第30話 私の嘘が下手過ぎて…
いつも通り主人公視点となります。
前回の続きは、前半部分までです。後半からは、後日のお話の内容です。
「本当に手強いな…。彼が…苦労する筈だよね。ここまで言っても、自分のことだと気付かないとは、予想外過ぎだよ……。」
…はて?…光城さまの仰られる意味が、私にはよく理解できませんわ。一体、どういう意味ですの?…先程まで、光城さまが隠しキャラとして、ヒロインと出逢ったというお話でしたのに。これって、ヒロインと隠しキャラの出逢いイベント、ですよねえ。ということは、ヒロインの今後の対応で、隠しキャラのイベントが変わって来る、というお話でしたわね。
……ふむ。ヒロインの印象が悪すぎますわ…。分かっていた結果では、ございますけれども。それにしても、悪すぎでしょうね、これは……。彼のヒロインは、嫌われ過ぎ…でしてよ…。
…手強い?…彼が苦労する?…自分のことだと気付かない?…予想外過ぎる?
全く何のことだか、私には理解出来兼ねますわ…。抑々、私に仰っておられる訳でも、ないでしょう。ヒロインのお話…にしては、噛み合わない気が致しますし…。苦労しているらしい彼とは、誰のことなのでしょう…。光城さまでも、予想外のことがございますのね?……意外ですわねえ。
「…意外ですわあ。何でも熟される光城さまでも、予想外のことが…ございますのね?」
「え~と、君が……そう言うんだね…。」
「……はい?」
「…いや。君は…そういう人だよね…。…うん。まあ、いいか…。」
「……???………」
声に出して申し上げましたところ、光城さまが一瞬だけ目を点にされ、目を大きく開いてまん丸にされておられます。その後直ぐに苦笑されまして、私の言葉に呆れられたと言いますか、がっかりされたと言いますか…。肩を落とされたように感じられまして。…あれっ?……もしかして私、失言致しましたかしら…?
何を失言したかも分からず、私はキョトンとした表情を、彼に向けておりました。彼は、そんな私の顔をジッと見つめられてから、はあ~っと溜息を吐かれまして。あらっ…これは、樹さんも…よくされる行為ですわ。そう言えば、麻衣沙も…そうでしたわね。あれれっ?…何時ぞやは、岬さんも…されていたような…。最近は…エリちゃんも、こうして溜息を吐かれたような気が……。ええっ?!…もしかしなくとも…私の所為でしたの?……が~~~ん。
「…瑠々華さん。君が落ち込むと、何だか…俺が虐めたみたいだから、止めてほしいよ。それに、君には…何時でも、笑っていてほしいかな?」
「……!?………」
明らかに、ショックを受けたような私の態度に、光城さまが私を励ますように、仰られますが…。光城さまが虐めたみたいって……。いやいや、何時も私を…揶揄ってみえますよね?……私の方こそ、止めてほしい…と言いたいのですが…?
私が何時でも、笑っていてほしいって……。樹さんもよく仰られるセリフでしたので、思わず…ドキッとしてしまいましたわ。…あわわっ。まさか、光城さままで仰るとは、思いもしませんでしたもの…。
私の笑顔って、そんなに可愛いとか?……いえいえいえ、そんな訳が…ありませんよねえ。だとしましたら、男性が女性を口説き落とす時のセリフ?…いやいや、余計に意味が分かりませんわ…。…ああ!もしかしましたら、私がヒロイン化した所為かも、しれませんね?…それでしたら、誰か他の人がヒロイン化すれば、そのお人がNEWヒロインとなりますのね?
…うん。よしっ!……私が、NEWヒロインを探し出しますわ。もう少しの間、待っていてくださいませね、樹さん。それから…光条さまも。きっと、お2人が真に望まれるお人を、見つけておみせ致しますわ!…必ずや、私が叶えてお見せしましょうぞ。な~んてね。
私は、ヒロインの座から逃げることばかり、考えておりました。ヒロインの地位に座る自信が、全くなかったのですわ。それほど私にとっては、ヒロイン役の荷が重い訳でして、前世の記憶にある劇のヒロイン役の出来事が、まだ…私の心に刺さっているのです。
何となく…前世のあの子が、彼のヒロインと重なってみえる時も、ありましたけれど。現実のあのヒロインより、遥かにマシですが。それでも、私はあの子とは、もう…仲良く出来ません。今は…あの子が、私を利用した…と気付いてしまいましたから。
どちらにしましても、前世に帰ることは出来ませんし、もう二度と会わないお人です。生まれ変わって巡り会いましても、今は…エリちゃんもおられますし、麻衣沙以上の親友は…おられませんものね?
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今日は樹さんに誘われ、この前のお店に来ております。「今度また来よう。」と仰られた通り、前回来てからそう経っておりません。いえね…連れて来てくださるのは、非常に嬉しいのですけれども、悪役令嬢ではなく…正規ヒロインをお連れくださいませ。…と言いましても、私もまだ探し出せてはおりませんが。
中々…乙女ゲームのヒロインと同じお人は、見つかりませんのよねえ…。性格が似ていても、お顔やスタイルなどのご容姿が全く異なる…とか、ご容姿が似ていると思えば、性格は似ても似つかない…だとか、意外と…ゲームのヒロインは、理想が高く作られている模様でして。
乙女ゲームって、男性向けではなく女性向けの筈なのですが、ヒロインの肩書は…確か、『何処にでも存在する平凡な女の子』でしたよね?…平凡な女の子がモテる主人公という問題は、
平凡の女の子=一般市民、という意味ではないでしょうね?…と勘繰りたくなりますわね。実際には、『何処にでも居そうで、何処にもいない女の子』だと、私は思うのですよねえ。ゲームクリエイターさん達(多分、全員男性だと思われる)の異性に対する理想が高すぎて、こういう人物像になっていそうな気が致します。
攻略対象である男性陣は、クリエイターさん達の理想ではなく、女性が好む人物像に設定したのでしょう。これならば、女性受けしているのには、納得ですものね。ゲーマー達がヒロインに成り切る訳ですし、乙女ゲーム的には…平凡な容姿では、一般受けされないのかもしれませんね…。ゲームと言えども成り切る人物は、美人さん若しくは、可愛い系になりたいのが、女心ですわよね。
そう考えますと、乙女ゲームにしてもギャルゲーにしましても、女性向けも男性向けも、よく作り込まれているのかもしれません。実は…現世にも、これらは存在しているんですよねえ。流石に、現世の今の家柄で、乙女ゲームが出来る環境ではありませんし、乙女ゲームをしたいと思える環境ではなかったので、現世ではゲームを見たこともありませんけれど…。
そんな余裕が、ございませんでしたのよ。前世の乙女ゲームの対策に、四苦八苦しておりましたもの。ですが、気には…なっていたのです。乙女ゲームがしたいとかではなく、単に…前世と現世のゲームの違いを、知りたかったというのが本音ですわねえ。今更、ゲームをしてみたいとは思いませんけれども、ゲーム事情が知りたい気持ちはありますので、自分の問題が落ち着いたら、調査したいと思っておりますのよ。もしかしましたら、私が前世で遊んでいた乙女ゲームが、存在していたりして…。…などと期待もしておりますわ。
「ルル。昨日、ダンススクールに行ったんだってね?……それで今日は、ルルは…誰とペアを組んだの?」
「……えっ?!……それは…勿論、ダンス教室の講師である先生ですわ。」
「…ふうん。俺はてっきり…この前一緒にスクールに顔を出した時に、俺達のダンスを熱心に凝視していた人物、かと思ったんだが。…違うの?」
「…っ!?………。」
いけない!……今は、樹さんとご一緒している、最中でしたわ…。私の悪い癖ですわ…。つい、他のことを考えてしまうと、その思考に熱中してしまうのですのよ。突如として、樹さんからダンス教室の踊りのペアを訊かれまして、心臓が跳ねてしまいましたわ。いつもは何も気にされませんのに、どうして今日はそんなことを、お尋ねになられるの?
私は努めて冷静な態度で、ダンス講師と踊った…と、誤魔化しますが…。今日の樹さんは、それでご納得されないというお顔をされており、私の返答に疑いの目を向けられておられます。
…ううっ。…これは、乙女ゲームのヒロイン云々のお話どころでは、ございませんわね…。完全に…疑っておいでですもの。私は返答に詰まってしまい、目線がキョロキョロしてしまいます。これでは…嘘だと、言っているようなものですよねえ。自分でも分かってはいるのですが、前世から私…嘘が下手なんです……。
「…やっぱり、彼と…踊っていたんだね?…彼は確か、『光条 徳樹』と言う名前で、俺達と同じ大学の2年生の生徒だったかな。大学からの外部生であり、大学ではいつも、女子生徒を侍らせている…不真面目な生徒、だよねえ。そんな彼が、どうしてルルと同じダンススクールに、通っているの?…彼が通い出したのは最近だと、聞いているんだけど。まさか、ルルが誘ったとか…じゃないよね?」
「…!……ち、ちが…違いますわっ!…私は…誘ったりなど……。」
「…ふう~。そうだよね…。ルルは…そうゆうのには、縁がないよねえ。」
……ああ。バレてしまいましたわ…。学年が違うというのに、樹さんはよく知ってみえますのね…。ダンススクールに通うようになった時期も、何故か…知っておみえだとは。……ん?……縁がない?…私が誘うことに縁がない、と言いたいんですね?
…ちょっと~~。…酷くないですか?……樹さんのお言葉でも…酷いです……。
前半は、瑠々華と隠しキャラとの遣り取り、後半は、瑠々華と樹の遣り取り、となっています。隠しキャラとの接点が、到頭…樹にバレました。
樹との遣り取りは、次回も続きます。




