第34話 攻略対象との関係は…
夏休み真っ最中頃のお話と、なります。
いつも通り、主人公視点となります。
漸く麻衣沙から、岬さんに全てをお話されたとお聞きしまして、私も同様に、樹さんにバレてしまいましたことを、お伝えすることが出来ましたわ。
「そうでしたのね。ルルも…樹さんに、バレてしまいましたのね…。わたくしも同様ですけれども。何か隠しているならば力になりたい…とか、これからは本気でアプローチする…とか、岬さんが仰られて、メール攻撃が始まりましたのよ。」
…まあっ!…岬さんって、案外と大胆なお人だったのですね?…ゲームでの岬さんは、どちらかと言いますと、積極的ではなかったようでしたわ。受け身の体制が多かったような…。そう言いましたら、ゲームの岬さんって、腹黒なお人でしたわよね…。ヒロインから告白されたりと、受け身ではありましたけれど、色々と裏から手を回して、ライバルを蹴散らしていたような…。まあ、どちらにしても、現実の岬さんとは真逆に近いでしょうね。
岬さんとは逆に樹さんは、ゲームでも積極的でしたけど、現実は…もっと積極的に感じるのですが…。まあ…口説かれている訳ではないし、そう思うだけですけれどね…。私に対してそうならば、ヒロインの立場になれば、もっとそう感じるのかもしれませんね…。
しかし、麻衣沙まで攻略対象と……となりますと、残りは…私だけなんですよね。何か…置いて行かれた気分ですわ…。私も誰かと、恋愛してみたい気は致しますけれど、まだ…恋愛することが、ちょっぴり怖いのですよね、本当は…。
夏休みも中盤となり、美和乃さんと彼氏でもある矢倉君が、こちらの街に出て来られると、ご連絡がありました。それでは…と、私達女性4人プラス矢倉君で、ご一緒に出掛ける約束をしたのですのよ。外出しようと支度をしておりますと、「お嬢様。樹さまが…お迎えに来られましたが…。」と、うちの使用人達も…少々慌てておりました。
…えっ?…樹さんが…こんな早朝から、何で?!…そう疑問に思いながらも、着替えを致します。支度が出来次第に客間に急ぎますと、樹さんは既に我が家で、寛がれておられました。………え~と、樹さんって、案外…お暇なの?
「ルル、聞いたよ。今日は、例のゲームの交流者達と、一緒に出掛けるんだってね?…事情を知っている俺に、声を掛けてくれないなんて。酷いよ……ルル。岬でさえ、麻衣沙嬢から相談されて、知っていたというのに…。」
「………。」
麻衣沙が、岬さんにご相談されたのですの?…知りませんでしたわ。では、岬さんから、お聞きになられたのですね?…確かにそれでは、私…樹さんに、失礼な態度を取っておりましたのね?……もう…隠す必要も、ありませんが…。
「申し訳ありませんでしたわ、樹さん。私…気が付かず…。」
「いいんだよ。ルルを責める気は、ないんだ…。ただ…除け者にされたような、気がして…。ちょっと、ショックだったんだよ。」
「…ごめんなさい。私、今までと同じつもりで…女子会のつもりで、おりましたので…。よく考えましたら、美和乃さんの彼氏も来られますのよね…。他にも男性がおられた方が、良いですわね…。」
本当に、私ったら…気が回っておりませんわねえ。樹さんだけにお話しなければ、優しい樹さんがショックを受けられるということを、私は…全く分かっておりませんでしたわ…。美和乃さんも彼氏が来られるのですから、私達の方にも何人か男性がおられた方が、矢倉君のお話し相手となられますもの。麻衣沙は、そういう事に気付かれたのかしら?…それとも、単に…岬には嘘を吐きたくないからと、お話されたのかしら?…後でお会いした時に、聞いてみましょう。
「樹さん。岬さんも、いらっしゃるのですか?」
「うん。勿論。岬も…麻衣沙嬢のことが、心配で仕方がないんだよ。この前は、麻衣沙嬢が…危ない目にも遭ったからね。」
「…えっ?!…麻衣沙が…危ない目に!?……樹さん、どういうことですの?」
「あれっ?…ルルは…聞いていなかったのか…。余計なことを…言ったかな?」
…ええっ!?……本当のこと…なんですね?…麻衣沙ったら、どうして…言ってくださらなかったの?
樹さんが、麻衣沙に起きた事件の一部始終を、詳しく教えてくださいます。如何やら、私がショックを受けて、1人だけ早く、帰宅した日の出来事のようでして…。ああ…。私が先に帰らなければ、あの事件は…起こらなかったかも…。麻衣沙は、ショックを受けた私の為に、私を…喜ばせようとして、1人で街中に向かったようですもの。あの私へのご褒美として貰った物は、危ない目をしてまで、買ってくださった物でしたのね…。
因みに頂いた物は、可愛いキャラのぬいぐるみでしたのよ。態々、前世の世界で、私が好きだったキャラに似た物を、探して来てくださったのね?…私のことをそこまで心配してくださって、ありがとうございます、麻衣沙!!
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頂いた時には、偶然見つけた…と仰っておられたのは、彼女の優しい嘘でしたのね…。危ない目をした事を私が知れば、私が悲しむと思われて、内緒にされたのですよね?…本当に…麻衣沙は、不器用過ぎますわ…。それでも、そんな彼女をよく理解してくださる、岬さんという婚約者がおられて、心から良かった…と思いましてよ。…ふふふっ。
それにしましても、麻衣沙がこのような危ない行動に出られたのは、全て私の所為ですわね…。私がショックを受けた為に、彼女がこういう思い切った行動に、出られた訳ですし…。…などと、私が落ち込んでおりますと、そんな私の様子を見ておられた樹さんが、謝って来られるのです。
…はて?…何故、樹さんが…謝られるのかしら?…抑々、何が原因で…ショックを受けておりましたのかしら?
「……ルル。ごめんね……。俺が…2人だけで行こうと、無理矢理に約束させたから、麻衣沙嬢が遠慮してくれたみたい…なんだよ…。だから、君の所為じゃないんだ。これは…完全に、俺の所為なんだよ…。麻衣沙嬢に何か遭ったら、俺が岬に抹殺されていたよ…。」
「………。もしかして…何かありました?…岬さんと……。」
「……ああ。岬に一発、顔を…殴られた……。お前の独占欲が、こうした事態を招いたと、言われたよ……。」
「………。」
あちゃ〜。岬さんに…殴られましたか…。それで、あの日(※麻衣沙の事件の翌日)は…お顔が少し、赤くなっておられましたのね…。お顔の腫れは、既に引いておられましたが、イケメンなお顔が大丈夫で、良かったですね…。
そうでした…。私、すっかり忘れておりましたけれど、あの例のお店へ行くのを、麻衣沙に断られましたのよ。樹さんと2人で行く約束をされられてしまった為に、麻衣沙が勝手に誘えば、彼女が樹さんに怒られてしまう…と、いうことでしたわ。エリちゃんを誘われ、私だけが…女子会に参加が出来ない状況に、ショックを受けましたのよ…。樹さんの所為と言えば、そうなるのかしら…。
それでも、何となく…樹さんの行動が憎めなくて、彼の所為だけには出来なくて、ついつい樹さんのお顔に…手を伸ばしてしまいましたのよ。自分でも不意に……。何をしたかったのかは、決して…分からないではなく、彼の殴られた個所…既に赤みは無くなった頬に、自らの手を伸ばして…摩ってみたのです。もう、痛みはないでしょうけれど、少しでも和らぐようにと。
当然の如く、私の不意の行動に…驚かれた彼は、目を真ん丸に見開いて、私の顔を呆然と見つめておられます。今の私には、目の端に映ったその光景よりも、頬の方が重要で…。この時の私は、完全に感覚が麻痺していたのでしょう。真顔で…こんな行動を、サラリとするなんて…。その時は、彼のお顔は大丈夫なのかと、確かめたかったのでしょうね、どうしても……。
私は暫しの間、彼の頬を撫でていたようですわ。樹さんは、私の撫でる手に甘えるように顔を摺り寄せられ、その反動で私はビクッとなり、漸く自分の暴挙に…気が付いたのでした……。ここは、我が家の客間であり、今は…誰もおりませんので、よ…良かった…ですわ…。どなたにも見られなくて…。恥ずか死ぬところ…です。私は慌てて、自分の手を引っ込めたのですが、気持ちよさそうに(?)、いつの間にか目を瞑っておられた岬さんと、その時に目を開かられた瞬間、バッチリ目がお合いしまして、私は恥ずかしくて…真っ赤になりましたのよ…。
…いやいや……私!…私は、何を…しているのかしら?……いくら婚約者と申しましても、婚約者の頬を撫でるなど、もう…お互いに、子供ではありませんのに…。樹さんも…樹さんですわ!…何故…そんなにも気持ちよさそうに、目を閉じて…受け入れられていたのですの!…し…信じ…られませんっ!…ひ、ヒロインにもそういう破廉恥なことを、させる気なのですの!?
「……いや、流石に…ルルだから、その…許したと言うか……。い…いや、抑々だが、ルルにしか…そういう事は、許さないから…ね?……それに、これくらいでは…ちっとも、破廉恥なんかじゃ…ないからね?」
「………。」
如何やら…私の心の声が、漏れていた模様です…。私の心の声に、樹さんが応えてくださいますが、その…照れたお顔で、弁明されるのは…ちょっと…。お顔が赤くなられるまでは、許容範囲なんですけれど、テレテレ…と言いますか、モジモジ…と言いますか…。そういう動作を樹さんにされますと、気味が…悪いのですが…。あっ…。またまた…心の声が漏れてしまったようで、ガ~ンと仰って…凹む樹さんは、今…何歳なのですの…?…それ、おやじギャグみたいで、古臭いです…。
…あっ……。今度は、止めを…刺してしまいましたかしら……。
ルルの思わぬ行動に、樹が違う意味で、振り回されておりますね…。
ルルが自覚する日は…まだ遠そうな気配………。




