第32話 告白を致しましょう!
今回、前半までは、第30話後半からの続きです。
前半は瑠々華、後半は麻衣沙視点となります。
「そこで何だが、ここでの話はまだ、誰にも言わないでくれないかな?」
「ここでのお話…ですか?」
…はて?……ここでのお話って、何でしょう?…ここで私がお話した内容は、乙女ゲームの概要でしたわね?…誰にも話さないで…ということですが、麻衣沙やエリちゃん達、乙女ゲームに登場するキャラに、転生したお人ならば、知っておりますけれど。樹さんの言葉に納得出来ずに、首を傾げておりますと、彼はハッとしたようなお顔をされます。
「ああ、言い方が悪かったかな。今日ルルが、乙女ゲームの内容を俺に話した、ということが…ここでの話なんだよ。岬や他の攻略対象は、知らないんだよね?…特に岬は、麻衣沙嬢から話を聞きたいと思う筈だ。だけど、君が彼女に話してしまうと、俺にバレたのだから、岬にも話すべきだと彼女は思うだろう。要するに、麻衣沙嬢の意思で岬に、告げてほしいんだ。岬も、それを望んでいる筈だから。」
「つまりは、岬さんも…私達が何か隠していると、お気付きなのですね?」
「うん、まあ、そういうことだね。岬が麻衣沙嬢に、悩みを相談してほしい…と伝えたことは、本人から聞いている。だから、俺も…2人の意思を、無視したくないんだよ。」
「そういうことでしたのねえ。そういう事情がありますのならば、麻衣沙には言いませんわ。勿論、エリちゃん達にも。」
…何だあ〜。ここでのお話って、私が樹さんにバレちゃって、乙女ゲームの内容を打ちまけてしまったこと、だったんですね?…本来ならば、麻衣沙にもご報告すべきでしょうが、麻衣沙と岬の間で、そういうお話になっておりますのなら、今は…ご報告すべきではないでしょう。ご報告致しましたら、樹さんが仰られる通り、麻衣沙は…心の整理がつかないまま、岬さんに告げられることにのでしょう。これでは、麻衣沙も岬さんも、お互いの本心が伝わりませんものね…。
そう納得致しまして、樹さんに「了解ですわ。」とお伝えしますと、彼は明らかにホッとされましたわ。…あっ。でも、私は嘘が下手過ぎでした……。麻衣沙は、私との付き合いも長い為、直ぐに見破られてしまうかもしれません…。
「大丈夫だよ。ルルの嘘は分かりやすいけど、麻衣沙嬢は…今は、それどころではない筈だから。」
が〜ん……。樹さんにまで、私の嘘が分かりやすいと、言われちゃいました……。私の嘘は、誰にでも即バレちゃう…ということですの?…ショックですぅ〜〜。私、暫く…立ち直れない……。何て、思っておりましたけれど。
「……ルル。え〜と、元気出して!ほらっ、君がこの前食べたがっていたケーキを、お土産用に包んでもらうから、家に帰ってから食べるといいよ。…だから、元気出してほしいな?」
……はい!!…元気…出ました!…私が食べたかったケーキを、お土産用にしていただけるのですよね?…わ〜い!嬉しいですわ。樹さん、ありがとうございます。…という風に、食べ物で釣られる私は、単純明快ですよね…。結局、私の機嫌は完全に復活致しまして、ケーキもお土産用に、いくつか見繕っていただきます。
「ねえ、ルル。これで安心してくれた?…俺が、ヒロインや他の女性に好意を持たないことが、立証されたかな?」
「いいえ、まだですわ。もしかしましたら、まだNewヒロインが、ご登場されるかもしれません。その時、樹さんが一目惚れしないとは、限りませんでしょう?」
「……そのことだけどね、どうもゲームの強制力はないようだし、俺が一目惚れすることは、ないと思うよ。それに…Newヒロインが登場しようと、俺はヒロインのような女性には、興味がないよ。」
「樹さんは、本当に…お優しいですよね。私に、同情は要りませんのよ。ゲームの強制力がないのでしたら、尚更に…樹さんのお好きなお人と、恋愛してくださいませね?」
「………。」
樹さんは、私にお気をつかわれて、ヒロインには惹かれないと…仰るのですが、どうしてそこまで気を使ってくださるのかしらね…。まあ、私が邪魔をしないことをお伝え致しましたので、これで悪役令嬢としての仕打ちは、心配しなくても良いかもしれませんね?
「…分かったよ。今は…そういうことに、しておこうか…。」
何となく…お元気がごさいませんわね、樹さん…。肩を、ガクっと落とされて…。どうされたのでしょう?…乙女ゲームでの役割は、樹さんにはキツイのかしら…。お優しい樹さんですから、他の攻略対象とヒロインを巡って争うなんて、お辛いのかもしれませんわ。特に、岬さんと争うなんて、きっと…心を痛めて見えるに違いありません…。私で良ければ、相談ぐらいは…乗って差し上げますわよ?
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私は今…追い詰められております。あれからも、頻繁に送信されるメールに…。おはようメール、お休みメールだけではなく、外出先で撮られた写真付きのメールに、食事の写真付きのメール、それには必ず最後に、「君は今、何をしているのだろう。」と、書き添えられてありまして…。
ルルとエリちゃんとご一緒したプチ旅行の時にも、メールが送信されて来まして、岬さんには旅行とはお伝えしておりませんので、ちょっとドキッとしてしまいましたわ。矢倉さんと美和乃さんにもお会い致しましたし、その後無事に、自宅に戻って参りました直ぐ後、自宅に戻ってしばらくして、樹さんのお帰りメールが…。
「麻衣沙、お帰り。旅行は楽しかった?」
その一文を読みました時、心臓が止まりそうになりました…。何故…それを…。…ハッ!?……まさか、岬さん、本当に私達の後を、追い掛けて来られましたの?!そういう具合に、私は1人…パニクっておりました。…ん?…まだ、メールの文章が…続いておりました…。
「樹が、瑠々華さんが心配だと言って、追いかけて行ったんだけど、大丈夫だっただろうか?」
……ああ。なるほど…。そういうことですのね…。樹さんが…。やはり…来られておりましたのね…。岬さんは来られておられないご様子で、ホッと胸を撫で下ろした次第です…。岬さんが追い掛けられて来られていましたら、わたくし…監視されているように、感じてしまいます…。監視されるのは…嫌ですわ。樹さんの監視対象は、ルルですから…。ルルには、ご同情…致しますけれど。
「ご心配をしていただいて、ありがとうございます。旅行というほどでもないのですが、お土産もお渡ししたいですし、近日中にお会い出来ますか?」
「俺は君の為ならば、何時でも都合を付けるよ。明日はどうかな?」
「はい、お待ちしております。」…と返信致しまして、ふうっ~と息を吐きます。旅行のことまでバレてしまったのでは、樹さんは近いうちに、ルルを問い詰められるかも、しれませんわね…。でしたらわたくしも、そろそろ…決意しなければ…。岬さんには、明日全てをお話致しましょう。
そうして決意した次の日、岬さんは訪ねて来られました。先ずはお土産をお渡ししまして、雑談からお話に入ります。雑談が切れたところで、実は…という感じで、わたくし達が転生者であること、この現実世界が乙女ゲームに激似であること、岬さん達は攻略対象であり、わたくし達が悪役令嬢であること、後…取り敢えずは、樹さんと岬さんのルートなど、簡潔に分かりやすくご説明致しましたわ。
勿論、今回の目的もお伝えしております。わたくしのお話を聞かれておられる間、彼は目を瞑り黙って聞かれておられます。わたくしが話し終えますと、目を開けられ…ジッと、わたくしを見つめて。それから、漸く口を開かれましたのよ。
「なるほど。漸く、君達2人の行動が、理解出来たな。前世の乙女ゲームか…。そういうことか…。君が俺に会った時の反応も、瑠々華さんが樹に会った時の反応も、ゲームでの俺達に…復讐されたことが、原因だったんだな…。」
「…申し訳ございません。現実の岬さんには、何も…罪はないことは、理解しておりますわ。ですが、ゲームの強制力が怖くて、もしかしたら…と思っておりましたのは、否定致しませんわ。」
「……今も?…ゲームの強制力は、ないみたいだが…。それでもまだ…信じられないのか?」
「…自分でも、よく…分からないのです。どのように岬さんに、接したら…良いのか…。多分、ルルはゲームと同じだと思い込むことで、樹さんにご対応され、わたくしは…岬さんとは距離を置くことで、冷静に…なれましたのよ。ゲームの強制力がないことは、もう分かっております。ですが……。」
「…麻衣沙。もしも、この世界を前世の記憶に持つ転生者が、君達前世の世界に生まれ変わり、ぼんやりとした記憶を参考に、その乙女ゲームを作ったのだとしたら、どう思う?」
「……えっ?…そのようなこと、考えたことも…ございませんでしたわ…。」
岬さんの仰られる通り、わたくし達と反対に、この世界からわたくし達の前世に、生まれ変わる可能性もなくは…ないのです…。そう考えましたら、この世界とゲームの内容が異なるのは、当たり前なのですわ。この世界も、紛れもない現実世界なのですから…。
「それに、この世界には、君達以外の他にも、転生者がいるのは、珍しい話ではない。暗黙の了解というヤツだ。」
「………。」
…えっ?!…わたくし達の努力は…何でしたのかしら……。その時、目の前の岬さんが、動かれる気配があり…。わたくしには、温かなものに包み込まれたような…感触が。…えっ?…ええっ!?…岬さんに、抱き締められております…わたくし?
その瞬間、彼がわたくしの耳元で、こう仰られたのでして………。
「麻衣沙……好きだよ。……君だからこそ、好きなんだ…。」
……と。呟くように…。掠れた声で…。わたくしだけが、聴き取れる程度に…。
副タイトルで期待された方々には、申し訳ありません。告白でも、乙女ゲームと転生者という…事実での告白が、メインでした。
ですが、主人公・瑠々華と樹の仲の方は、全く進展しておりませんが、ダブル主人公・麻衣沙と岬の仲には、進展がありました。到頭、岬が、麻衣沙に…告白をしました…。これも、副タイトルに含まれた意味の1つでして。
これで、ルル達は兎も角、麻衣沙達は…進展がある筈(?)……。
※この作品の今年の更新は、これが最後となります。明日は、『婚約破棄する期間は、まだ締め切っていませんが!?』の年末番外編を投稿予定です。宜しければ、そちらもご覧くださいませ。




