閑話1 イベント②の後では…
今回は、閑話として番外編扱いとなります。
(筆者よりの)第三者語りとなっています。
※少し前のお話ですが、イベント②のすぐ後の出来事となります。
「さて。ここならば、他の連中には…誰にも聞かれない。あの女が、最後に言い掛けた言葉が、どういう意味があるのか、何を言いたかったのか、分かっていることは…全て聞いてもいいかな、麻衣沙嬢?」
「ええ。了解致しましたわ。これは…恐らくなのですが、彼女…和田さんは、こう仰っておりましたのを、樹さんも岬さんも覚えておいでですか?『私…受験に落ちた理由が分かったわ。』と。」
「…ああ。覚えているよ。俺はあの時、『君の勉強不足だったからでは?』としか…理由が有り得ない、と思っていたからね。」
「ああ、俺も覚えている。俺も樹と同様に、『勉強していないから…か、自分の実力以上の受験だったから…か、それしかないだろっ?!』と思っていたよ。」
「わたくしも…樹さんや岬さん同様に、考えておりましたわ。まあ、普通に考えましたならば、それしかございませんものね?」
今この場所には、樹・岬・麻衣沙・瑠々華の4人しかいなかった。この場所は、大学の保養所の一室である。今現在は毎年行う、堀倉学園付属大学の新1年生の親睦を図る為として、大学の保養所にて合宿真っ只中であった。本来は、1年生だけが使用するのだが、彼の女性が…何かの旅行を企んでいるようだ、と報告を受けた樹は、大学の保養所に行くのではないかと、嫌な予感がしたこともあり、岬にも協力してもらい、3年生の一部生徒も急遽、保養所へ向かったのである。
本来、3年生は毎年、別の保養所を利用する。樹達は有志を募ることで、1年が利用する保養所には、樹達の学部だけでも行くことで、同意を得たのであったのだ。どちらにしろ、樹と岬にとって、3年の利用する保養所には興味もなく、ラッキーだったと思っている。そして自分達の予想通り、彼のヒロインが現れた為、自分達の婚約者を守れて良かったとさえ、感じていたのであった。
樹達の学部は理数系の学部である為、女子が元々少なくて、この保養所に来る際の有志にも、女子は募っていない。その為、こちらの保養所には3年生は男子だけが来ている。逆に、1年生は全員が参加である為、合宿を欠席していない限りは、男女全員が来ている筈だ。3年生の保養所には、樹と岬狙いの女子も行っており、嘸かし…がっかりしていることであろう。本人達は常日頃から鬱陶しく思っていたので、行けなくなったことに清々していた。正式な婚約者がいると知っていても、親が決めた政略的なもの、と捉えている女子生徒の…何と多いことか…。
さて、それはさて置き、ヒロインの言った言葉が気になった樹は、麻衣沙が此処では話せない、と言った言葉を酌んだ上で、自分の家である斎野宮家の名前を利用して、保養所の一室を貸し切っていた。ヒロインと会ったその次の日には、既に…。そうして、貸し切ったその日に、4人で集まったのである。あの時の話の続きをする為に。他の誰にも聞かれないように。
瑠々華はあの時、自分から聞きたいと言った為に呼ばれた、と思っているのだが、実はそれに関係なく、彼女は最初から此処に呼ばれる予定であった。何故ならば…彼女だけ1人で残すことは、この3人の考えの中にはない。瑠々華は思い付くと、何をするか分からないと、この3人からは思われていたのである。実際、彼女はそういう行動を何度も取っていた。ヒロインが現れてからも。隠しキャラを追いかけたことも、記憶に新しいこととして、麻衣沙は覚えているのだから。
4人集まったところで、樹は直ぐに聞きたかったことを、麻衣沙に質問すれば、彼女からは確認するかのように、ヒロインの言っていた言葉を覚えているかどうか、聞かれて。3人の認識が一致したところに、今度は瑠々華も会話に加わって、同意するのかと思いきや……。
「そうですわよね。私も、彼女は『勉強しなくとも受かる』と思っていた…と、考えておりましたわ。だからって、それなりに勉強しなくては、受かるものも受かりませんわよね?」
「「……?……」」
「……っ!………」
瑠々華の言葉には、各々反応が異なっており、樹と岬は…不思議そうに、瑠々華を見つめ返しており、それに反して…麻衣沙は、ギョッとしたような表情となりながら、慌てて瑠々華を振り返っていた。そうなのである。瑠々華は…微妙に、皆とは違った意見を、堂々と言ってしまったのだ。つまりは…乙女ゲームの知識がある為に、ヒロインの気持ちがよおく、分かっていたからであり。麻衣沙が慌てるのも…無理はないだろう。
麻衣沙の気持ちからすれば、「ちょっと、ルル!何を…バラシておりますのよ!」と、いった感じであろうか?
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「…ルルは、本当に面白いことを考えているんだね。あの女が『勉強しなくとも受かる』と思っていた、と言うのかい?……ルルは一体どうして、そう思っているのかな?」
「そうだな…。俺も、そういう発想には…ならなかったな。瑠々華さんは、面白い発想をするんだな…。俺も…ぜひ、どうしてそう思うのか、聞きたいかな?」
…ああ。ほらね…。頭を抱え込みたい気分の麻衣沙である。麻衣沙の心配した通りと、なってしまっていた。瑠々華の発想は、男性2人の興味を引いたようである。あれれっ?…これはヤバい?…と、漸く気が付いたらしい瑠々華。ついつい、乙女ゲームで知っていたヒロイン情報を使って、ヒロインの気持ちを考えてしまった…のだと。…え~と、どうやって誤魔化そうかな?…と、呑気に考えている彼女は。
「…いやですわねえ、ルル。それは、ルルがあの彼女を、買い被り過ぎましたのでしょう?……実は、あの女性が大学に入り込んだ時、ルルは何度か遭遇しておりますのよ。その時に彼女が、『勉強しなくとも受かる筈だったのに』とか言っておりましたので、ルルはそれを信じてしまったのですわ。」
「…ああ、なるほど。そういうことがあったんだね。そんなに…何回も入り込んでいたんだ…ね…。」
「…そういうことか……。あの女性は、そこまで…馬鹿だったのか……。」
瑠々華が応える前にと、麻衣沙は…現実を交えた嘘を吐く。彼女はあまり顔に出ない為、瑠々華よりは嘘が遥かに上手なのである。樹も岬も、麻衣沙の言葉を信じたらしい。唯の嘘ならば…バレたかもしれないが、実際に彼女は嘘に事実を混ぜることで、現実味を出したのであった。嘘がばれそうになった瑠々華は、呆気に取られているかと思えば、キョトンとした表情で首を傾げていた。よく分かっていない表情である。麻衣沙は、自分が助け舟を出して正解だった、と…ルルの様子を見て、そう感じていた。この瑠々華の状態であれば、藪蛇であったことだろう…と。
「それで、先程の続きなのですが、和田さんはその受験に失敗した理由を、伯父さまにお話になろうとしたのですわ。」
「…はあっ?…受験に失敗した理由?…彼女が、勉強しなかっただけだよね?…それを態々…言おうとしたの?」
「…まさか、あの女性は、『勉強しなくとも受かる筈だった』と、話す気だったのか?……態々…あの場で?」
これ以上、瑠々華が襤褸を出さないうちにと、麻衣沙が本題に入ろうとし、樹と岬は…麻衣沙の話す内容に困惑し、眉を顰めている。そんなことを、あの場で伯父に態々伝えたかった…のかと。乙女ゲームを知らない2人には、そう思えても仕方がない。乙女ゲームを知っている麻衣沙と瑠々華には、あのヒロインの行動は理解出来る。…いや、理解出来ると言うよりは、「ああ、そういう屁理屈なのね。」と、納得する範囲と言うべきか…。乙女ゲームを知っていればこその事情なのだ。
「ここからは、わたくしの想像ではございますが、本田さんは多分…こう仰りたかったのかと…。『私があの堀倉学園付属大に落ちたのは、樹さんと岬さんの婚約者の所為よ。彼女達が自分の家の権力を使って、私を落としたのよ。』」
困惑する樹達に、麻衣沙は核心部分に触れて行った。彼女が語るヒロインのセリフは、2人にとって…驚愕な内容だった。2人の顔から、全ての表情が抜け落ちた程である。呆気に取られ過ぎて、暫くの間…彼らは、口が聞けないようであった。
それ程に衝撃の内容過ぎて…。まさか、自分達の婚約者が原因だと言われるとは、夢にも思わなかったことだろう。あの場でその言葉を言われていたら…と思えば、2人は一気に青褪める。事実であろうとなかろうと、悪い噂はあっという間に広がり、面白半分で流されるからだ。大学の生徒は外部生が半数以上で、外部生は普段から内部生のことを、よく思っていない。面白可笑しく尾鰭をつけて、噂を嬉々として流すことだろう。
男性2人は、自分達が悪く言われるのには、慣れている。実際に自分達は今まで、邪魔な奴らを押し退けて来ており、言われても仕方がない。だが…婚約者の彼女達は、訳が違うのだ。樹も岬も自分自身よりも、自分の婚約者のことは大切に思っている。彼女達の評判に、傷をつけさせるなんて…とんでもない。然も、あの女に…傷をつけられるなんて、絶対に許せない!
徐々に冷静になって行くと同時に、怒りが…沸々と湧いて来て。2人の顔は…般若の顔よりも、恐ろしくなって行った。昨日のヒロイン母よりも。その所為で、瑠々華は…彼らの殺気に、敏感に反応してビクッとなり、小刻みに震えていた。
普段は冷静な麻衣沙も、彼らの表情に無言となり、若干…退いている様子で。
「……それでは、お話は済みましたわね。わたくし達は…これで、失礼させていただきますわね。」
そう宣言するなり、そそくさと婚約者達が去って行くが、暫くは…怒りが冷めそうにない、男性陣であった…。この後は…2人は、暗い笑みを浮かべていた…。
世にも恐ろし気に…。腹黒の樹も、腹黒ではない筈の岬も…。
…ヒロイン。貴方は、トンデモナイ人物達を敵に、回してしまったみたいです…。
副タイトル通り、イベント②の後に起こった出来事です。
筆者は見た!…という感じで、進めてみました。すぐ後で書く予定でしたが、完全に忘れておりました。




