第19話 ゲームと現実との違い
いつも通り、瑠々華視点となります。
大学の夏季休暇中の出来事です。
生徒達のお待ちかねの夏休みが、やって参りました。これで漸く、エリちゃんも夏休みとなられましたので、早速ですが作戦会議として、エリちゃん家にお邪魔しております。…ふ〜ん。これが、エリちゃんのお家ですか〜。…おお、ここがエリちゃんのお部屋なのですね〜。
私が想像した通り、どちらかと言えばエリちゃんのお家は、私の前世の家に近い感じがしますね。あまり…思い出せないけれど。懐かしいなあ…的なものを、感じております。家のチャイムを鳴らせば、エリちゃんが出て来られました。ご両親は、お仕事に行かれたそうですわ。彼女には中学生の弟さんがおられ、今日は部活に参加されているそうでして。因みに、私には年の離れた兄がおり、麻衣沙には他家へ嫁がれるご予定の、お姉さまがおられます。
私の兄は、ただ今海外へ留学中ですの。日本の大学には進学されず、アメリカの有名大学(※前世の欧米で有名なハーバード大学とかでしょうか?)に御入学されまして、今は欧米の大学にて、お勉強されておられます。私はブラコンぽい部分がありましたので、少し寂しいですね…。
麻衣沙のお姉さまは、私のことも実の妹のように接してくださる、おっとりした優しいお人です。実は彼女は、私の兄の婚約者なのですわ。兄が帰国次第、ご結婚されることになっておりますのよ。兄は来年の春にはご卒業なさるので、来年の夏までにはご結婚される予定なのですわ。…ふふふっ。これで麻衣沙ともご親戚になりますのね?
「まあ。ルルお姉様のお兄さまと、マイお姉様のお姉さまが、来年ご結婚されるのですね。うちは、生意気な中学生の弟ですが、私は前世では兄弟姉妹が居なかったようなので、あんな弟でも色々と心配しているんです。」
そう語られるエリちゃんも、前世の自分に関する記憶は、よく思い出せないそうでして。弟さんのことをお話される彼女は、はにかんだ表情で可愛らしいですね…。あ〜あ。私に妹がいれば、エリちゃんの弟とくっつけますのに…。残念だなあ〜。
まあ、それはさて置きまして、隠しキャラの大まかな詳細は、既に聞かされておりますけれど、エリちゃんから詳しい設定を、聞かないといけませんのよ。何となく嫌な気が、致しますのよね…。ですから、エリちゃんに頼み込んで、隠しキャラの情報を網羅したいと思いますわ。エリちゃん、宜しく!
「隠しキャラの設定ですが、お姉様達が調べられた通り、『光条 徳樹』さんで間違いないありません。お姉様達の報告書を私も見たので、あれっ?…て感じでしたが、光条さんの家庭環境は、この世界の現実とゲームでは、大分異なっているかなあ…。ゲームの彼は、家庭環境に重大な問題を抱えていました。彼は3兄弟の次男で、全員母親が違う異母兄弟でした。現実は、全員同母兄弟ですが。この違いから、彼の性格や状況も…違うみたいですね。」
なるほど、なるほど…。では、彼のあの軽いノリの性格は、ゲームとは違いますのね?…私が今まで接して来た、彼の様子を伝えますと、エリちゃんは微妙な表情をされていました。…はて?…何か問題でも、あるのかしらね?
「ゲームの彼は、チャラ男も…そういう環境の反動から来た、遊び人で。彼らの母親の中では、彼の母親が一番酷く、ホストクラブの年下イケメンと浮気…したんです。それで…女性不信になりかけて。父親の3人目の奥さんのお陰で、やっと傷が癒えて来て。だからと言って直ぐに、女性不信が直る訳でもなく、ヒロインにより彼の考えが変わって行くんですね…。だから、チャラ男も演技だっただけで、本当は…真面目な面を持った人でした。」
なるほど、なるほど…。チャラ男は…演技だった…のだと。母親の浮気で、女性が信じられなくなった、というヤツですか…。本当は、真摯で真面目なお人でした…と。……ん?…ちょっと、待って…。それでは、現実の…あの軽いノリのチャラ男は、何なの…ですの?…現実では、異母兄弟ではないんですよね?…女性不信になる要素は…無くない?…どういうこと!?
「…ルルお姉様?…どう、されました?」
「…ルル、この夏季休暇に入られてから、何がございましたのでしょう?…洗いざらい、全てお話してくださいませね?」
「………はい…。」
私のプチパニックに気が付かれた、エリちゃんが心配してくださっている傍らで、軽いブリザードを起こされた麻衣沙が、有無を言わせぬ口調で、私を脅し…いえ、何か遭ったのかと…訊かれまして…。麻衣沙には…バレバレですね。…がっくし。
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私は仕方なく、大学で絡まれたことがあること、同じ社交ダンスに入会されたことなど、光条さまとの最近の出来事を、全てお伝え致します。…あららっ?…麻衣沙だけではなく、エリちゃんまでもが、渋いお顔をされますね。…何か…嫌な予感が……。私の頭の中では、警鐘のサイレンが鳴り響いておりますわ…。感想をお聞きするのが、怖いかも…。
「…はあ〜。どうして直ぐに、ご報告されなかったの?…ルルの社交ダンス教室にご入会されること自体は、偶然とも言えなくないですが、毎回ペアで踊っておられる事実を、樹さんに知られましたら…どうされますの?…即刻、軟禁コースへの直行となりましてよ?」
…ひええ〜〜!?…私、麻衣沙に相談するのを、忘れておりました!…い〜や〜!軟禁されるなんて、嫌ですわ!…軟禁などされましたら、私…ストレス溜まって、死んじゃいます〜〜!…と、私は実際に声に出して、叫んでおりました。…はい、今回は…心の中の声では、ございません…。
「え〜と、落ち着いてくださいね、ルルお姉様。報告書に依りますと、現実の彼は元々、女性には誰にでも優しく、ノリも軽いチャラ男なんですねえ。ゲームとは異なり、女性と一線を越える火遊びする派手さは無く、一部の女性とは…真面目に付き合っていた時期も、あるようですね。」
なるほど、なるほど…。要するに隠しキャラは、ゲームではチャラくて火遊びもされておられるけれど、現実の彼は…そこまでの遊び人ではない、ということでしょうか…。火遊びしないならば良い…って、全然良くありません!…却ってヤバイ気がするのは、どういうことでしょうか?…火遊びでない方が、誤魔化しが効きません…とは、どうする…私。
「ゲームの彼のルートでは、街で出逢ってから再会した後に、順調に彼を攻略していればその途中で、彼が通っているという社交ダンスの教室に、ヒロインが誘われます。そこで2人でペアで踊り、好感度を上げるんですよね。ルルお姉様の場合は逆ですけど、これって…ルルお姉様に対して、光条さんの好感度が上がっている証拠では…ないでしょうか?」
「………。」
エリちゃんのお言葉を聞き、嫌な冷や汗が滝のように流れ出てくるのを、真っ青になりながら噛みしめた私。…そんなあ。ヒロインが攻略する内容と、似ているなんて…。私、ヒロインじゃないのに…。私が攻略するつもりは、全くないのに。どうして…なの?…現実とゲームとは異なっているというのに、似たような攻略ルートは存在するんですの?
「この前、マイお姉様にはお話しましたが、ゲームでのルルお姉様は、ヒロインの全体の攻略状況次第では、隠しキャラに対する悪役令嬢も、兼ねているんですよねえ。」
…オー、ノー!?…私、隠しキャラルートまで、悪役令嬢をしているの?!…何、してるの…瑠々華。完全に、目が死んだ魚のようになった私。エリちゃんが苦笑されながらも、そうなった理由を教えてくださいましたわ。なるほど、優しく扱ってくれたチャラ男くんに、恋しちゃうのですね?…って、これは…二股ですのね?…ゲームの瑠々華、気が多過ぎですよ……。
一応、死亡する結末は…ないようですが、光条家に乗っ取られて、私が下僕って…いつの時代の話なのだか…。別に自慢ではありませんけれど、私元々…折られるようなプライド、持ち合わせておりませんので、下僕になっても…悔しがりませんけれど、まあ…下僕になったら泣きますね…。普通に。だってえ、下僕になったら、何でも命令聞きます、っていう…あれですよね?…いやいや、私…それだけは嫌ですよ!…何、命令されるか考えただけで、怖いかも。無理、無理!
私は、首をブンブン音がしそうなくらいに振り、否定致します。麻衣沙とエリちゃんが苦笑されますけれども、私は大真面目ですのよ。いくら私が、流されやすいタイプと言いましても、無理なものは…無理ですのよ…。
「そんなにご心配をされなくとも、大丈夫ですわよ。ルルの今の立場は、どう見ましたも…ヒロインのお立場ですものね。悪役令嬢の結果には、繋がりませんことよ。寧ろ、わたくしの方が悪役令嬢そのもので、危ないのですわ…って、聞いておられませんわね……。はあ~。ルルは、早とちりし過ぎですのよ。」
私が…ヒロインの立場に?…私が…Newヒロインなんですの?…いやいやいや、私がヒロインなんて、有り得ませんわ!…ですが、振り返って考えてみますと、ご納得出来るような出来事も、ありましたわね…。…そんなあ。オー、ノー!?
…と、私は…自分1人の世界に、入っておりましたわ。私の脳味噌が、外部の情報をシャットアウトして、完全に頭の中が真っ白になっておりましたのよ。麻衣沙のお言葉も全く、耳に入って来ませんでしたの。麻衣沙から致しましたら、いつものことだと思っておられることでしょう。ですが…私にとっては…、この上もなく…ショックでしたのよ…。
暫く…私は、呆然としていた模様でして。帰宅したことさえ…覚えておりません。そのぐらい私には、ヒロインの役は…悪夢でしたのよ…。
夏季休暇中のプライベートな内容となっています。
ルルと麻衣沙が、念願のエリちゃん家に行きましたね。
隠しキャラのゲームルートについて、3人が話し合います。




