第28話 バレて…元々でした?!
いつも通り、瑠々華視点となります。
今回も、新しいキャラが登場します。前半最後で…出て参ります。
「それが…ヒロインの正体なんですか?…ゲーム通りでもない…人を馬鹿にしたようなヒロインに、大事な聖ちゃんを渡したくありません!…私は…戦います!…大事な聖ちゃんは、私が守ります!」
そう言い切られた霧島さんは、肩で息をするくらいに、必死に力説されましたわ。一瞬の間、呆気にとられた私達…私と麻衣沙とエリちゃんでしたが、すぐに我に返り、「おおっ!」と、彼女に賛同致しましたのよ。思わず、私達は拍手を送りましたのよ。
次の瞬間、霧島さんは何を思われたのか、「すぐ、来て!」とスマホで何方かに、ご連絡を入れられましたのよ。あまりにも行き成りでしたので、私達もお止めする暇がありませんでしたわ。…え〜と、何方に…ご連絡されましたの?…他の転生者には、これまでお会いしたことがなかった筈…。…転生者以外を…お呼びになられたとか…。まさか、この場に…?
「…霧島さん。何方を…お呼びになられたのか、お伺いしても…?」
麻衣沙が1人冷静に、彼女を問い質されます。私もエリちゃんも、困惑していて、全く戦力になっておりませんからね。…う~む。霧島さん、只者ではありません。そして彼女のご返答は、更に私達を…混乱させたのでしたわ…。
「はい。私が呼んだのは、今…話に出ていた『聖ちゃん』です。」
「「「………。」」」
…ええっ?!…何で、選りに選って…攻略対象を呼ぶの〜〜!?…流石に、呆然となりましたのは、私だけではなく、麻衣沙もエリちゃんも…でした…。麻衣沙は逸早く復帰されまして、霧島さんに問い質されましたのよ。
「…霧島さん。彼に、転生者だと知られても…良いのですの?」
「あっ、そのことなら…彼は疾うに、知っていますからっ!…子供の頃に、私が変なことを言ったんで、彼に問い詰められたんですよねえ。実はその時に、バレてしまいました!」
「「「………。」」」
…何ですと~~!?……攻略対象が…知っておられますと?…霧島さんが…転生者だと、バレているのですか?…然も、子供の頃に?…それって……もしかして、それで…攻略対象が、転校しなかったのでは……。あっ、でも…親の転勤でしたし、子供が転勤出来ないようには、止めようがありませんよね。そう…この時は思っておりましたが。
「もしかして、それって、彼の親の転勤と関係ありますか?…乙女ゲームでは、確か…彼の親が転勤となり、彼もヒロインの学校に…転校した筈ですよね?」
今度は、復活したエリちゃんが質問されました。あっ、私と同じ疑問を感じたんですね?…でも、エリちゃんは確かめたんですね。そして…霧島さんは、またまた…私達が思いもよらぬせりふを、仰られたのですわ…。…はあ~。
「ああ、聖ちゃんのお父さんの転勤ですね?…あれは、偶然も重なって、転勤が無しになったんですよ。彼のお父さんの会社で、転勤する人は本当は…別の人だったんですよ。ところが、その人が…転勤出来ない理由が出来て、代わりに聖ちゃんのお父さんが転勤となる筈で。私、その事実を知らずに、聖ちゃんに転勤するんだよねって、訊いてしまって…バレちゃいました。…あははっ。それで、その後は聖ちゃんが、転勤する予定の人の問題を解決して、本来通り…そのの人が転勤したんですよ。だから、ヒロインのお隣に住んでいる家族が、その一家なんですよ~。」
「「「………。」」」
……お~い!…それっ、早く言ってくださいな…。乙女ゲームにも載っていない、情報ですよね…。元々転勤予定だった家族に、何か問題が起こり、代わりとして攻略対象の一家は引っ越した、と。現実では、もともと転勤予定の一家が、予定通りに引っ越した、と。ヒロインのお隣に引っ越すのは、同じ条件なんですね…。
然もこの時に、うっかりミスで、霧島さんが転生者だと…攻略対象にバレて、攻略対象は引っ越してなるものか…と、思ったかどうかは知りませんが、自分達一家が引っ越さないように、解決したとは。…う~ん。これ…どう解釈すべきかしら?
今から攻略対象が来られるので、本人に確かめてみるべきかしら?…霧島さんはやはり、私より何倍も天然ですわねえ。いくら何でも…私、転生者だとはバレておりませんもの。
その時、貸し切っているお店が、バタンゴトンという大きな音を立てて、乱暴に開けられましたわ。乱暴に開けられたせいで、扉がまたバタンと閉まる、大きな音が響きます。しかし、乱暴に開けた張本人は、そのまま真っ直ぐに大股で、こちらに向かって来られまして。
「……はあ、はあ、……。美和!…今すぐ来いって、何か…遭ったのか!?」
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今、乱暴に扉を開けて入って来られたのは、最後の攻略対象さんです。霧島さんの幼馴染&同級生でもある、『矢倉 聖武』君ですね。なるほど…。漸く…最後の攻略対象さん、ご登場ですのね。短く切った男子らしい髪型に、今時の若者らしい服装の彼。イケメン度は、樹さんや岬さん、そして光条さんには劣るものの、それなりに整っておられます。樹さんと岬さんがモデルっぽい雰囲気だとすれば、光条さんはアイドルのリーダーみたいな存在で、写真で拝見した右堂君と、今目の前にいらっしゃる彼は、アイドルグループの中の1人、というところでしょうか。
「聖ちゃんに、一刻も早く…知らせたかったの。ヒロインの性格が…性悪らしくて、聖ちゃんが言ってた通り、引っ越さなくて良かったみたいだよ。」
「……はあっ?!…ヒロインって…あの…乙女ゲームとやらの?……今更、何を言ってるんだ?…もう、関係ないだろ?」
「それが、そうでもなくて…。まだ乙女ゲームが開始したばかりだから、ヒロインは今年の春から来年の春まで、登場するって。まだ安心出来ないんだよっ!」
今は、私達の席の通路を挟んだお隣の席に、矢倉君は大人しく座っておられます。美和乃さんが、矢倉君にご説明されますが…時々、彼女だけの説明では、埒が明かないご様子ですので、麻衣沙が補足されておられまして。彼は時折、眉を顰めたりされながら「何だ、そりゃあ…。」とか「はあっ?…今更かよ…。」とか、相槌の代わりにお1人で、呟かれておられます。如何やら、色々と納得がいかないご様子ですね…。
美和乃さんがお話し終えた頃には、矢倉君は頭を抱えられておられましたわね…。暫く額に手を当てて、お店の天井を仰ぐような体勢を、取られておられましたわ。漸く手を離されて、こちらに向けられたお顔は、それなりに整ったイケメンで、これならばモテますわよね。今のところ、美和乃さんが仰っておられた、彼の真面目だがお調子者タイプの面は、出ておられません。
「それで、君達が来たという訳か…。そのヒロイン、頭がおかしいとしか…思えないんだけど。それに、俺の一家が引っ越す予定だった町は、此処からだいぶ離れているし、日帰りで行ける距離と言えども、そう簡単に行き来できる距離じゃないから、ヒロインが来るのは…無理だと思う。」
「ええ。そうですわね。矢倉さんが仰られることは、御尤もですわ。ですが、彼女の行動は常識がございません。但し、彼女は貴方達のことは、完全には思い出せておりませんので、この町まで来られる可能性は低いですが、もし貴方達が…わたくし達の町、若しくは近辺の町へと、ヒロインの行動範囲の遊園地などに来られますと、遭遇される可能性は…高くなりますわ。」
「…ああ。なるほどね…。確かに…偶に、そっちの方へは、遊びに出て行くんだよなあ。その時、バッタリ会う可能性があるのか…。出て行かなければいい話だろうが、そっちに出て行った方が、俺達も色々と都合がいいんだよなあ。」
「そうだよねえ。ここら辺はそちらと違って、田舎みたいなものだから。話題の映画以外だと、そちらの方へ行かないと、やっていない映画とかもあるし。ここら辺は…不便なんだよね~。」
矢倉君は、ヒロインとの接点はないだろうと、思われたようでしたので、麻衣沙が油断は出来ないと、ご説明されましたのよ。…なるほど、なるほど。麻衣沙が仰られる通りですわね。ヒロインが来られなくとも、お2人が来られるのでしたら、何処で出会うか分かりませんもの。矢倉君もご納得されましたが、簡単に来ないようにしたいとは、出来ないご様子でして。美和乃さんも、映画で例えられましたが。なるほど~。そういう事情もございますのね?
「まあ、いっかあ~。要は俺が…ヒロインに、見向きもしなければ、いいんだよなあ。別にゲームの強制力はないんだろう?…だったら、俺がしっかりと拒否すれば、いいんだよなっ。俺の彼女は、美和なんだし。」
「…簡単に仰られますが、ヒロインの勢いは物凄いですよ~。私の婚約者が本命と仰いながらも、ハーレムエンドを目指してもみえる、ご様子なんですのよ。ですから、確実に矢倉くんも狙われておりますよ。実際に、私達の大学内を、探されておられましたもの。」
「…うげっ!?……マジかよ…。勘弁してほし〜わあ…。俺、自分がヒロインだからって、何しても許されるとか考える奴、マジで好きになれんわ。」
「いえ、大丈夫ですわ。私達も…同じ気持ちですので。」
矢倉くんが、簡単に考えておられるご様子でしたので、私がご忠告したのですが、私のお話を聞かれた彼は、真面なご反応です…。まあ、お気持ちは十分に分かりますので、ご同意して置きましょう。多分…彼が一番、ゲームのキャラ設定に近いのではないでしょうか?…ゲームでも、お調子者タイプでしたもの。
それでも、ヒロインと出逢う可能性を潰した彼は、ゲームとは異なり、既に美和乃さんが大切だったのでしょう。やはり、現実とゲームでは違うのかもしれません。
悪役令嬢の集いに、美和乃が聖武を呼んでしまいました…。
攻略対象がゲームの話に参加するのは、これが初めてです。
ある意味、瑠々華よりも…美和乃の方が、濃い天然さんですね…。




