は今から、用事があるんだよ!…本当についてくる気なのか?…抑々、俺が許可していないのに…。)」


この調子でこの女は、ずっと俺の後をついて来たのだ。俺が早歩きしても、小走りしても付いてくる。仕方がないので、走って逃げることにした俺は。この女はそれでも付いて来ようとし、何とか建物に入る寸前で、撒くことが出来たのである。


俺はこの歳で起業しており、月に1度は仕事で、街に来ているのだ。要するに今日は、自分の仕事をしに此処に来ていた。ついて来られては困るんだよ。仕事中は熱中していた為、俺は暫くの間、あの女のことを忘れていたのだが、仕事を終えて建物から出て暫く歩いた頃、「やっと、会えました~。」と、再びあの女が現れた時には。俺はお化けでも見たように、顔を引き攣らせ…。幽霊より、怖いわ…。


その後も…俺は、この女を無視し続けたのだが、鋼の心臓を持つ女は、絶対に諦めようとしなくて。…いや、本当に参るよ…。いい加減にしてくれないだろうか…。俺が行く所行く所に、ついて来られても困るんだが。


 「もう!…徳樹さんが急に走っちゃうから、私も付いて行くのが、大変だったんだよおっ!…折角、おニューの靴を履いて来たのに、マメができそうだよ~。」

 「………。(勝手について来て置いて、何言っているんだよ!…俺が何時(いつ)付いて来いと、頼んだ?…勝手にマメでも出来てろよっ!)」

 「徳樹さんは、どこに行ってたの?…私、あちこち…探しちゃったよお~。徳樹さんの意地悪~。…私、寂しかったんだよお~。」

 「………。(勝手について来た奴に、許可を取る筈がないだろっ!…それよりも意地悪って、何なんだよ…。寂しいって、今日会ったばかりの人物に言われても、気味が悪い…。)」

 「今後は何も言わずに、消えないでよお~。私、凄く心配したんだから~。」

 「………。(いや、赤の他人のお前に、心配してもらう必要は…ないな…。)」


こういう一方的な会話が、延々と続いていた。先程までは丁寧語だったのに、今は()()()()()()()()()調()である。俺も流石に疲弊して、心の中での突っ込みでさえ、切れそうになって来た。俺が今話し掛けるならば、乱暴な口調で怒鳴る可能性が高く、仕方なく…我慢していたのだが。もう…我慢の限界であり、ブチ切れても良いだろうか…。こういう異性は、苦手というより嫌悪している、俺。無視さえ(つら)くなるのは、仕方のないことだろう。


俺は…とある人物に、スマホからメールで連絡を取った。とある人物とは、俺の家と契約している、警備会社の人間である。俺の家では、斎野宮家や藤野花家のように、日頃から専属護衛を雇ってはいない為、今日は誰も護衛が居ない状態だった。小学部からの堀倉学園の生徒は、通学時に専属護衛をつけているが、俺の家はそれ程の大企業ではないので、何かある時だけ契約する程度である。契約上…非常事態として呼ぶことも可能な為、俺に()()()()()()()()という(てい)で、呼ぶことにする。


そうして、ものの10分ほどで到着した彼らは、直ぐに俺を保護した後、俺に話し掛けていた女を排除した。「…えっ?…何なの、あんた達?!」と叫んでいるのが聞こえても、俺は構わず…迎えに来た車に、乗り込んで。その時になって漸く、あの女を振り返って、叫ぶようにして話し掛け。


 「…君は、お洒落のつもりだろうが、その姿は…ケバ過ぎるだけ…だ。」

 「…えっ?!………。」


…ふんっ!…最後に、言ってやって…すっきりしたな。…ああ、彼女に会いたい。彼女は俺の愚痴を、黙って聞いてくれるだろうか…。付き纏ったのが彼女ならば、俺は…大喜びで、街の案内でも何でも…しただろうに。


 今回は、隠しキャラの徳樹視点で、ヒロインとの出逢いイベントのお話です。


徳樹とヒロインの出逢いイベントは、乙女ゲームでも大学外で…となっており、現実でも同じく大学外で出会います。しかし、乙女ゲームでは一目惚れとなる出来事も、これでは…不審者となりますよね…。現実は、そう甘くないということで…。

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