第31話 乙女ゲームを壊したい!
第30話後半からの続きです。いつも通り、主人公視点となります。
樹さんは、私が誘うことには…縁がなさ過ぎる、とでも…言いたいんでしょうか?私は…ジトっとした目付きで、彼を見返しますと。彼は…慌てた素振りをされまして、今…ご自身が仰った言葉を、否定されますのよ。
「…い、いや…誤解だよ、ルル…。ルルがそうゆうのに縁がない、と…言ったのは、ルルが思っているような意味で、言った訳ではないんだよ。ルルが…誰かを誘うような、そんなふしだらな女性じゃなかったなあ、と改めて思って……。自分で訊いたものの、ルルの答えを聞いて…安心したんだよ。だから、ルルが思っているような意味では…ないんだよ。」
…ああ。そういう意味だったのですね…。樹さんの慌てぶりに、何だか…可笑しくなって来ましたわ。私がクスクス笑い出すと、今度は…彼の方が、拗ねたような表情をされていらっしゃいます。私は余計に可笑しくなって来て、もう笑いが止まりません。
私が笑っている間、ブスッとされておられましたけれども、漸く笑いが収まった私に対して、樹さんは真剣な表情で暫しの間、私をジッと見つめられて、漸く…言葉を紡がれましたのよ。
「それよりも…ルル。君達は一体、俺達に…何を隠しているのかな?」
私はこの彼の言葉に、頭の中が一瞬にして、真っ白になってしまったのです。無理もありませんわ。樹さん達に隠し事をしているのが、バレてしまったのですもの。最近は、特にヒロインの存在を気にしてましたから、樹さんには「(気になるお人がいるのならば、)私のことは気になさらないでくださいね。」と、頻繁に告げておりました。彼が…女性のどなたかと、一緒におられるのを見る度に。
心優しい樹さんでも、きっと私の言葉は…不審に感じられたのでしょう…。ああ…失敗でしたわね。自分がヒロイン枠から出たいばかりに、樹さんに責っ付いてしまいましたわ。怪しく思われるのは、仕方ありませんよねえ。私、自慢ではございませんけれども、嘘を吐くのが下手なのですもの…。
私はどうやって、誤魔化そうかと思っておりましたが、それは…樹さんの言葉に、掻き消されてしまったのです。彼の意外なセリフによって。
「ルルと麻衣沙嬢は、今年に入ってから、誰かを…探していたよね?…誰を探しているのかと思っていたら、男女のカップルを探し当てたようだった。けれども、それは男女カップルならば、誰でもいいというわけではなく、細かい条件を付けてまで、使用人に探させていたよね?…然も、先に探し出した男女カップルの女子高生とは、妙に仲良くなったようだし…ね。」
…ひええ〜〜〜!!……どうして、こうも明確に…お知りなの!?……ああ。これは、バレている…という言葉では表せない程に、樹さんは…完璧に掌握されておられますよね…。
「最近は3人で、泊りがけの遊びに行ったと思ったら、また知らない筈の誰かと会っていたよね?…今度は、男女のカップルの2人と。これまた…会った途端に、急に仲良くなったみたいだし、頻繁に連絡取っているみたいだよね?…以前に会ったことがある、という訳ではないよね?…だって彼らは皆一般市民で、俺達とは個人的に一切関りが無い筈の人達だ。俺も岬も知らない人物と、君達がコンタクトを取ってまで、何故だか直ぐに、仲良くなっている訳を、是非とも…知りたいんだよねえ?」
「…っ!?………」
バレてる、バレてる!……ひいぃ~~~!!……これって、白状しないといけない感じ…だよ~。……どうしよう!…この場には、相談しようにも…麻衣沙が居なくて、私…最大のピンチ!なんだよね…。私がいくら誤魔化しても、嘘を吐くのが下手な私では、直ぐに嘘だとバレてしまうし…。どうしたら…いいの!!
「ねえ、ルル…。君は…俺を、信頼してくれないの?…だから、俺に何も話せないのかい?…麻衣沙嬢も、同じ気持ちなのかな?…岬は真面目だとは思うけど、真面目過ぎて信じてもらえない、とか思ってる?…だとしたら、違うよ。彼は確かに真面目だけど、彼女の言う話に耳を傾けない程ではないし、融通が利かない訳じゃないんだよ。俺も、ルルが言う話ならば、信じるよ。ルルや麻衣沙嬢が、大事な話で嘘を吐く人物ではないことは、これでもよく知っているんだよ。それでも…俺が信じられないのかな、ルルは…。」
「……!!………」
私が汗をダラダラ流しながらも、黙ったままの状態なので、樹さんは…自分が信頼出来ないのかと、不安そうに聞いて来られます。…えっと~、そういうことでは…ありませんのよ…。私はただ…どうしたらいいのか、分からなかっただけでして。樹さんの所為では…決して、ございませんのよ…。
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今日の樹さんは…卑怯ですわ…。私や麻衣沙が大事な嘘は吐かない…とか、自分自身のことよりも岬さんのファローをされたり…とか、自分達が信じられないの…と、とっても悲しそうなお顔をされたりと、そのような言動をされましたら、私だけが…悪いみたいでは、ないですか…。
「俺や岬に相談してほしい…。どうしても俺が駄目なら、岬には話してほしいんだ。岬なら、君達を傷つけるようなことは、決してしないからね。だから、安心して…岬に相談してくれないかな?」
「………樹…さん……」
目の前に座っておられる樹さんは、お顔を歪めて…苦しそうに、そう語られましたのよ。自分に話せなくとも、岬さんには相談してほしい…と。どうしてそこまでして、悪役令嬢である私達を?…麻衣沙、ごめんなさい!…私、これ以上は、樹さんに嘘が吐けませんわ!…貴方に相談もなく決断して、申し訳ございません…。
「樹さん、今まで…色々と、ごめんなさい…。私と麻衣沙は…実は、転生者なんですの。此処とは微妙に違う世界の、記憶を持っているんです。要するに…前世の記憶がある、転生者なのです…。この世界は私達にとっては、前世で遊んでおりました、乙女ゲームに似た世界なのですわ…。」
私は漸く覚悟を決め、樹さんにそう語り始めたのです。当の樹さんは、唯々…黙ったまま、私の話を聞いておられます。ジッと私の顔を見つめたまま…。嘘を吐いていないかと、一切見逃さないというように、確認するかの如く。私は淡々と、前世と現世の違い、私の覚えている限りの前世の記憶、そして…乙女ゲームのあらすじを、簡単に語っております。全てを話し終えますと、樹さんは…まだ黙ったままでおられます。ジッと見つめて来る樹さんに、私は耐えられなくなり、途中から私は目線を床下に向けて、語っておりましたのよ。
ですが…何も返答もない樹さんに、呆れられているのかと不安になりまして、恐る恐る目線を上げますと、樹さんは目を瞑って…おられて。…えっ?…退屈過ぎて…うたた寝されている、とかではありませんよね?…そのくらい、彼はジッと動かれませんでしたのよ。
私が声を掛けようかどうか迷っている間に、多分…優に5分くらいは、時間が経っておりますでしょうが、樹さんの目が開いて…真っ直ぐに、私の目を見つめられまして。そのお顔には、軽蔑したとか呆れたとか、馬鹿にされている感じはなく…。え~と、そのご反応は…。どういう意味が含まれていらっしゃるのでしょうか?
「この世界には、前世という記憶を持った転生者も、何人か存在すると言われている。その人物達の中には、君と同じく…ゲームの記憶がある、と語る男女も若干存在するらしい。俺は…実際に、転生者と言う人物に会ったのは、君が初めてだ。案外といるらしいとは聞いているし、君がそうだったという以外は、あまり驚いてはいないんだよ。…そうか。乙女ゲーム…ねえ。この世界にも存在する物だから、言葉自体は知っているけど、自分が登場人物…いや、攻略対象とは。あまり…面白くない話だな。然も、ルルや麻衣沙嬢が…悪役令嬢だなんて。君達の前世の世界の乙女ゲームを、壊しに行きたいぐらいだよ…。」
「………。」
…え~と。何から…突っ込んだら、宜しいのでしょうか?…私の頭が混乱中です。前世の記憶がある転生者が、案外と…他にも存在されておられます…ですと?!…その上、乙女ゲー&ギャルゲーの記憶がある転生者が、意外にいます…ですと?…更に樹さんは、私達の前世の世界の乙女げーを壊しに行きたい…ですと???
「あの…転生者って、意外とおられますの?…知られても…大丈夫ですの?」
「…ああ。ルルは…知らなかったんだね?…そうか、だから隠していたのか…。この世界が前世と変わりない世界なのは、大昔に転生した人物が関わっている、と言われている。つまり、この世界には定期的に転生者がやって来て、転生前の世界と同じような世界に発展させた、と言われているんだよ。人物名は秘匿されてはいるが、俺達がその気になれば何時でも、どこの誰かは把握出来るんだよ。表向きには隠されてはいるけど、完全な秘密という訳ではないんだよ。」
「………。」
樹さんの素晴らしいご説明に、私は思い切り…脱力致しました…。一体、私達の努力は…何だったのでしょうか?…バレないようにと行動していた努力を、返してほしいですわ…。
「ああ、でも…。君達が隠していたのは、決して無駄な努力ではないよ。君が話してくれた内容に依ると、俺達の個人情報が含まれていた。特に隠しキャラとされた彼は、実は学園の方の申請にも、秘密にしている事項があるようだし、ゲームの内容を公表されるのは、彼には…ある程度、不味いことだったと思うよ。」
…ああ、なるほど…。無駄の努力では…ございませんでしたのね…。……ほう~。樹さん。ナイスフォローを、ありがとうございます。
前回は番外編として、『閑話』が入っております。
前々回の内容から続く形と、なりますね。
到頭、樹に…バレてしまいましたね。まあ、これで反撃開始(?)が可能になりました…かも?…さて、これから、瑠々華は…どうするのでしょう?




